同期に入隊したフラン。 話してみたら失礼な奴、っていうのが第一印象。 失礼な態度は誰にでも同じみたいだけど、ベル先輩と私には特に酷いと思うのは気のせい? ううん、気のせいなんかじゃない。絶対に酷い気がする。 もう少しくらい仲良くなれないかなぁ。 *** 気持ちがいい陽気の午後、私はベル先輩に誘われカフェでお茶をしていた。 私はショートケーキ、ベル先輩はチョコレートケーキを注文し、話題はフランの事。 相談してみたら、ベル先輩も私と同じように感じていたみたい。 『やっぱり、ベル先輩もそう思います!?』 「そりゃ思うだろ。オレ達には特にグチグチネチネチ言うしな。ししっ可愛くないコーハイには、またナイフを刺してやるかー」 『ナイフはやり過ぎだと思いますが…、…もう少しどうにか、なりませんかね?』 「仕事が出来れば別にいいんじゃね?」 『そんなものですか?』 「お前が気にすることねぇだろ。つーか、これ、甘すぎー。名前にやる」 『ちょっ、ケーキ二つもいらないです、ベル先輩!しかも、ベル先輩、一口しか食べてないじゃないですか!』 「遠慮すんなって。さっきチョコケーキとショートケーキで迷ってただろ?」 『たっ、確かに迷ってましたけど!二つは無理です…っ!!』 「しし、オレってやさしー、その代わり、ショートケーキ一口、よこせよ」 「ほんっと優しいですよねー、めちゃくちゃ歪んでる優しさですけどー」 「ゲッ」 『あっ』 ふいに声をかけられて後ろを見るとフランが嫌な視線を私達に向けていた。 その様子にベル先輩は楽しそうに笑っている。 「任務だって言うから、わざわざ探してたのに二人仲良くデートですかー」 「うしし、いーだろ」 『ちょっ、ベル先輩!べ、別にデートって訳じゃ…』 「ベル先輩って王子って言う割には趣味が悪いですよねー」 「は?意味、分かんねーし。」 「よりによって名前だなんてー、ミーには理解、出来ないですー」 『フラン、それはさすがにちょっと失礼じゃないかなーとか思うんだけど!』 「そうですかー?言い足りないくらいなんですけどー」 そう言ったフランはネチネチと話し出す。 私ががさつだとか仕事も出来ないだとか、そんなんで恋人、出来ないんじゃないですかーとか。 余計なお世話! そりゃ女の子らしくないし仕事は簡単な任務しか出来ないけど…っ!! あぁ、もう! 言い返せないから悔しいやら情けないやらで涙が出てきた…っ!! 「あの筋肉オカマに乙女心でも貰えば二人とも丁度よくなるんじゃないですかー」 『…ー…っ』 「おい、フラン。いい加減にしとけよ」 「いいじゃないですかー、本当のことですしー」 『…そこまで言う事ないじゃん!!フランの馬鹿カエル…っ!!』 「……っ!!」 私の怒りは最高潮。 震える手でケーキを二つ両手に持つ。 キッと睨んでケーキをフランに投げ付け私は勢いよく、この場を去った。 「あーあ、フラン、名前を泣かしたー」 「……ミーの方が泣きたいんですけどー。ケーキでベタベタ、気持ち悪いですー」 「ししっ、可愛くない事ばかり言うから名前を怒らすんだよ」 「……」 「お子様は黙ってろって。名前はオレが貰うからな、ししっ」 「…渡す気ないですー」 私はどこまで行くつもりなんだろう。 ドラマや漫画とか、普通の女の子なら彼氏や好きな人が追いかけて来るのがお約束。 引き止められて喧嘩してたけど仲直りしちゃったりね。 だけど、今現在の私は仕事柄のせいか屋根を軽快に走り抜けてる。 あーあ、こんなんだからフランに女の子らしくないとか思われるんだ…!! 『……』 廃屋の屋上に飛び移って体育座り。 誰もいないけど泣き顔を隠したくて伏せてうずくまっていた。 『フランのバカ…っ』 大体、フランに関係ないじゃない! そうは思っても、あのフランの言いよう、女の子として見られてないんだって思ったら目の前は霞むばかり。 単純だけどお菓子作りとかしてフランに女の子らしい所を見せてやりたい。 …というか、あれ?何で? 何で私、フランに女の子らしい所を見せたいって思ってるんだろ…? まさか、あの毒舌カエル男に恋? いや、いやいや、ない。それはない! 多分、見返してやりたいだけだ。 そう!絶対にそう! 『はぁ…』 多分、恋じゃない。 そのはずなのに、フランのことを考えて、ため息が零れた。 カフェに置いて来ちゃったからベル先輩に謝らなきゃ。 でも、ケーキを投げ付けたフランには謝りたくない。 涙は止まって気分が落ち着いてきたけど、まだ胸の奥が苦しいんだもん。 『……』 落ち着いた今、考えると少しだけ後悔していることがある。 『どうせならケーキじゃなくてフォークぶっ刺してくればよかった…』 「本当に可愛げがない女ですねー」 『……っ!?』 突然の声にバッと上を向けば、そこにはフランが立っていた。 何でここにいるのかと問いかけると「追いかけて来たに決まってるだろ、バカ女」と睨まれた。 『……何で追いかけて来たのよ、わざわざ。』 「……」 『ケーキを投げたのは…謝らないし。』 「……」 『…すぐアジトに戻るから、先、帰って』 ツンツンと刺のある言葉ばかり。 追いかけて来てくれたのは素直に嬉しいのに、フランの顔を見たら思ってもない事ばかり言ってしまう。 「……名前」 『…何?先に帰ってって言ってるじゃん』 「ムカつくんですけどー、人がせっかく追いかけて来たって言うのに、その態度ー」 『……っ悪かったわね!可愛げなくて!』 「あ……」 『な、何よ…』 「……というかミーはこんな事、言いに来た訳じゃなくてですねー」 『は…!?』 「んー…」 『な、何よ…っ』 フランは何かを考えて、しゃがむと私と同じ目線になった。 自分の隊服の袖を少し延ばして乱暴に私の頬を擦った。 擦れて若干、痛いんだけどフランなりに涙を拭いているつもりみたい。 『……っ!?』 「泣いた顔…は可愛くないです、からー」 『え…っ!?』 「それにー…」 涙を拭いてくれた後、今度は私の頬に触れた。 先程、喧嘩した気まずさからかフランは私を真っ直ぐ見ず、視線を外してる。 『それ、に?』 「……」 『い、言いかけたんだから…ちゃんと言いなさい、よ…』 「さっきは、ミーが悪かったですー…」 『……、フラン…』 「……とか思ってたり思わなかったりー」 『謝ってんの!?喧嘩、売ってんの!?』 「……っ」 ツッコミすると、いつもは何食わぬ顔してるのに今日は「しまった」と言う顔。 スッと立ち上がって私に背中を向けた。 「……あー綺麗な夕焼けだなー」 『誤魔化すなーっ!!』 「……帰りますよー、手を出してくださいー」 『な、何でよ…っ』 「…手、貸してくださいー」 『だから!何で!』 「…しっかり繋いでおかないと、後ろから刺されたら、たまったもんじゃないですからー」 『はぁ!?あっ、ちょ…っ』 私の手を強引に引っ張って、ぴょんぴょんと屋根を走り抜ける。 繋いでいる手が恥ずかしい。 手を離してくれないかと少し手を動かせば、フランは離さないようにぎゅっと握り返した。 『……っ』 フランのことで頭がいっぱい。自然に考えてしまう。 普段、気にしてない事でも彼に言われると妙に気にして泣いたり悩んだり。 さっきまで凹んでいたのにあっという間に笑ったり怒ったり、嬉しくなったり。 『………』 「……」 この気持ちが、これが恋だとしたら、私は厄介な相手を好きになってしまったみたいだ。 end 2008/12/21 |