バレンタインデー当日の朝。 周りの女の子を見ると大事そうに可愛い紙袋を持っている。 その中身はよく考えなくても分かる。 みんなが持っているのはバレンタインデーのチョコレート。 だけど私は鞄一つで登校。 ギリギリまで悩んで悩んだ結果、結局、買うことも作る事もしなかった。 今更ながら何かしら用意すればよかったと後悔してる。 『はぁ…、チョコ一つで変わる運命もあるのかもね』 憂鬱な気分だけど、いつものように昼食を買うためコンビニに寄った。 昼食を買うついでに目についたペットボトルのお茶に新発売のお菓子を手に取りレジに向かう。 あーあ、本当にいつもと変わらないな。 そう思うと自然に深いため息が一つ零れる。 会計を済ませていると、ふとレジの傍に設置されたバレンタインコーナーに気がついた。 『……チョコ、か』 コンビニで売っているチョコレートはシンプルなものばかり。 さすがに、これはなしよね? ……一応は本命な訳だし。 『……はぁ』 思わず、もう一度、深いため息を一つ。 手に取ったチョコレートを静かに棚に戻して学校に向かった。 「おはよう、名前ちゃん」 『ツナ、おはよう…って、何なのよ、あれは』 「あ、あれは見ての通りだよ…」 『………』 教室の後ろを見ると女子の群れ。 わーわーきゃーきゃー、その中心は山本武と獄寺隼人。 人気があるとは知っていたけど、あんなに囲まれるとはバレンタインデー恐るべし。 『雲雀さんを呼びたい位、群れてるね…』 「はは…、すごいよね…」 『ツナは何個、貰った?』 「……、……ゼロ」 『あー……、ごめん…』 「ちょっ、謝らないでよ!余計に虚しくなるから!!」 『大丈夫、まだ朝だから!放課後までには誰かに貰えるかもよ?』 「うぅ……」 『あっ、私、一限、サボるね。屋上に行ってくるー』 「えっ、サボるの!?」 『うん、じゃあねー』 ツナに手を振って教室を後にする。 本当はサボる予定ではなかった。 だけど、女子に囲まれてるあいつを見たくないため教室から遠ざかる。 私は階段を豪快に二段飛ばしで上り屋上へ向かった。 重たいドアを開けて屋上に出ると冷たい風が吹いている。 この時期に屋上は寒いかな。 そう思っても移動する気になれず腰を下ろす。 今朝、買ったお菓子を食べながら、ぼーっとひなたぼっこしていると屋上のドアが開いた。 「やっぱりここにいやがったな」 『……獄寺じゃん、あんたもサボり?』 「あぁ。」 『あんなに囲まれたら疲れるわよね』 「見てたのかよ」 『目に入らない方がおかしいわよ。…チョコ、何個、貰ったの?』 「受け取るかよ。バレンタインのチョコなんていらねぇ。」 『へぇ』 獄寺は当たり前のように私の隣に腰を下ろす。 そして、これまたいつものように煙草に火をつけた。 タバコの香りは好きじゃないけど獄寺の煙草は好きだと思う。 『……』 獄寺も煙草の匂いもあんなに毛嫌いしてたのに、いつの間にか好きになってた。 ちょっと前までは口喧嘩ばかりしてたのに、今は静かに隣にいるなんて何だか不思議。 少し懐かしいな。 「なぁ…」 『んー?』 「お前は誰かにチョコ、やらねぇのか?」 『……チョコねぇ』 渡したい奴なら隣でタバコ吸ってるんだけどね、肝心のチョコがないんだよ。 やっぱり、買っておけばよかったな…。 『…私が誰かにチョコを渡すようなタイプに見える?』 「見えねぇ」 『でしょ』 「あぁ」 『……』 はぁ、私って何でこんなに無愛想で可愛くないんだろう。 だからと言って、顔を赤くしてもじもじ答える私も微塵も想像できないけれど。 空しい。 空しすぎて冷たい風が余計に冷たく感じる。 これ以上、バレンタインデーを話題にしたくないから、私は話を変えるべく獄寺に話しかけた。 『獄寺、一応、学校なんだからタバコは控えなよ』 「屋上なら別にいいだろ」 『駄目だってば。口寂しいならこれでも食べれば?』 「今更だろ。でも、まぁ…、一個くれ」 『ん、どうぞ』 タバコを消すと獄寺はお菓子を受け取る。 獄寺はお菓子を数秒、見つめてから食べると予想通りに眉間に皺を寄せた。 「甘……」 『そりゃそうだよ』 「チョコ、だしな…」 『新発売だから買ってみたのよ、美味しくない?』 「まぁまぁだな。それより、名前…」 『ん?』 「…これ、バレンタインのチョコって事にするからな」 『………はぁ?何、言ってんの!?』 「一応、チョコじゃねぇか。つかお前、初めてなんじゃねーの?バレンタインに男に渡すの」 『……』 獄寺を見ると私が慌てているのが珍しいからかニヤリとしている。 あーあー、分かった。 からかわれてるんだ、私。 でも、獄寺がからかってこういう事を言うようには思えない。 『………』 "受け取るかよ。バレンタインのチョコなんていらねぇ。" 獄寺はさっき、そう言ってたわよね。 なのに私からのチョコレートはバレンタインのチョコとして受け取るの? 期待してもいいのだろうか。 だけど、私は素直に好きと言えない。 何故なら、こんなに余裕たっぷりの獄寺がムカつくから。 『…男にあげるの初めてだよ』 「はっ、やっぱりな」 『しかも、本命にあげるなんてね』 「……、……は?」 『………』 口角を上げて獄寺を見るとポーカーフェイスが崩れて顔が真っ赤になっていた。 どんなに小さくても安くても、愛を込めて贈れば特別なチョコレートになるのかもね。 もう一ついかが? 「あ、あぁ…食う。他の奴にやるんじゃねぇぞ!」 『あげる訳ないでしょ』 「そ、そうかよ…」 end 2008/02/13 ragazzo様参加 |