バレンタインデー。 私は恋人なんていないし日頃の感謝を込めて同僚に渡すことにした。 お店でどんなチョコレートにしようかと見てるとすごく楽しい。 購入しようかと思っていたけれど、せっかくだから手作りにしようと決めた。 うきうきとした気分で材料を買いに行ったけれど任務で忙しくてバレンタイン当日に作ることになってしまった。 早起きして作ったのはフォンダンショコラ。 ベルが食べたいって言うから今年のバレンタインは、フォンダンショコラに決定。 だけど、途中までは上手くいっていたのに少し目を離した隙に香ばしすぎる匂いが漂って嫌な予感で冷や汗だらり。 予感はもちろん的中、焦がしてしまった。 『……真っ黒』 作り直す時間はあるからいいんだけど珍しく失敗してしまった事にため息が出てしまう。 どうしようかと思っていたら私の背後から声が聞こえた。 振り向けば、そこには一番、見られたくない奴が立っていた。 「わー、何ですかー、これー、まずそうー」 『……煩い、フラン』 「すみませんー」 『あら?随分、素直に謝るのね』 「センパイ、新しい技の研究中なんですねー」 『どうしてそうなるのよっ!!』 「ミー、ポイズンクッキングって初めて見ましたー、殺傷能力、期待できそうですねー」 『そう……そんなに死にたいのね、フラン。』 「やですー、というか、何でこんなの作ってるんですかー?」 『ベルが食べたいって言うから作ったのよ。』 「おぉ!」 『何?』 「センパイも堕王子の首を狙ってたんですかー、仲間ですー」 『ポイズンクッキングじゃないって言ってるでしょ!!』 「ゲロ…ッ!?」 ゴツンと強い拳骨を一発。 だけど、フランはいつも被っているカエルを盾にしてガード。 これではフランにダメージ与えるつもりが私の拳に大ダメージだ。 じぃぃんと痺れるような痛みが拳から広がった。 『い……っ!!』 「おぉ、初めて役に立ちましたー、このダサイカエルー」 『あんたね…っ』 「センパイー」 『今度は何よ。いい加減にしないと匣を使ってでも…』 「これ、どうするんですか?」 『どうするって、とりあえず作り直すつもりだけど…』 「だったら、ミーが貰ってあげますー」 『え…?言っとくけどポイズンクッキングじゃないからスクアーロやベルに食べさせても、どうにもならないわよ』 「分かってますー」 『分かってるのに何で…』 「……失敗でもセンパイのが一番に欲しいからですー」 『え……』 「それに中のチョコなら無事っぽいじゃないですかー」 『そりゃそうだけど…』 フランは私の言葉なんて聞かずお菓子を袋に詰めていく。 何で私のが一番に欲しいの? それってフランが私の事を好きみたいじゃない? それともただ、チョコレートが好きなだけ? ぼーっと考えているとフランはお菓子を全部、詰めマイペースにキッチンを後にしようとする。 だけど目の前の人物がそれを許さなかった。 「しし…っ、王子の許可なしに何やってんの」 「堕王子の許可なんていらないですよねー。センパイの恋人でも何でもないんですからー」 「てんめー、今日と言う今日は容赦しないぜ……オレのナイフ、味わってみ?」 「そんなダサいナイフで人生を終えるとか最悪……、ゲロ…ッ!」 「ししっ命中ー」 「痛いじゃないですかー、ブスブス刺さないでくださいよー」 「お前、刺さったなら死ねよ」 「だからー、堕王子に殺される絶対にいやですー」 「本当、口が減らねー奴」 『ベルもね、どっちもどっちよ』 ボソッと呟けばベルとフランは顔を見合わせて、一緒にするなと言うセリフが重なる。 二人ともハモった事にカチンと来たのか本格的な戦闘になってしまった。 特に気にしないのか、それとも忘れてるのか、ここはキッチン。 ナイフが飛んでくるキッチンなんて聞いたことないわよ。危ないなぁ。 「ちょろちょろ逃げんな」 「いやですー」 『……』 フランは私の後ろに隠れたりしてベルのナイフから逃げ回る。 ベルのイライラは最高潮に達したのか開匣しようとしてるけど、もしかして、その匣はミンク? ミンクを使ったらキッチンが全焼しちゃうんじゃ…!? 『ちょっ、ベル…!!』 「これでおしまーい、ししっ」 「ゲ…ッ」 『ねぇ!!ベルってば!!』 「お前は王子の傍に来いよー、そうすりゃ燃えねーから」 「センパイ、こんな堕王子にチョコあげることないですよー」 「つーか、それこそフランにやる必要ねーだろ。付き合い一番、短いし」 『二人とも……』 「ん……?」 「なんですー?」 『いい加減にしなさい!!』 「……!!」 「な…っ」 またカエルでガードされたら私が痛いから拳骨は封印。 騒いでる二人の首根っこを掴んでキッチンを追い出した。 「…って、何すんだよ!」 「追い出すことないじゃないですかー」 『失敗したフォンダンショコラはあげる。だから今からキッチンに立ち入り禁止!!集中して作りたいのよ』 「いーじゃん、別に。王子、出来立てを食いたいんだけど」 「ミーだってセンパイのちゃんとしたのを食べたいんですけどー」 『……我侭を言うとベルとフランの分はなし。その分、スクアーロやレヴィに多めにあげることにする』 「……」 「………」 ゲッとした二人は静かになる。 静かになったけれど、しばらくしたらキッチンの外からまた口喧嘩が聞こえた。 本当に懲りないんだから。 思わずため息が出てしまうけれど不思議と憂鬱な気分にはならなかった。 気分を入れ替えて本日、二度目のお菓子作りを始める。 今度は失敗せずに作れそう。 だって、すぐ傍に楽しみに待ってくれている人がいるから。 甘いお菓子に込める想い 隠し味は友情? それとも愛情? end 2009/2/14 |