付き合って恋人になったら何をする?

そりゃあ、男と女だ。

恋人になりゃ、そのうちただ一緒に過ごすだけにはならねぇだろ。

正直に言えばオレだって恋人の名前といて、こう…、な、なんつーか、変な気分になる。

開き直る訳じゃねーけど当たり前だ。
好きな女が傍にいて、ましてや想いが通じてる。

そして、手を伸ばせば触れられる距離にいるなら尚更だ。

それでも、手を出さないのは名前を大切にしてぇから。



……なのに、だ。



「シャマル、てめぇ、ふざけんな!」

「保健室に怒鳴り込んで来るなよ、隼人。つーか保健室は男は立入禁止だ。帰れ帰れ」

「んなもん、知らねぇよ!てめぇ、名前に何を吹き込んだんだよ!」

「名前ちゃん?」

「何か言っただろ…!!」

「あー、隼人が手も繋いでくれねぇって悩んでたからちっとアドバイスをしたぜ。悩めるレディーを放っておくなんざ、男のする事じゃねぇ」

「だから!どんなアドバイスをしやがったって聞いてんだ!」

「大体な、隼人、お前が悪いんだぞ。名前ちゃんと付き合って随分と経つのに何にもねぇとはなんだ!手くらい繋げ繋げ!何もしないよりよっぽど健康的だ!」

「何でそんな内容でてめぇに説教されねぇといけねぇんだよ!!」

『隼人発見!』

「うぉっ!?」



シャマルを問い詰めていたオレの背中に勢いよく抱き着いてきたのは苗字名前。

たった今、話題になっていたオレが付き合ってる女だ。



「は、離れろ…っ」

『やだっ』

「おーおー、名前ちゃん、さっそくやってるねぇ」

『シャマル先生、アドバイス、ありがとーっ!私、頑張るね!』

「頑張らなくていいっつーの!」

「むしろ、隼人が頑張れよ」

「な…っ!?てめぇ、ふざけんなっ!」

「名前ちゃん、隼人がうるせぇ。黙らせてくれ。」

『はーい!』

「ばっ!離れろ!強く抱きしめるな…っ」

『やだ!』



離れろと言っている傍から名前は抱き締める力を強くする。

いつもはここまでベタベタしてこねぇのにシャマルに何を言われたのか今日はやたらと積極的だ。

オレには刺激が強すぎて今日一日で寿命が縮まったんじゃねぇかってくらい脈を打った。



「……っ」



あぁ、くそっ!
今も背中に胸が当たってんだよ!気づけ、馬鹿名前!

そんな事は口が裂けても言葉に出来ずに、ひたすら顔を赤くしているとシャマルはニヤニヤしてオレを見ていた。



「てめぇ、楽しんでるだろ!ふざけんな!名前に何を言ったんだ!」

「アドバイスとしてはまず、触れ…、だな!」

「てめぇはいつもそればっかじゃねぇか!」

「スキンシップは大事だぞ。なぁ、名前ちゃん」

『ねー、シャマル先生!』

「……っ」



名前の奴、いつの間にシャマルと仲良くなってんだよ!

いや、それよりもまずはこの状態だ。

どうしたものかと悶々と考えてると、名前は背中に引っ付いたままオレの顔を覗き込んできた。



『だめ?』

「な、何がだよ…っ」

『抱きつかれるの、いや?』

「そ、それは、だな…っ」

「名前ちゃん、隼人は口に出さない…、いや、出せないだけで喜んでるから気にしないでいいぞ」

『本当?』

「昔から隼人を知ってるオレが言うんだから間違いねぇ」

「シャマル!てめぇは間違いだらけだ!」

『じゃあ、だめなの?やっぱり、いや?』

「く……っ」



嫌じゃねぇ。
そう素直に言ったら満足して離れるか?

いや、名前のことだ。
だったらいいよね、なんて言って離れないに決まってる。



「…〜…っ」

「名前ちゃん、もう一押しだ」

『もう一押し?何をすればいいの?』

「熱い抱擁の次はキッスだ!」

「シャマル、てめぇ、マジふざけんな…!!」

「だよなぁ」

「め、珍しく物分かりがいいじゃねぇか…」

「ここはやっぱり隼人から熱〜いキッスを名前ちゃんにするべきだ!」

「な……!?」

「隼人、キスでそんなうろたえてこれから先どうすんだ?」

「さ、さ、先も何も…っ」

「ない訳ないだろうが」

「……っ」



シャマルの言葉にあらぬ想像が頭の中に浮かび、顔が異常に熱くなる。

オレの考えた事を察したシャマルはまたニヤリと笑った。



「名前ちゃ〜ん、やらし〜狼さんに気をつけろよ」

「名前!もうシャマルの言う事なんざ聞くなー…って、ど、どうしたんだよ」

『……』

「名前…?」



オレの背中に引っ付いたまま、名前は静かになった。

今になってやっと照れてきたのか?

それともシャマルのでたらめな話を聞いて、オレの事を警戒してんのか…!?

いや、なら引っ付いたままでいるのはおかしいよな?



「おい、名前、一体……」

『隼人…』



振り返った瞬間、名前はオレを引き寄せる。

全てがスローモーションになり呆けていると、名前は自分の唇をオレの頬に押し付けた。



「……!?」



離れた瞬間、オレは慌てて後ずさって名前の柔らかい唇が触れた場所を押さえる。

心臓がバクバクバクバクとうるせぇが、ちゃちゃを入れるようなシャマルの言葉はしっかりと耳に届いた。



「な、な…っ」

『……』



固まって何も言えないオレを見て名前は照れ臭そうに笑う。

そんな笑顔を見せられたらオレは何も言えなくなる。

けれど、やられっぱなしは性に合わない。



「……っ」



ここがどこだろうが関係ねぇ。

オレは拳を強く握り、名前を引き寄せてキスをした。












距離が出来たら、きょとんとしている名前が可愛くて、オレは視線を泳がせて後ろ頭をかいた。



「も、文句あっかよ…」

『……ある』

「な、何でだよ!」

『何でほっぺなの!』

「そ、それは、だなぁ…」

『なに?』

「お、お前だって同じ事をしただろうが!」

『じゃ、じゃあ、私がちゃんとしたら、隼人も唇にしてくれるの…?』

「待て待て待て!それ以上は近づくな!思い詰めた顔して何をするつもりだ!」

『うー…、隼人は私のこと嫌いなの?』

「ばっ!何でそうなるんだ!」

「名前ちゃんは唇にチューして欲しかったんだろ。そりゃあ、付き合ってから何にもないんじゃ不安にもなるよなぁ」

「なっ!?」

「付き合って大分、経つのに手も繋げない彼氏を持つと大変だねぇ」

「つ、繋げねぇ訳じゃねぇよ!」

「赤い顔で言っても説得力ねぇぞ」

「……っ」

「大体な、隼人よ」

「な、なんだよ…」

「お前は何であの勢いで唇にいかねぇんだ!ここは男として名前ちゃんにがっつり応えて唇にキスする所だろうが!」

「…〜…っ」



だから、何でそんな内容でてめぇに説教されねぇといけねぇんだぁぁーっ!!

オレの叫びが保健室に響くがシャマルも名前も気にせず話を続けた。

本当、こいつらには敵わねぇ…!!



end



2012/07/19

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