フリーのヒットマンだった私はベル先輩に推薦さえて無理矢理、ヴァリアー入隊させられた。 文句を言いつつも、あっという間に二年目の月日が経った。 ある日、ボスに紹介されたのは新米のフラン。 私に教育係りが回って来るかと思っていたけどベル先輩が面倒を見ることになった。 可愛い後輩が出来て嬉しい。 純粋にそう思ってた私はヴァリアーを甘く見すぎていた。 「名前センパーイ、聞いてくださいー」 『今度はどうしたの?…というか、その頭のカエルは何?』 「被りたくて被ってる訳じゃないですー、アホのロン毛と自分で王子とか言っちゃってる堕王子に強制的に被らされただけなんでー」 『あぁ、確かマーモンさんの代わりってベル先輩が言ってたっけ。でも、いいじゃない、可愛いし似合ってるよ』 「えー可愛いんですか、これー。すごく趣味が悪いと思うんですけどー」 『……』 「しかも被らないとヴァリアー脱退とか意味が分からないですー」 後輩のフランがヴァリアーに入隊して大分、経った。 のんびりとした物静かな印象のフランは口を開けば、かなりの毒舌。 先輩達に物怖じせず、ズバズバとキツイことを言う。 まさか、ここまで毒舌だとは思わなかった。 しかもよりによって、あのベル先輩には特に毒舌なの。 よっぽど相性が悪いのかな? 苦笑いしているとカエルの帽子を手に持ちフランは私を見つめてる。 どうしたのかと声をかけたら、再び毒舌を炸裂させた。 「思うんですけどー、意味が分からないですよねー、ヴァリアーって。」 『え?』 「あ、名前センパイはまだいい方なんですけどー」 『そ、そう……?』 「だって、普通っていうか地味でしょうー?」 『な…っ』 「なのに他はDVボスにアホのロン毛に変態雷オヤジ、筋肉オカマに堕王子…」 『……』 「皆が皆、キャラが濃すぎるんですよねー、同じヴァリアーとして括られたくないですー」 『………』 話はノンストップ。 あれだけオープンに皆に言ってるのに、まだ言い足りないらしい。 黙っていれば可愛い弟のように感じるのに、すごく残念。 というかさ、フラン、いや、フラン君。 言っちゃなんだけと君も十分、濃いキャラから。濃すぎるくらいだから。 フラン君曰く普通で地味な私から見れば、まさにヴァリアーって感じだから…!! 『……』 「カエル被れとか命令するなら少しは優しくしてくれって感じですよー、飴とムチのムチだけとか最悪なセンパイ達ですよねー」 『それだけ、ズバズバ言って殺されないんだからいいじゃない。普通だったら殺されてるわよ』 「えー、でも背中にナイフを刺されたんですけどー、ほらー」 『あ……』 「これでもいいって言えますー?」 涙目で後ろを向くフランの背中にはベル先輩のナイフが容赦なく刺さっていた。 二、三本、抜いては床に音を立てて捨てている。 『痛くないの…っ!?』 「痛いに決まってるじゃないですかー、名前センパイも一度、刺してみますー?」 『やっ、遠慮するよ』 「そうですかー、あ…」 『今度は何?』 「ベルセンパイ、来やがりました。あー…やだやだ、しつこいなー」 廊下の向こうで、見つけた!と言わんばかり口角を上げているベル先輩。 すごく怒っているのは気のせいじゃない。 あぁ、フラン。 また何か余計なことを言って怒らせて逃げて来たんだね。 「ししっ、フラン、こんな所にいたんだ。何で名前も一緒な訳?」 『ベル先輩、今日はどうしたんです?』 「カエル被れっつってんのに逃げたんだよ。ほら、ちゃんと被っておけって」 『マーモンさんの代わりに、ですか?』 「あぁ、こういうのいねぇと落ちつかねーじゃん。」 「あー、いい天気だなー」 「…って、聞けよ。お前には技の解説もしてもらうからな」 「嫌ですよー、説明したいなら自分ですればいいじゃないですか。相当まぬけで格好悪いですけどー」 「お前な、いい加減にしろっつーの」 「大体いちいち解説して敵に情報知られたらどうするんですー?格好悪いったらないですよねー、いっそ、そのままやられたらいいのにー」 「バーカ、そんなヘマしねぇよ」 「チッ」 最初はベル先輩が殺してしまうんじゃないかとハラハラしてたけど今では、この口喧嘩も微笑ましいと感じる。 フランの背中にまだナイフが数本、ぶっ刺さってるけどね。 「つか、名前、何でにやにやしてんだよ」 『あ…、いや、別に何でも…っ』 「ふーん。ま、いいけど。それより、お前、暇?」 『え…?まぁ、はい…任務は入ってませんが…』 「んじゃ、王子に付き合え。飯を食いに行こうぜ。特別におごってやる」 『えっ?』 「名前センパイ、ベルセンパイに付き合う義理ないと思いまーす」 『えぇ!?』 「は?」 フランは私の手を引っ張り走り出す。 後ろを見るとベル先輩はカチンとした顔で匣を開けていた。 『何で逃げるの!?ベル先輩、怒ってるよ…っ!?』 「えー、だって嫌じゃないですか、ベルセンパイと名前センパイが二人きりでランチだなんてー」 『あ、フランも来る?』 「……」 『フラン?』 「名前センパイって地味で普通ってだけじゃなんですねー」 『えっ?そ、そう?』 「鈍感ですし、もっと空気を読んでくれないと困るんですけどー」 『う……』 鈍感でKYがプラスされちゃった。 でも、まぁ、フランだから別にこう言われてもいいかなって思う。 ベル先輩やスクアーロさんへ向ける毒舌に比べたら全然、甘口だしね…!! 走りつつフランを見つめると私の視線に気付いたようで振り向いた。 「ベルセンパイ、まだ追いかけて来るんですねー」 『う、うん…っ、ねぇ、フラン!そろそろ、止まろうよ』 「嫌ですー」 『嫌です、じゃないってば!!早くしないとベル先輩が…って!ちょっ!何するの!?』 顔色を変えずに私をひょいっと抱きかかえるフラン。 何でこんな事に!? 嫌な予感がしてベル先輩を見ると炎の勢いが増していた。 もしかしてベル先輩の怒りMAX!? これって私も危ないんじゃない?ねぇ、フラン…!! 「フラン、名前を下ろせっつーの」 「嫌ですってば。そのイタチさっさと引っ込めてくださいー」 『フラン!イタチじゃなくてミンクだよ!』 「どっちも似たようなもんですよー」 「無視してんじゃねーよ」 『フ、フラン…!!ベル先輩、攻撃体制になってない!?』 「大丈夫ですー、こっちには名前センパイが居ますからベルセンパイは手を出せませんー」 『私、人質!?ひどいよ、フラン!』 「……」 『フラン?』 「ベルセンパイも苦労しますよね、名前センパイがこれじゃあ。たまーに同情したりしなかったりー」 「お前も似たようなもんだろ」 『……?』 「あー…そうかもしれないですー」 『な、なに…?何の話?』 「内緒ですー」 フランを見つめて改めて気がついた。 抱き上げられているから、いつもより近い。 髪の毛サラサラ、睫、長いんだなぁ。 それに私なんて軽々持ち上げちゃうし、フランもちゃんと男の子なんだ。 『……っ』 って!何でこんなことを考えてドキドキしてるの、私! さっき走ったから?それともベル先輩に追いかけられて攻撃されそうだから? 『……っ!?(何で、だろう…)』 フランとベル先輩は相変わらず走りながら口喧嘩をしている。 どうしてか分からないけれど、もう少しだけこの時間が続けばいいな、って思った。 この気持ちを言葉にするなら 『……』 「視線がむずむずするんですけどー」 『え…!?ご、ごめん。ただ…』 「なんですかー?」 『えっと、ちゃんとカエルの帽子を被ってるんだなって…、偉いね!』 「名前センパイが似合うとか可愛いとか言ったから被ってるだけですー」 『……?』 「じゃないと被りませんよー、こんなカエルー」 『そっかー!ありがと、フラン!』 「あ〜……鈍感すぎて涙が出てきた…」 『え?』 「別にいいですー。あ、もう少し、飛ばしますからー」 『え、ちょ、フラン!?』 「ミーにしっかり掴まっててくださいー」 end 2008/12/09 |