十二月も後少しで終わり新しい年になるというのに私は休みなく仕事の毎日。

今日も今日とて任務に明け暮れてヴァリアー本部にある自室に戻る。

自室に着いてほっと一息し私はベッドに重い身体を預けた。



『あーっ、疲れたーっ』



ヴァリアーって、どうしてこんなにも休みがないんだろう!
私、年がら年中、働いてる気がする…!!



『結局、今年のクリスマスも任務だったなぁ…』



クリスマスも仕事と言うのは一般人にもあること。

だけど、こっちは仕事と言ったら普通ではなく暗殺。

血塗られたクリスマスの思い出なんてもういやだっ!



『せめてお正月くらいはゆっくりしたいよー』

「ししっ!決まりだな。ゆっくりしに行くか」

『へ……?』



ふと頭上から聞こえた声にパッと顔を上げると恋人のベルフェゴールが立っていた。

こんな風に突然、現れるのはいつもの事。

またか、と呆れたような顔をして彼を見つめると特に気にしないようで笑ってベッドに腰を下ろした。



『ベル、いつの間に来たの?』

「たった今。お前の独り言がおもしれーから見てた」

『うわぁ、悪趣味』

「悪趣味な奴と付き合ってるのは誰だっつーの」

『私。フランに趣味が悪いからミーにした方がいいですよーって言われちゃったよ』

「あんのクソガエル、今日こそはナイフで刺すだけで終わらせねぇ」

『ちょ、ちょっと!私に何か用があったんじゃないの?』

「…っと、そうだった。」

『何の用?』

「ししっ、これなーんだ」

『……?』



ベルは勿体振らせず、じゃーん!と効果音が付きそうなくらい嬉々として封筒を見せてきた。

ベルが意地悪しないなんて珍しい。

封筒には一体、何が入っているんだろう?

ベルは私に封筒を差し出すから、中身を見てみると、ジャッポーネ行きの航空券が入っていた。



『わーっ』

「ししっ、いーだろ?」

『いいなぁ!ベル、今度の任務はジャッポーネに行くんだっ!だから嬉しそうだったんだね!』

「ちげぇよ。よく見ろ。お前の分もあるだろ」

『私もジャッポーネで任務?』

「バーカ」

『ぶっ!?』



的外れなことを言ってしまったらしい私にベルはクッションを投げつけてきた。

柔らかいクッションだから痛くはないけどムカついてベルに投げ返したら簡単にキャッチされる。

にやりとした笑顔が憎らしい。



『キャッチしないでよ!』

「大体、こんなん当たる訳ねーだろ」

『う……』

「それより、さっさと用意しろよ」

『え……?』

「言っとくけど任務じゃねーから。」

『……旅行ってこと?』

「そっ。オレとお前の二人旅♪」

『えっ、で、でも!』

「何だよ」

『私、お休みないよ?』

「ししっ、それなら大丈夫だぜ」

『……』

「しししっ」



長い付き合いだからベルの笑い方で分かる。

絶対に大丈夫じゃない!



『サボりだめ!』

「サボタージュじゃなくてエスケープだし」

『だめだってば……って!勝手に私の荷造りしないでよ…っ!』

「んじゃ、さっさと自分で纏めろよ」

『……』

「早くしねぇと……」

『わ、分かった!分かったからナイフをしまって!』

「最初から素直になりゃいいんだよ」

『………』



ナイフで脅され、あれよあれよと言う間に荷造りをしてベルと一緒にヴァリアー本部を出た。

あぁ、もう、どうして流されちゃってるの、私!
エスケープなんてしたらスクアーロが怒るに決まってる!

考えただけで背筋がゾクゾクするよ…!!



「どうしたんだ?」

『寒気がして……』

「そりゃ、こんだけ寒けりゃ寒気もするだろ」

『そういう寒気じゃなくて!あぁ、もう!』

「ししっ」

『……』



心配になって振り返りヴァリアー本部の屋敷を見る。
すると静寂を切り裂くようなスクアーロの叫び声が木霊した。



「う゛ぉ゛ぉい!ベル、名前!てめぇらまとめてどこに行きやがったぁぁぁ!」



外にまで響くなんて中はどんだけ煩いんだろう。

あんなに声を張り上げて私達を探してるなら、やっぱり、このままジャッポーネに行けないよ!



『ね、ねぇ、ベル!やっぱり…』

「大丈夫だって。任務ならオレ達が抜けても問題ねーよ」

『そういう問題じゃなくて!任務を受けた責任が……』

「ちゃんとボスに許可を取ったし。任務ならマーモンが代わりに引き受けたぜ。」

『え……っ』

「スクアーロに伝わってないだけだろ。」

『う、嘘!』

「本当だっつーの。あの鼻タレ小僧、代わってやるから金を寄越せって言いやがったんだぜ?これ、領収書」

『もしかして、払ったの…!?私の分までっ!?』

「まーな」

『自分の分は自分で払うよ!』

「気にすんな。」

『だけど…っ』

「いいって言ってるだろ。素直に甘えてろよ、お姫様」

『お姫様って…』

「お前に決まってんじゃん。んじゃ、そろそろ行くか!」

『……うん!』

「ししっ」



くしゃくしゃと頭を撫でられる。

ありがとう、と呟いたらベルは満足そうに笑って歩き出した。



『ま、待って!……っしゅ』

「おい、くしゃみなんてして風邪、ひいてんの?」

『だ、大丈夫!寒いだけ……』

「そういや、名前、マフラーも手袋もしてねぇな」

『あ、はは…、急いで出て来たからね、忘れちゃった』

「……」

『ベル?』



ベルは何をするつもりなのか、何故か匣を取り出した。

嵐の炎で開匣すると中からはベルの相棒が飛び出す。



≪キィ…ッ≫

『嵐ミンクを出してどうしたの?』

「ミンク、オレじゃなくて名前の方に行け」



嵐ミンクはベルの言う事を聞いて私の肩に乗る。

尻尾をくるんと首に巻かれたらまるでマフラーみたいになった。



『わっ、あったかい!』

「ヌクヌクだろ」

『でも、毛皮反対!』

「毛皮じゃねーし。なぁ?」

≪キィ!≫

『というかヌクヌクって戦う技じゃなかったの?まさかペロペロも……』

≪キィ!≫



ミンクは"ペロペロ"という言葉に反応して私の頬を舐める。

や、やっぱり戦う技じゃなかった!
これじゃあ、ミンクが可愛いだけだよ!

ぺろぺろと舐められ、くすぐったくて笑っているとベルは私の隣に立った。



『ベル?』

「今度こそ出発な。スクアーロに見つかったらうるせーし」

『あ……』



ベルは私の手を握って歩き出す。
隣を歩くベルを見たら、こちらを見ずに小さく呟いた。



「冷てぇ」

『……』



そう言うけど手は離さない。

離さない所か温めてくれるように包んでくれた。



『………』



もしかして、ミンクがマフラー代わりならベルは手袋の代わりをしてるの?



『ふふっ』

「………何だよ」

『何でもない!ありがとう、ベル!』

「……」

『私、悪趣味なんかじゃないね!』

「当たり前だろ」

『だって、王子だもんね!』

「オレのセリフを取んな」

『ししっ』

「真似もするな」

『だって、嬉しいんだもん!』




そう言って手を握り返したらベルの体温がじんわりと私に移った。

少しだけ赤い私達の頬は寒さのせいなんかじゃない。












『ねぇ、私にミンクを貸してくれたけどベルは寒くないの?』

「お前がいるからへーき。」

『……っ』

「しししっ」



「う゛ぉ゛ぉい!どこに行きやがったぁ!ベル!名前!」



「……スクアーロの奴、まだオレ達を探してんのかよ」

『だ、誰も伝えてないのかな?』

「フラン辺り、わざと伝達してねぇんだろうな。帰ったら覚えてろよ」

『あ、はは……、何だったらスクアーロに連絡を入れようか』

「今の隊長が人の話を聞くかよ」

『……だよねぇ』



「う゛ぉ゛ぉい!さっさと出て来ねぇと三枚にー…、……ッ!」



『………あ、声が強制終了した』

「ボスが黙らせたな、ししっ」



end



2012/01/05

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