私達に少しの沈黙が流れる。 雨月は沈黙なんて気にしていないようで変わらず笑みを絶やさず私を見つめている。 そんな雨月に笑顔を返すと部屋の外から声が聞こえた。 「G、部屋の前で立って何をしているんだ?」 「……っ!!」 「何をそんなに慌てている。珍しいこともあるものだな。」 一世と……G? 一世は通りすがりだと思うけど、何でGがいるの? 「言ったでござろう」 『え…?』 ふと、先程の雨月の言葉が思い浮かぶ。 確か「そんな風だとGも心配になって仕事に集中が出来ないようでござるよ」って言ってたよね? もしかして、雨月は扉の向こうにいるGに気付いてたの? 「や、止めろ、一世!オレは仕事に戻る」 「いいじゃないか、茶に付き合うくらい……、ん?雨月と名前もここにいたのか」 『一世…』 一世に捕まったGは部屋の中に引きずり込まれる。 バツが悪そうなG、私と雨月を交互に見て一世は何かを察して微笑みを零した。 「恋人達の邪魔は出来ないな。雨月、オレ達は場所を変えないか?」 「それがいいでござる。馬に蹴られたくないでござるよ」 「あぁ、そうだ。笛の音を聴かせてくれないか、雨月」 「それはお安いご用でござる。」 「一世、雨月!どこに行くんだ」 「場所を変えるだけだ。たまには二人でゆっくりするといい」 「な…っ」 「じゃあな」 「それでは、また」 「…ー…っ雨月」 「ん…?どうしたでござる、G」 「どうした、じゃねぇ。さっきの言葉はなんだ」 「何の事か分からないでござる」 「しらばっくれるんじゃねぇ。名前と一緒にいるからだの言ってただろうが」 「やはり聞いていたんでござるなぁ」 「たまたま聞こえたんだ」 『たまたま?部屋の前にいたのに?』 「……」 Gが立ち聞きしてたのは分かってるけど、わざと気づかないふりして聞いてみたら、ぐっと口を閉じてしまった。 そんな私とGを見て一世はふっと笑っている。 「尻に敷かれるのも時間の問題だな」 「一世、お前…」 「ふっ、すまないな。いつも冷静なお前に余裕がない事が珍しくて、つい口を挟みたくなる」 「ならなくていい。それより、雨月…」 「先程の言葉はそのままの意味でござるよ」 「お前、まさか…」 Gはごくりと喉を鳴らして緊張している様子。 Gに合わせるように雨月も真面目な表情。 だけど、それはほんの一瞬。 雨月はすぐににっこりと笑い、明るい声で沈黙を破った。 「仲間と過ごす時間はかけがえのないものでござろう」 「………はぁ?」 「天気もいい午後、好きな笛を吹き、それを聴いて楽しんでくれる仲間がいる」 「仲間…?」 「そうでござるよ。そしてそれは、とても幸せで嬉しいことでござる」 「……他意はねぇのか?」 「他意、とは?」 「………」 きょとんとしている雨月にGは毒気を抜かれたように肩を落とした。 雨月と一世が部屋を出て行くとGは椅子に座り深いため息。 ちょっと!二人きりになった途端、ため息ってどういう事なの! 「焦って損したぜ。まったく、オレもまだまだガキだな」 『えっ、焦る?何で?』 「そりゃあ、お前と雨月が…」 『雨月が私の事を仲間以上に想うことないよ、絶対にね。親友って感じだもん。』 「どうだか。お前の絶対は間違いだらけだからな」 『えー…、…って、あれ?』 「どうしたんだ?」 『G、私と雨月の話を聞いてたんだよね?』 「……入るに入れなかったからな」 『…ふぅん、じゃあさ』 「何だよ」 にやにやしてGを見ると彼は眉間に皺を寄せて、言いたい事があるなら早く話せと急かした。 『言ってもいいの?』 「気になるだろ」 『私の絶対は間違いだらけなんだよね、ならさっき雨月と話してて絶対にないって言ってた事は…』 「……っ!」 『……』 愛らしい、と思ってるはずでは? 名前がそんな風だとGも心配になって仕事に集中が出来ないようでござるよ。 そう言ってくれた雨月に私は「絶対にない」って言った。 Gは私の「絶対」が間違いだらけだって言うなら、それってつまり… 「…ー…っ」 『……』 いつものつれない態度が寂しくて少しからかっちゃおうかなって思ったけどやめておこう。 気になって戻って来てくれたの?とかそういうことは聞かない。 だって、珍しく赤いGの頬が答えだと思うから。 『G!』 「……な、んだよ」 『ふふっ』 嬉しくなって椅子に座るGの後ろに回って抱きしめる。 今日は「重い」だとか「離れろ」なんて言わないから、ここぞとばかりにぎゅうっと抱きしめた。 「…っおい、名前」 『ん……?』 Gは私の腕にそっと触れると自分の上に誘導する。 私がGの上に座り、向かい合って頬を触れられたら形勢は逆転。 今度は私の頬が赤くなってGは余裕を取り戻したように笑みを浮かべていた。 『ど、どうしたの、G』 「やられっぱなしは性に合わねぇ」 『な、何それ…っ、さっきは顔を赤くしてたくせに…っ』 「名前」 『……っ!?』 もう黙っとけ。 そう言ってGは私の唇に自分のものを重ねた。 「好きだ、名前」 『……っ』 Gは黙っとけなんて言ったけどこれじゃあ、ドキドキして何も言えないよ。 いつもは言わないことを言ってくれてキスをするなんて、ずるい。 『…ー…っ』 「静かになったな」 『……ばか』 「口の減らねぇ奴。」 『……絶対に私の方が好きすぎるって思ってたのに』 「好きでもねぇ奴と付き合わねぇよ。お前の絶対は間違いだらけだっつったろ?」 『……っ!』 意地悪そうにクッと笑ってGはもう一度、口付け囁いた。 「お前が思っている以上に、オレはお前に惚れてる」 『へ……っ』 「間抜けな顔してんな」 『だ、だって…っ』 真っ直ぐ見つめられて落ち着かなくて、私はGに抱き着いて赤い顔を隠す。 そんな私をGは優しく抱きしめてくれた。 そっと感じる、君の愛 気づかなかっただけで、ずっと傍にあったんだね 「ま、待て、押すんじゃない」 「だって、よく見えないんだものね」 「盗み見なんてまったくもって趣味が悪いですよ、一世。エレナもそう思いませんか」 「ふふっ、でも本当に幸せそうね、名前もGも」 「ねぇ、会議をやらないなら僕は帰るよ」 「まぁまぁ、アラウディ、もう少し待ってほしいでござる」 「究極の愛だな!いい事ではないか!」 扉の向こうから聞こえる声。 こそこそ話しているつもりでも丸聞こえ。 私に聞こえるくらいなんだからもちろんGにも聞こえてる。 「………っ」 『ど、どうするの?』 「どうするも何も決まってるだろ」 Gが一世達に一喝するのは、この後すぐ。 だけど皆、怒られても反省なんてしない。 だから、いつまでも怒っているのが馬鹿みたいに思えて最後にはGも笑っちゃう。 ボンゴレファミリーは今日も平和そのもの。 だって、大切な仲間、そして大好きな人が笑顔でいるから。 end 2011/11/22 |