六月。
梅雨入りしたら天気は雨ばかり。

今日は午前は晴れていたけれど、放課後である今は雨が降り出しそうな空模様。

傘は持ってるけど、なるべくなら降る前に帰りたい。

私の彼氏も同じことを思ってるのか、雨が降る前に早く帰るぞと急かされた。

そんな彼氏を見て、ふと不思議に思った。



「ぐずぐずしてんじゃねぇぞ、名前!」

『……』



改めて考えてみたら本当におかしいなぁ。

私の好きなタイプは優しい人だった。

別にお姫様扱いしてほしいって訳じゃないよ。

誰だって付き合うなら優しい人がいいなぁって思うものだよね?

例えるなら山本君。
爽やかで優しくて、まさに理想のタイプだ。
実際にあんな感じの人が彼氏だったらなぁって何度か思った事がある。

けれど、不思議な事に思っただけで好きにはならなかった。

そして、今現在、私の隣を歩いている彼氏はと言うと…



「んだよ、何、ぼけっとしてんだ?」



目つきはギンッとしていて眉間には不機嫌そうな皺。
首元や指にはジャラジャラとつけたアクセサリーが光ってる。

傍から見れば、私の彼氏、獄寺隼人は不良と言われる人だ。

優しい人は誰?と質問したら真っ先に思い浮かばない人物だと思う。



『んー、好きなタイプと好きになる人って違うなぁって思ったの』

「下らねぇ」

『私の好きなタイプならそういう事は言わないよ』

「あぁ?どういうのがタイプなんだよ」

『優しい人』

「なっ!お前、まさか十代目のこと…っ」

『は……?』



隼人の中では優しい代表は十代目こと沢田綱吉君らしい。

何やら綱吉君について熱く語り出して面倒な雰囲気になってきた。うわぁ、どうしよう。

ノンストップで十代目を語る隼人を引いた目で見ていると、私の視線に気づいたらしく彼が大声を出した。



「…っおい、聞いてんのかよ!」

『えっ?あー…綱吉君が優しいのはよく分かってるよ』

「…聞いてなかったな」

『あはは…、えーっと、なに?』

「十代目がお前を好きになる訳ねぇ!」

『そりゃそうだ』

「だから、お前も高望みはすんじゃねぇぞ」

『隼人の時点で既に高望みだったのに綱吉君、どんだけレベル高いのよっ!?』



優しいのは分かるけど綱吉君ってちょっと前までダメツナって呼ばれてたのに!

どう考えても女子に人気なのは隼人と山本君だよ!



「十代目だぞ!そんじょそこらの女が気軽に付き合っていい方じゃねぇ!」

『隼人はそんじょそこらの女でいいんだ?』

「何でそこに食いつくんだよ…」

『どーせ、普通だもん!』



本当の事だけど面白くなくて私はツーンとして隼人を追い抜かす。

後ろからは呆れたような溜め息が聞こえてちょっとイラッとしちゃう。

面倒くさい女だって思ってるんだろうな。



「名前、待てよ」

『隼人が遅いの』

「……たくっ」

『……』



短気な隼人のこと。
こんな態度をしたから怒っちゃったかな?

心配になって控えめに後ろにいる隼人を見る。

彼は後ろ頭をガシガシとかいて隣まで歩いて来ると、私の手を握って強引に歩き出した。



『なっ、ちょっと、隼人!』

「お前、オレの話を聞いてなかっただろ」

『綱吉君が優しくて奥ゆかしいって話でしょ』

「その後だ」

『後?』

「やっぱり聞いてなかったな」

『う…、ご、ごめん…』

「……」

『どういう話だったの?』

「お前は十代目に相応しくねぇ。」

『それはもう聞いたよ?』

「……だから、つまり」

『つまり…?…って、あっ、雨が降ってきた…』



隼人が続きを言おうとした時、雨がぽつりぽつりと降り出した。

私は慌てて傘を開いて、隼人も入るようにと声をかける。



「……」

『隼人?』



無言のまま私を見つめる隼人に向かって首を傾げて見せた。

すると彼は傘を持つ私の手を掴み、少し屈むと唇を私のものに重ねる。



『……!』

「お前にはオレが調度いいって言ったんだよ。」



唇が離れる際に耳元でそう囁かれた。

調度いいって言われても、私にとって隼人は高望みだって思うくらいの人なんだよ?

どう考えても、釣り合ってるとは思えないよ!



「だから、名前、オレだけを見とけ」

『……』

「な、何だよ、その顔は」

『…隼人って変な人』

「はぁ!?」

『だって、私みたいなの好きになるなんて』

「それを言うならお前だって変な奴だろうが」

『何で?』

「普通、オレなんかを好きになるかよ。大して優しくもねぇだろ」

『なるよ』

「な……っ」



即答したら隼人の顔が真っ赤になる。

私も釣られたように顔が赤くなっちゃう。

照れくさくって笑って誤魔化したけどドキドキしてる胸はおさまらない。



『…帰ろっ』

「……あ、あぁ」



雨が降る中、一つの傘を使って手を繋いで帰る。

隣を歩く隼人を見ていたら、胸の奥がくすぐったくなった。



「何、笑ってんだよ」

『ううん、何でもない!』

「…さっきまでイライラしてたくせによ」

『ふふっ、ごめんごめん』

「……ったく」

『……』



何気なく私の傘を持ってくれてる。

そして、私が濡れないようにと隼人は自分の肩を濡らしていた。












好きなタイプにぴったり当て嵌まってたね。

普段はぶっきらぼうで分かりにくいけど!



『隼人、肩、濡れちゃってるよ』

「いいんだよ、気にすんな」

『もっとくっつけば濡れないよ』

「なっ、おまっ、離れろ!」

『やーだ!』

「…〜…っ」



end



2012/06/29

prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -