昼間はどこにでもいる学生。夜はヒットマン。
ヒットマンの仕事をする事で何とか生活が出来ていた。

彼、ジンジャー・ブレットと初めて会った時は敵同士だった。

その時の彼は蜂蜜色のサラサラとした髪に真っ白なマントが似合う少年。

私は雇われたヒットマン。彼は私の雇い主を狙っていた。

何故、幼さが残る少年がこんな世界にいるんだろうと思った。
今年で十六歳になる私も人の事は言えないけれど。

任務は成功。
だけど手負いの身体で去る彼が面白そうにくすくすと笑っていたから後味が悪かった事を今でもはっきりと覚えている。



『……』



二度目に会った時は他の雇い主での任務。
今度は同じ任務を請け負い、仲間になった。

容姿はまるで別人で、それでも名乗る名前は変わらず「ジンジャー・ブレッド」
裏の世界では「魔導士の人形」と呼ばれているらしい。

本当の姿じゃないと聞かされた時は信じられなかったけど、目の前の彼を見たら納得するしかなかった。

ちょっとしたお遊びさ、と言って髪型や色、身長までも毎回、変わる。

壊れる度に新しい姿にするようで、ジンジャーは一つの姿に決めない。



『……』



ある時、私はジンジャーに誘われ一緒にミルフィオーレファミリーに入った。

入ったのはいいけど、ここは静かで暇すぎる。

仕事がない一人の時間は物思いにジンジャーとの出会いを思い出していた。



「ここにいたんだ、名前」

『また来たの、ジンジャー。ノックしてっていつも言ってるでしょ』

「したんだけどね、誰かさんはぼーっとして気付かなかったみたいでさ♪」

『……』



ジンジャーはわざとらしくドアをノックするふりをしている。

今回の彼は癖のある髪に魔法使いのような格好。

図々しく入って来るとベッドに腰をかけた。

こんなのを読んでるんだ、とベッドサイドに無造作においてあった本をパラパラと流し読みしている。



「ラブロマンスか。へぇ、下らないものを読んでるね」

『ただの暇つぶしよ』

「ふーん。あっ、暇ならさ、いい事しようか」

『いい事?』

「あぁ、とってもいい事さ」



ベッドから下りて傍にやって来る。
私の耳元で囁いて、にやりと笑うジンジャーはまた何か恐ろしい事を考えてるに違いない。

次から次へとよく思いつくな、とため息を零した。



『それで、今度は何なの?』

「残酷で笑える殺し方を考えてたところでね」

『……』

「何かいい案はない?」

『…いい案、ね』

「アルコバレーノは傑作だったよな、コロネロだったっけ。」

『コロネロ…』

「人を庇って死ぬなんて笑っちゃうだろ」

『……そうかしら』

「……?」



否定する私をジンジャーは不思議そうに覗き込む。

私はいつもジンジャーの話を黙って聞くだけ。

何を思っているのか、何をしたいのか、本当のあなたを知りたくて、いつもふらりとやって来るジンジャーの傍にいて話を聞いていた。

だけど、今回ばかりは黙って聞いてる事は出来ない。



『庇って死んでもいい。コロネロにとって、そう思える人だったんでしょう。』

「……」

『ミルフィオーレにはない絆があったんじゃないかしら』

「面白いことを言うなぁ、名前って」

『ジョークで言ったつもりはないわ』

「そんな事を言うなんてらしくないね。もしかして君にもそんな相手がいるのかな」

『あなたの事は庇いたいと思うけれど』

「僕?馬鹿だね、この身体は人形なのに」

『人形でもあなたよ』

「……」

『何度、姿が変わってもあなたはジンジャー。一人だけの存在でしょう』

「僕は馬鹿な奴って嫌いだよ」

『そう?』

「あぁ、他人を庇って死ぬなんて馬鹿のする事さ。笑っちゃうね」

『…だったら馬鹿でいいわ』

「……」

『私があなたを庇って死んだら…』

「………」

『…そうしたら、ジンジャーは馬鹿にして笑うわよね。私はあなたに悲しい顔をして欲しくないから丁度いいわ』

「……笑えないね」

『何で?』

「分かってるくせに」



ムッとしている彼をからかうようにクスリと笑うとまた小さく「馬鹿」と呟いた。

からかうなんて、ジンジャーの傍にして私も性格が悪くなったかしら。

でも、ずっと一緒に過ごしていたから仕方がないこと。



「名前、庇うなんて馬鹿なことはやめろよ」

『そんなの私の勝手でしょう』

「名前は生身の人間だろ。死ぬよ。」

『そうね、致命傷だったなら死ぬわね』

「……」

『コロネロのように死ねるなら本望よ』

「だったら僕はバイパーかい?それじゃあ行き着く先は、どっちみち同じじゃないか」

『バイパーではないわ。あなたは生きるの。』

「君がいないのに?」

『いないのによ』



ふっ、と笑うとジンジャーは顔を歪ませた。

そして、無理矢理に口角を上げるといつもの調子を取り戻して笑い飛ばした。



「やーだね」

『何故?』

「君がいない世界なんて、酷く退屈だからさ」

『らしくない事を言うわね、ジンジャーも』

「君につられただけだよ。…とにかくちゃんと生きててよ。」

『……ジンジャーもね。』

「僕は死なないさ。何せ、人形だからね」

『だけど、いつも思うのよ』

「何をだい?」

『いつ姿が見えなくなるのかってね。初めて会って、あなたを壊した日も後悔してた』

「………」

『どうかした…?』

「何でもない。名前がどうしてもって言うなら傍にいてあげるよ」

『……』

「それに」

『なに?』

「いつ姿が見えなくなるか、なんて思うのは僕も一緒さ」

『………』

「僕の前からいなくなるなんて、許さない。分かってるよね」



返事の代わりに、ふふっと笑いかける。
ジンジャーも不敵に笑い、私の頬を撫でる。

撫でる指先からは体温は感じられなかったけれど重なった唇は温かいと思った。



「……」

『………』



身体は人形、本物のあなたじゃない。

だけど、きっと気持ちは本物。

何度、壊れても姿を変えても、あなたがくれる気持ちは変わることはない。











あなたの心は私のもの。



end



2009/3/24
二周年フリリク企画、きら様へ!
リクエストありがとうございました!

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