私は並中ボクシング部のマネージャー! 授業が終わったら今日も元気にボクシング部へレッツゴー! なーんて、無駄に気合いを入れるのは訳がある。 それはボクシング部の部長である笹川君に片思いをしているから! ぶっちゃけて言えば片思い中である笹川君と一緒に過ごせる放課後が来て、やっと私の一日が始まったって気分になるんだよね! マネージャーになったのは彼のためという、とっても不純な動機だけどいいよね? だって、頑張ってる彼を応援したいんだもん! 『笹川君!こんにちはー、……え?』 いつもの通り元気よく部室の扉を開けたら、そこには笹川君とカンガルーがボクシングをしていました。 『………』 「む!名前!やっと来たな!」 パタン。 勢いよく開けた扉を静かに閉めた。 ありえない光景に頭が痛くなり額に手を当てて冷静に考えてみる。 ちょっと待って、ちょっと待って! 犬、猫、鳥あたりなら部室にいても分からなくはない。 迷い込んだのか拾ってきたのかと思う。 だけど今、部室にいたのは何? 『疲れてるのかな、ボクシングしてるカンガルーが見えるなんて…』 「名前!」 『うわぁ!』 「来たと思ったら扉を閉めるとは何事だ!部活に来たのではないのか!」 『え、えーっと…』 大声に驚いて振り向くと普段と変わらない彼が不思議そうに私を見ている。 やっぱり見間違いだったかな? 『……』 何をカンガルーと見間違うと言うんだろうか。 まぁ、とりあえずカンガルーがいるはずがない。 そう思っても念のため笹川君の後ろをそーっと見てみた。 「どうしたのだ?」 『………』 いる。 やっぱりいたよ、カンガルー!! 何で笹川君は普通にしていられるのっ!? 『な、なんで』 「ん?」 『何で、カンガルーがいるの…?』 「オレの友だからだ!」 『な、なーんだ、そうなんだ!そっかそっか…』 「面倒見のいい奴なのだ、今日は何故か誰も来ないから相手をしてもらっていてな」 『へぇー…』 「あぁ」 『って!納得出来る訳ないでしょ!カンガルーだよ、カンガルー!!』 笹川君の後ろに隠れながらこそこそとカンガルーを盗み見ると低い唸り声を出して私をギンッと睨んでいる。 威嚇?これって威嚇? 「そう、怖がるな、名前」 『で、でも…っ』 「大丈夫だ」 笹川君はふっと笑うとカンガルーと肩を組んで見せた。 すごくフレンドリーだけど怖いもんは怖い!! それでも笹川君は大丈夫だと言ってカンガルーの背中を押す。 カンガルーは笹川君の言うことをよく聞いて私の前に立った。 『あ…、えっと…』 「触ってみろ」 『無茶苦茶なこと言わないでよ…っ』 「大丈夫だぞ」 『う……』 大丈夫だ、と私を安心させるように微笑まれたら拒否なんて出来ない。 いつもの太陽みたいな笑顔とはちょっと違う表情に負けて、思い切って触れようと手を伸ばすとカンガルーは静かにして私を受け入れてくれた。 『あ……』 「大丈夫だと言っただろう?」 『う、うん。でも、カンガルーを触る日が来るとは思わなかったよ…』 「ははっ、そうか!」 『こんなに近くで見るのも初めて…、皆が来たら大騒ぎだよね』 「それが、もうとっくに部活の時間なんだが来ないんだ。だからつい、我流に相手をしてもらっていたのだ」 『我流って、このカンガルーの名前?』 「あぁ!漢我流というんだ!」 『へぇ…、というか皆、どうしたんだろう』 「そろそろ来るだろう。漢我流は匣に戻さんといかんな」 『匣?』 「な、何でもないぞ!それより少し後ろを向いてくれんか?」 『……?』 言われるまま後ろを向くと数秒もしないうちに「もういいぞ」と声をかけられる。 振り向いたら先程までいたカンガルーの姿はなかった。 『ど、どこに行ったの、カンガルー!』 「細かいことは気にするな!」 『細かくないよ!』 「それより、部活を始めないか?」 『それよりって…、っていうか笹川君…』 「どうした?」 『頬の所、擦りむいてる。赤くなってるよ』 「む!先程、我流との試合で擦りむいたのかもしれん」 『ちょっと待ってて』 私は救急箱を用意して治療を始めた。 最後に気をつけてねと笑顔でぺたんと絆創膏を貼付けて治療完了! 救急箱を片付けていると、やたらと静かになった笹川君に気づいて彼を見ると驚いたように目を見開いていた。 『どうしたの?』 「む……っ!」 声をかけたら、みるみるうちに顔を赤くさせた。 本当にどうしたというのか。 近づいて顔色を見たら、さらに赤くなった。 『大丈夫?』 「…っだ、大丈夫だ!」 『そう?具合が悪いなら今日は休……、あぁっ!?』 「ど、どうしたんだ?」 『今日、部活は休みじゃないっ!?』 「むっ?」 『テスト前だから…』 部活の予定が書かれているホワイトボードを目を向けるとそこにはテスト期間中とテスト前は部活は休みという事が大きく書かれていた。 沈黙が流れるのは数秒。 すぐに二人の笑い声が部室に響いた。 『あー、もう!だから皆、来なかったんだ!』 「しかし、テスト如きでオレの拳は止められんぞ!」 『だめだよ、テスト勉強しなきゃ!』 「明日からだ!身体が鈍ってしまうからな!」 『うわぁ、明日も同じこと言いそう!自主練しちゃうでしょ?』 「名前も明日も付き合ってくれるのだろう?」 『へ……』 ニッと曇りのない笑顔で言う笹川君には参っちゃう。 勉強しなくていいのかなぁ? でも、明日も一緒にいることが当たり前みたいに言ってくれて嬉しい。 『もちろん、付き合うに決まってるでしょ!』 「む!そ、そうか…!」 『……』 やっぱり、笹川君が好きだなぁって思ったら、ほんのりと頬が熱くなる。 照れを隠すように笑ったら、笹川君もまた笑ってお互いの拳を軽くコツンと合わせた。 まるでゆびきりげんまんみたいだね! 約束するよ! ずっと傍で君を応援するって! 「遅れてすまん!了平!結局、今日もこの青葉紅葉が拳を交えてやるぞ……と、ん…?」 『ぷっ』 「名前?何故、笑うんだ!」 『だ、だって、青葉君まで部活に…っ』 「僕が部活に来たら悪いのかっ!?」 『テスト前だから今日は休みだよ』 「なにーっ!?」 「帰って構わんぞ!オレは名前とトレーニングをするからな!」 「貴様、この僕を差し置いて名前とトレーニングなど十年早いぞ!」 「ならば勝負だ!名前には勝った方の専属マネージャーになってもらおう!」 「望む所だ!」 『二人とも何を言ってるのっ!?』 end 2012/01/22 |