恋人の恭弥と同棲して半年。
群れるのが嫌いな恭弥が私と暮らすなんて今でも信じられないけれど、これは確かに現実。



「それじゃ、行って来るよ。二十時には帰るから」

『うん!いってらっしゃい!』



せっかくのお休みなのに恭弥は今日も任務で忙しそう。

最近、彼はほとんど休まない。
身体を壊すんじゃないかと思うけれど、どれだけ咬み殺しても、まだまだ足りないくらいらしい。

中学や高校、大学、同棲する前の方が一緒にいた時間が多かったなぁと思ったら自然とため息が出た。

こういう気分は私をあっという間に支配してしまう。
そして、決まってネガティブなことばかり考えちゃう。

飽きられちゃった?
もう私に興味ないのかな?
もしかして浮気とかしてたり、なんて。



≪ナマエ!ナマエ!≫

『ヒバード……、はぁ…、君のご主人には困っちゃうよね』

≪……?≫

「…って言っても分からない、か」

≪…?……?≫

『恭弥のばか…』

≪キョウヤッキョウヤッバカ!?≫

『ふふ…、内緒だからね?』

≪ナイッ?≫

『内緒だよ』

≪ナイショッナイショッ!!≫



ヒバードは私の言葉を何度も繰り返す。
胸元を撫でると気持ち良さそうに目を細めて擦り寄ってきた。



『……』



恭弥には恭弥なりの優しさがある。
他の人には見せない顔も私には見せてくれる。
だから、ちゃんと私を想ってくれてるんだって分かってる。

分かってるのに、寂しい。哀しい。
もっと傍にいて欲しいよ、恭弥。

一緒に住んでるからこそ余計に寂しくなる。
この部屋が広すぎるからかな…?



『はぁ……』

≪ミードリータナービクー♪≫

『……励ましてくれてるの?』

≪ナマエッナマエッ≫

『……ありがと』

≪……!≫

『さぁ、夕飯の買出しに行こうかな!』



買い物でもして気分を変えよう。

せっかくのお休みで、こんなに天気がいいんだもの。
少し遅めの朝ごはんを食べて洗濯して、買い物に出かけて今日は外でランチにしよう。
ちょっと贅沢してデザートつき!

そして、今夜の夕飯は恭弥が好きなハンバーグを作っちゃおう!
きっと喜んでくれるよね?



『……よし、お出かけしよっか!』

「オデカケッオデカケッ!」



こうして私は恭弥が帰って来るまでの退屈な時間はヒバードと一緒に出かけた。


***


予定通りにヒバードと出かけて夕方に帰宅。

それからは夕食の準備。
ご飯も炊けたしサラダもスープも完璧!
ハンバーグは後は焼くだけ!

だけど



『……準備は出来てても肝心の人が帰って来ないんだよね』



チクタクと時を刻む時計はただ今、帰って来ると言っていた二十時ジャスト。
恭弥はいつも時間通りに帰って来ない。



『……』



浮気とかではない、よね。うん、多分。
恭弥の事だから、きっと仕事だったり六道さんにからかわれてバトルにでもしているんだろう。



『……先にお風呂、入ろうっと』



お風呂に入ってる間にでも帰って来るかもしれない。
そう思っていたけれど、いつまで経っても恭弥は帰って来なかった。

濡れた髪を拭きながらソファーに腰を下ろして、たいして興味もないテレビ番組を見る。
テレビを見ているけれど私は恭弥のことばかり考えていた。

一人の時間は、とても長く感じてしまう。



『……』



お腹が空いたなぁ。
だけど、不思議と先に食べる気になれずにクッションを抱えてソファーにごろんと寝転がった。



『遅いよ、恭弥……』



目を瞑って恭弥の事ばかり考える。
こんなのいつもと同じことなのに何度も続くと考えてしまう。

付き合う前の方が傍にいた。
これじゃ一緒に暮らしてる意味がないんじゃないか、とか考えるとキリがない。

どんどんネガティブな考えが浮かんでは不安が生まれて胸が苦しくなった。

そんな時、玄関の方から物音がして瞳を開けた。



「ただいま」

『………っ!!』



玄関から聞こえる恭弥の声にガバっと起き上がる。

いけない、いけない。
今、泣きそうだった。

涙が出ていないか、目を擦って確かめる。
少しだけ目じりに溜まった涙を拭ってから小走りで玄関へと向かった。

沈んでいる気分を気付かれないように私はにこりと笑って迎える。



『おかえり、恭弥!』

「………」

『……恭弥?』

「あぁ…、ただいま、名前…」

『今日の夕飯、ハンバーグなんだ!すぐ用意するから食べよう!』

「…待っててくれたんだ」

『え……?』

「少し遅くなったから」

『あ…、あぁ、うん!だって、一緒に食べないと美味しくないでしょ!』

「それと、名前が失敗しなければね」

『な…っ!?』



やっと帰って来たと思ったら、恭弥は私をからかう。

いつも通りの私達だ。
これなら、きっと大丈夫。

ホッとしてキッチンへと向かおうとしたら恭弥が私の腕を掴んで止めた。



『…ー…!?』

「……」

『えっと、な、に…?』

「それはこっちのセリフだよ。何かあったんじゃないの」

『へ……?』

「僕に誤魔化しが通用するとでも?」

『あ…、え…っと…何にも、ない…よ?』

「嘘」

『……っ』



引き寄せられて抱き締められ指先でスッと目じりを触れられた。

さっき、少しだけ涙ぐんだ事に気づかれちゃった?



『きょ、恭弥……』

「目、赤い」

『え…っ』

「さっきから声も震えてる、それに…」

『……っ』

「顔も変」

『か、顔も変って…っ』



失礼な、という言葉はキスをされて口に出来なかった。

一瞬のキス、何度目かも分からないキスだけど私をドキドキさせるには十分すぎる。
サラリと髪を撫でられると胸の奥が熱くなった。



「無理して笑わないでよ」

『……っ』 

「何かあったのかい。それとも、僕のせい?」

『それ、は……』

「今更、遠慮するような仲じゃないと思うけど」

『………』

「言いなよ、名前」

『……、寂し、かったの』

「………」

『ここの所、特に…」

「……」

『一緒にいられなかったから、帰りも遅いし、心配で不安になっちゃって…』

「………」

『同棲する前の方が、一緒にいる、時間…多かった、から…っ』

「……そう」

『……っ』



あぁ、言ってしまった。
恭弥はこんなことを言ったらなんて思うんだろう。

うざいとか、面倒だな、って思われちゃうかもしれない。



『ご、ごめん……』

「…謝る必要ないでしょ、本当に馬鹿だね、名前は。」

『……っ』

「……もっと馬鹿なのは僕、だけどね」

『恭弥…?』

「僕は君が家にいるから安心するんだよ」

『安…心…?』

「あぁ、同棲してれば悪い虫もつかないだろ。」

『…私につく悪い虫なんていないよ』

「いるよ」

『……いないってば』

「いる」

『いない……』

「……いる」



いる、いないの繰り返し。
おかしくなって、ふっと笑うと恭弥も同じように笑った。

こういう何気ない時間が胸の痛みがスッと消してくれる。
嬉しくて、ぎゅっと抱き締め返すと恭弥もまた抱き締める腕を強めた。



「ねぇ」

『ん……?』

「…不安なら」

『不安なら…?』

「しようか。」

『……?何を…?』

「結婚。」

『………へ?』



あまりに唐突なプロポーズ。
つい、間抜けな声を出してポカンと口を開けて恭弥を見上げてしまった。

視線が重なると顔に熱が集中してしまう。
恭弥は顔を真っ赤にした私を見てクスッと笑うと、もう一度、キスをした。

愛してる、と囁きながら。












それは何年、経っても愛しい君の元。



end



2009/05/02
二周年フリリク企画
綾門ザキ様へ!
リクエストありがとうございました!

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