最近、付き合い始めた彼女の名前。 ぶっきらぼうに告白したオレを名前は受け入れてくれた。 OKしてくれた時、すっげー嬉しかったのに素直になれないオレは黙って抱き締めた。 その感触は今も忘れられない。 「……」 今日は名前の誕生日。 昨日までうんうんと悩んで、やっと買えたプレゼントは渡すタイミングが掴めずに放課後になった今も鞄の中で眠っている。 当の名前とは言うと特に誕生日を気にしていないのか、いつもと変わりない。 あいつの事だからプレゼント、プレゼントとうるせぇと思ってた。 煩く催促したらオレは「うるせぇよ、これをやるから静かにしやがれ」なんて、ごく自然に渡せたかもしんねぇ。 『あーっ、雲雀さんだ!かっこいい…っ!!』 「はぁ…っ!?」 突如、聞こえた名前の声。 今のセリフは放課後の掃除の最中、オレらの教室からだだっ広い校庭にいる雲雀に向けられた言葉だ。 校庭にいる雲雀を見ると群れ、もとい生徒をトンファーで咬み殺していた。 あいつの目には雲雀がどう映ってやがるんだ。 どこがかっこいいんだよ、ったく。 『ツナ、見てみて!超かっこいいんですけど!雲雀さん!』 「超怖いの間違いだよ、名前ちゃん!」 しかもオレが敬愛してやまない十代目を引き連れてきゃーきゃーうるせぇんだよ! 気にしないと思いつつもオレは苛々して仕方がない。 「獄寺、眉間に皺、寄ってんぞ」 「……」 「名前は本当、雲雀に夢中なのなー」 「ケンカ、売ってんのか?」 「はは、んな怒るなって!」 「………」 怒りたくもなるっつーの。 か、彼氏のオレを差し置いて、よりによって雲雀をかっこいいだなんて、んな事、ぜってぇ許さねぇ。 「おい、名前!いい加減、掃除しやがれ!」 『もーちょい!というか、獄寺も見てみなよ、超かっこいい!』 「学校命の奴なんだぞ!?咬み殺すとか物騒な事を言ってんだぞ!?意味わかんねーだろ!そんな奴のどこがいいんだよ!!」 「ご、獄寺君、落ち着いて!!」 「じゅ、十代目…ッ!!落ち着いてなんかいられませんって!って、聞いてるのか!おい、名前!」 『聞いてるってば!大丈夫!私が好きなのは獄寺だけだから!』 「なっ!!お、おま、お前…、そんな事、十代目たちの前で…っ」 は、恥ずかしい事、言うんじゃねーよ! 野球馬鹿にからかわれるだろうが!! 名前の一言でオレはカァァと顔が熱くなり伏せて隠した。 「獄寺君、顔、真っ赤だよ!?というか名前ちゃん、こっちをまったく見てないよ!?」 「はぁ!?」 背けた顔をバッと上げ名前を見ると、オレなんて眼中になし。 その視線は再び雲雀が独り占め。 一人、顔を赤くしていたオレ、バカじゃねぇか!? つーかバカだろ!? 『やっぱりかっこいいなぁ、雲雀さん…!!黒髪、つり目、クールな声!』 「……」 「そこら辺の芸能人よりかっこいいよね!』 「お、お前なぁ……!!オレの話を聞けよ!」 『わっ!?』 名前の腕をぐいっと掴んで窓から引き剥がす。 お前、小さいからな、簡単に持ち上がるぜ。 床に足が着かないようにすると、わーわーと騒ぎ出しだ。 『おーろーしーてーよー!バカっ!』 「誰が下ろすか」 『雲雀さんがーっ!!』 「だーかーらー!雲雀の野郎のどこがいいんだよ!」 『かっこいいじゃん!あっ、獄寺ってばもしかしてヤキモチ!?』 「ばっ!バカ!ちげーっての!」 『えー』 「あいつのどこがいいんだって聞いてんだ!さっきも言ったけどよ、意味が分かんねぇだろ!」 『獄寺だってツナラブだし果てろとか物騒な事を言ってるし、結構、意味が分かんないじゃん!』 「名前ちゃん…、ツナラブとか、その言い方はちょっと……」 「じゅ、十代目!オレが十代目を思う気持ちはそういうんじゃないッスよ!!」 「はは、どうかなー。獄寺ってツナの事になると見境なくなるからなー」 『あっ、やっぱ山本くんもそう思うー?』 名前はオレに持ち上げられたまま山本と普通に話している。 諦め早いっつーか、順応力ありすぎっつーか。 下ろされなくてもいいのか。 『ハッ!まさか、獄寺、私と付き合ってるのはカモフラージュ!?』 「あっ!?何、言ってんだよ」 『十代目に押し付けはよくねぇ、ならばせめて、この想いは…!!みたいな!』 「んな訳ねーだろ!つーか話ずれてるつーの!!」 『そんな事を言われても…、私は獄寺の事がちゃんと好きだよ」 「……っ」 『なんていうか、雲雀さんは芸能人みたいな感覚なんだってば!』 「…また意味が分からねぇことを言いやがる」 『かっこよすぎて、瞬間的にときめくの!テレビに好きな芸能人が出たらつい見ちゃうでしょ?そんな感じ!』 「はは、名前って面白い事を言うのなー」 『だから、獄寺がヤキモチ妬くことないから!ね?』 「妬いてねぇって言ってんだろ!」 『…じゃあ、下ろして?』 「お、おぅ…」 これ以上、話していても仕方ねぇから下ろすと名前は窓へと一直線。 窓にしがみついて、また雲雀を探しているようだった。 「お、ま、え、なぁ……っ!!」 『な、なに!?獄寺!?』 「今、言ったことを分かってんのか、お前…!!」 『分かる!分かってるよ!』 「だったら行くぞ、名前!十代目、すみません、今日はお先に失礼します!」 「う、うん、獄寺君、また明日…」 「夫婦ケンカはほどほどにしとけよー!」 「……っ」 夫婦ケンカじゃねぇ! そう、山本に言い残して名前の手を取り教室を出る。 下駄箱に着いたところで立ち止まると名前は不機嫌そうにオレを見つめた。 「な、なんだよ」 『獄寺のばか』 「んな!……つかお前、ちょっと黙れ」 『え……!?』 「……」 小せぇ身体をグッと引き寄せて唇を重ねる。 初めて重ねた唇はすっげぇ柔らかくて癖になってしまいそうな程に甘い。 離れると名前は顔を赤くして固まっていた。 『い、今……っ』 「…ー…謝らねぇからな」 『べ、別に謝らなくても、いい…っ、けどっ!!』 「……っ」 『…〜…!!』 「……名前」 『な、なに…っ?』 「…ー…ほらよ、これ」 『……っ!?』 オレは今日一日、ずっと鞄の中に入れてたものを差し出す。 名前は意味が分かってないようで頭にハテナマークを浮かべている。 『なにこれ…?』 「…今日、誕生日だろうが、お前」 『あ…、そういえばそうだった!……覚えててくれたの?』 「た、たまたまだかんな!」 『それでも嬉しい!』 名前はありがと、と照れくさそうに笑う。 それだけでオレは満たされる。 『開けていい?』 「あ、あぁ…」 『あ……、これ、指輪…?』 「……気に入らなかったかよ」 『ううん!嬉しい!ありがとう!あ…、じゃあ、せっかくだから獄寺が指にはめてよ』 「はぁ?んなもん自分でつけろよ」 『いーじゃん、ケチッ』 「な…っ」 名前はふてくされてそっぽ向く。 せっかくの誕生日なのにそんな顔はさせたくねぇ。 深く息を吐いて恥ずかしさを取っ払いオレは名前の手を掴んだ。 「ほら、貸せ」 『えっ!?』 緊張しながら手を取り指輪を指にはめる。 ……そこまではまぁ、よかった。 「……げっ」 『えっ、なに?どうしたの?』 「………」 『あ…、ぶかぶか…』 指輪は普通にしてたら指からすっぽり外れてしまう。 結構、小せぇサイズを買って来たのに女ってこんなに指が細いのかよ。 まずい、と思い名前を見ると機嫌を悪くする所か、くすくすと笑い出した。 『あははっ、獄寺、格好悪いー!!』 「う、うるせぇよ。いらねぇなら返せ!今すぐ返しやがれ!」 『貰ったものは返しませんー!指にはめられないならネックレスにするもん!これなら獄寺とお揃いっぽくない?』 「……リングは守護者ならつけてるだろ。」 『それじゃあ、雲雀さんも!?』 「お前なぁ!!」 『だってー!』 「……だったら!」 『なーに?』 「それは指輪じゃなくて、首輪決定だ!」 『く、首輪っ!?ひどいっ!獄寺、私を飼いたいの!?』 「んなっ!」 『あっ!今、やらしー事を考えたでしょ!』 「……っ」 名前は無邪気に笑う。 からかわれているような気がするけれど、これくらい、もう気にしねぇ。 傍に居て、お前に触れるのも、その笑顔が見れるのも、お前が好きだって言うのもオレだけだから。 この先もずっと。 「……」 HAPPY BIRTHDAY 名前。 そう、そっと耳元で囁いたら、名前は嬉しそうに笑ってくれた。 end 2007/7/16 |