部下である名前チャンとのんびりしたくてジャッポーネにやって来た。 ゆっくり過ごして、ついでに正チャンをからかいに行く予定だったけど今のジャッポーネの季節は夏。 どこへ行っても夏祭り、花火大会と言う単語が目についた。 丁度いい時期にやって来たね、と話は弾み二人で浴衣を着て夏祭りに足を運んだ。 『白蘭さん!早く早く!こっちです!こっち!』 「ん?どこに行くの?」 『こっち来てください!』 はしゃぐ名前チャンを見ていると思わず笑みが零れる。 涼しげな浴衣は名前チャンにとても似合ってる。 まいったな、可愛い。 「そんなに急いでどうしたの?」 『射的やってみたくて!』 「射的か。いいね、やる?」 『はいっ!』 「うん、それじゃ僕もやろうかな」 『じゃあ、勝負しましょう!十発でどっちが多く景品を取れるか!』 「いいよ。ねぇ、勝負に勝ったら何かくれる?」 『そういう事は勝ってからにしてくださいっ!えいっ!』 名前チャンは銃を構えて景品を狙う。 ポンッと撃つと小さなシガレットチョコに命中した。 あーあ、さっそく名前チャンにリードされちゃったな。 『どうですか、私の腕は!』 「うん、中々やるね」 えへへ、と小さく笑って次々と景品を落としていく、名前チャン。 リズム良く鳴っていた音が終わる頃には腕の中にはたくさんのぬいぐるみやお菓子があった。 「名前チャン、全部で何個とれた?」 『七個です!次は白蘭さんの番ですよ!』 「僕、射的って初めてなんだよね」 『そうなんですか?』 「うん、上手く出来るかなー、……っと」 『あ……』 話しながら片手で銃を構えてポンと撃つ。 クマのぬいぐるみに当たるとグラグラと揺れて落ちた。 「あれ、当たっちゃったよ」 『射的、本当に初めて何ですか!?』 「うん、やった事ないよ」 …なんてね、嘘。 「本物」の銃はそれなりに扱えるんだ。 狙ったものを次々に落としていくと、その度に名前チャンは「あーっ」と叫ぶ。 素直に反応するものだから可愛くて仕方ない。 『あ、ありえないです……』 「景品十個で僕の勝ちだね」 『普通、こんな大きなぬいぐるみ、一発で落ちませんよ!』 「でも、落ちちゃったからしょうがないじゃん」 『そっ、そうです、けど!』 「名前チャンに全部、あげる」 『えっ?いいんですか…!?』 「もちろん。ぬいぐるみとか好きでしょ?」 『はいっ!ありがとうございますっ!』 「あ…、でも、これだけは僕にちょうだい」 『厚底の眼鏡…?何でそんなの取ったんですか?』 「正チャンにお土産。」 『えぇっ!?』 「逆切れされると思うけど律儀だからいつかは使ってくれるでしょ、ちゃんと度も入ってるしね」 『だっ、大丈夫ですかね?』 「大丈夫、大丈夫。あー楽しみだなー」 にっこりと笑って言うと名前チャンは「入江様に怒られますよ」とくすくす笑い出した。 本気で止めようとしてないんだから名前チャンも正チャンの反応が楽しみなんだろうね。 『ねぇ、白蘭さん』 「ん…?」 『本当に、これ全部、貰っていいんですか?』 「うん、もちろん」 『白蘭さん、欲しいものなかったんですか?』 「まぁね。こういうのって手に入れるのが楽しいんだよ。」 『そういうものなんですか…』 「それに、僕には射的で勝った景品があるからね、他はいらない。」 『え…?だって、景品って眼鏡以外はー…』 「それは射的で取ったものでしょ」 『……?』 「名前チャンとの射的勝負に勝ったら何かくれるって言ったじゃない」 『え……?』 顎を持ち上げてそっと口付ける。 マシマロみたいに柔らかい唇に自分のものを重ねる。 名残惜しいけど距離を作ると名前チャンの頬は赤く染まっていた。 『びゃ、白蘭さん…!?』 「名前を僕にちょうだい」 くすっと笑った僕と顔を真っ赤に染めた君を照らすのは色とりどりの打ち上げ花火。 一瞬で時間が止まったみたいに幻想的な空間となった。 花火に邪魔されないように耳元で「好きだよ」と囁いたら、名前チャンは僕の浴衣をぎゅっと握った。 『……こういうやり方、ず、ずるいです』 「ごめんね、ずるくて」 『素直に認めて謝らないでください、もうっ!』 「ははっ、だってさー」 『白蘭さんのばか…』 「馬鹿でいいよ、行こうか」 『……』 手を差し出すと真っ赤な顔をして僕の手を取った。 ずっと、手に入れたいと思っていた女の子。 射的の景品は手に入ったら興味がなくなったけど、君は手に入ったらもっと興味が沸いた。 やっぱり名前は可愛い。 「………」 ずるくて、ごめんね。 だけどそれが僕。 欲しいものは全てをかけて手に入れる。 どんな手を使ってでもね。 end 加筆修正 2009/07/19 |