三人の口喧嘩はいつまで続くんだろう。 さすがにこのまま静かに黙って見ているなんて出来なくて、私は一番近くにいた雲雀先輩に話しかけた。 『あ、あの…!!』 「ワォ、どうかしたのかい?」 『その……』 どうすれば皆は喧嘩をやめてくれるのかな? そもそもの原因は休日を誰と過ごすか、だったよね? 数秒、考えて思いついた解決策は一つだけ。 私は悩むことなく、思いついたことを言葉にしてしまった。 『えっと、出かけません、か…?』 「名前?」 「ちょっ、何を言っているんですか、名前!」 「だめだよ、名前チャン。僕と出かけようよ」 『だから、その……四人で…出かけませんか?』 「え………」 「……ワォ」 「そういうこと、ですか」 『……』 何か言いたげに私を見る雲雀先輩、苦笑いしている骸、びっくりしてる白蘭さん。 三人を見て首を傾げていると、白蘭さんは笑顔に戻って話を続けた。 「名前チャン、面白いことを言うね」 「群れるなんて嫌だよ」 「クフフ、僕だってお断りですよ」 『だ、だめ…かな?骸……』 「……!!」 『雲雀さんも白蘭さんも…だめ…ですか?』 「参ったな、ずるいよ、名前チャン」 「………本気?」 *** 皆で出かける事に納得してくれて、白蘭さんの提案で遊園地にやってきた。 ジェットコースターに観覧車、コーヒーカップにフリーフォール。 色んな乗り物の他に水族館もあるみたい。 こういう場所はあんまり来た事ないからすごく嬉しい。 だけど… 『ま、また始まっちゃった……』 「クフフ、観覧車だけは譲れませんよ。」 「僕だって二人きりで乗りたいなー、一週二十分弱だけど二人きりなんて滅多にないからね」 「……帰りたい。群れを見てると苛々するよ。でも、まぁ…観覧車なら邪魔な奴らはいないからいいね」 『あの、観覧車は乗らないで、他のー…』 「だめだよ、ここの観覧車は景色がいいって評判なんだから乗らなきゃ」 「そうですよ、名前…、綺麗な景色を君と見たいです」 「君だって乗りたいでしょ?僕が付き合ってあげる。」 『えっと、その…』 な、なんで、こういう時は意見がすぐに一致するの…っ!? みんなで出かければ少しは仲良くなるかなって思っていたけど、これは仲がいいとは言えない気がする。 『じゃ、じゃあ、四人…!四人で…っ!せっかく来たから、みんなで乗りたい、です…!』 「名前チャン、本当に君は予想外な答えで来るよね」 「狭い所で他の男が二人もいるなんて嫌だよ」 「クフフ、僕だってお断りですよ。では、ここは平和にジャンケンで決めましょうか…」 「ジャンケンね…」 「恨みっこなしって事でジャンケンで勝負だね。…あぁ、そうだ。ねぇ、僕は最初、グーを出すから」 「でしたら、僕もグーにしましょうかね」 「……そんな事を言って、僕が迷うとでも?」 「雲雀恭弥、ジャンケンと言うものは心理を上手く読み、確率を割り出せばほぼ確実に勝てるものなんですよ、クフフ…」 「そうそう、僕も正チャン達に負けなしだよ。」 「……」 少し離れた所で三人はすごく真剣に話してる。 じっと見ていると張り詰めた空気の中、ジャンケンを始めた。 三人の拳が振り下がると骸と白蘭さんは拳のまま。 雲雀先輩はチョキを出している姿が見えた。 「……」 「おやおや、雲雀恭弥、僕はグーと言ったのに何でチョキを出しますかねぇ」 「そうそう、人の言う事は信じなよー?素直じゃないねー、雲雀チャンは」 「……咬み殺す」 「クハハ…!!見苦しいですよ、雲雀恭弥!敗者は去りなさい!」 「負けた人はさっさと抜けてよー」 「……」 「さぁ、白蘭、始めましょうか…」 「少しは楽しめるかなー」 「クフフ、負けませんよ…」 負けてしまったらしい雲雀先輩を横に、骸と白蘭さんは真剣に向き合って話している。 そして、またジャンケンを始めた。 あいこが続いてるみたいで仕切り直したりして、何回も続いてる。 雲雀先輩はそんなやり取りに苛々しているのか、眉間に皺を寄せてこちらにやって来た。 「あの二人、馬鹿じゃないの」 『一体、何があったんですか…?』 「下らないことだよ。さっき真剣になった自分が恥ずかしいと思う程にね」 『ジャンケン、ですよね…?』 「そうだよ」 『雲雀先輩、負けたんですか…?』 「ジャンケンに負けただけであって僕は負けたつもりはない」 『……?何に、です?』 「君はまだ知らなくていいよ。それより、ねぇ、名前…」 『はい…?』 「僕らもジャンケンをしようか」 『へ……?』 「僕はグーを出すから」 『え?えっと……っ!?』 「……」 ふっと笑うと雲雀先輩は拳を振り下げた。 いきなり、ジャンケンと言われて戸惑ってしまう。 だけど、雲雀先輩はグーを出す、って言ってたよね…? だったら、私は…… 『あ……』 「……」 『勝っちゃった……』 「何でパーを出すかな」 『だ、だって、雲雀先輩はグーを出すって…』 「……」 『……?雲雀先輩、どうしたんですか?』 「…君には駆け引きなんていらないんだろうな」 『……?』 「早いもの勝ちって言うよね」 『…ー…っ!』 「行くよ」 雲雀先輩に手を引かれて人ごみの中に紛れ込む。 急ぎ足だけど、雲雀先輩がしっかりと手を握ってくれているから、はぐれることはない。 周りを見ると家族や恋人であろう男の人と女の人が仲良さそうに手を繋いでいるのが目に入り雲雀先輩と繋いでる手を見て少し恥ずかしくなった。 『あ、あの…っ、骸と白蘭さんは…っ』 「二人はジャンケンに夢中だからね」 『だからって…っ』 「せっかく、こんな場所に来たのに君が楽しめてないなら来た意味がない」 『雲雀先輩…』 「それとも僕とじゃ不満かい?」 『え…っ!?そ、そんなんじゃ……っ』 「…だったら、いいだろ?」 振り返って、瞳を細めて綺麗にふっと微笑む雲雀先輩。 今までにない程、ドキっとして言葉が出なくなった。 『……っ』 何で、こんなにドキドキするんだろう? 少し、急ぎ足だから…? だけど、そういうドキドキとは、ちょっとだけ違う。 胸の奥がくすぐったい。 頬が熱い。 もう一度、雲雀先輩を見たら、もっとドキドキした。 |