ボンゴレのアジトは落ち着かないから私達は小さな一軒家で暮らしている。
小さい、と言っても家族三人で暮らすには十分、大きい家。

私達の大事な大事な赤ちゃん。
きゃっきゃっと笑う、その姿は天使のよう!
世界一、可愛い女の子!

親バカでもしょうがない。
だって、目に入れても痛くないくらい本当に可愛いの!

もちろん、可愛いと思うのは私だけじゃない。

娘の父親。
つまり私の夫も、そう思っている。



「う゛ぉ゛ぉい!朝からボケっとすんなぁ!飯、作ったぞぉ…」

『あ!ありがとう、助かる!!』

「早く食えよぉ」



似合わないエプロンをきちっと身に着けて彼、スクアーロはよしよしと子供をあやしてる。
少し前までは、どうして良いか分からなかったようで扱いに困っていたみたいだけど今では面倒をみるのも慣れたもの。



「つか、お前、オレにばかりやらせてないで料理くらいしろよなぁ…」

『私だって忙しいのよ!だからスクアーロに手伝ってもらってるんでしょ!』

「だからってなぁ、大体、オレは……、……てぇ!!」

「カス、朝からうるせぇ。」



スクアーロの腕からひょいっと赤ん坊を奪い返し頭を撫でているのはザンザス。
子を撫でる手つきは、とても優しい。



『おはよう!ザンザス!』

「あぁ。…おい、カス。いつまで寝てやがる」

「う゛ぉ゛ぉい!!手伝いに来てやったのに、この仕打ちはなんだぁ…!!」

「うるせぇ」

「ボスさんよぉ、父親ならもう少し面倒をみたらどうだぁ?」

「面倒、みてるだろうが。」

「ハッ!今にも泣きそうな顔してんじゃねーか!!父親の癖にざまぁねぇなぁ…」

『ちょっ、スクアーロ、そんな事を言っちゃ……』

「て、てめぇ……!!」



コォォとザンザスの手に憤怒の炎が灯る。

あぁ、もうっ!大人げないんだから!
頭を抱えつつ二人を見つめる。

大丈夫よね?
こういう時は決まって、うちの子が何とかしてくれるはず!



「ふぁ…っ、う、ふぇ……あぅ…」

「……!!」

「ほら、赤ん坊が泣き出すぜぇ、お父さんよぉ…」

「…チッ。……大丈夫だ、悪い」

「あ…ぅ、ふ…ぅ…っ」



私とザンザスの愛娘。
さすがのザンザスも赤ん坊が泣き始めたら攻撃を止めてしまう。

ザンザスも顔には出さないけど我が子にメロメロ。
どうしようもなく大切で愛してるみたい。

そりゃそうだよね、私達の愛の結晶だもの!



『……』



お互い仕事があるからスクアーロにベビーシッターに来てもらってるんだけど問題が一つ。
スクアーロは元がまめな性格だから今では何でも器用にこなして手際が良い。
手際がいいのは大助かりなんだけど実の父親のザンザスよりもスクアーロに懐いてしまったの。

それがザンザスはとても面白くないみたい。



「あぁ…っ、ふぇ……う…っ」

「な、泣くな…」

「そんなんじゃだめだ。ほら、こっちへ来い」

「う…、ふぇ…!」



今にも泣き出しそうな赤ん坊。
スクアーロに高い高いされれば、泣き顔はどこへやら。
すぐに笑顔を取り戻してしまった。



「おいおい、いつも言ってるだろぉ?髪は引っ張るなぁ…」

「あ…?あー…?」

「しょうがねぇなぁ…」

「………」

『ザ、ザンザス…!抑えてよね、子供の前なんだから…』

「あ、あぁ…、分かってるぜ、名前…」

『………』



ふと、ザンザスと目を合わせると今にもカス、もといスクアーロをカッ消してしまいそうな顔。
赤ん坊の手前、スクアーロに何も出来ないのが悔しいらしい。



『ふふ、我慢できるなんて、ちょっと前までは考えられなかったね』

「……まぁな」



ポリポリと頭をかいて照れくさそうなザンザスは前よりも雰囲気が優しくなった。
私と赤ん坊、家族の前だけだけど。

スクアーロには、前よりも暴力が酷くなった気がする。



「う゛ぉ゛ぉい!!朝飯、冷えるだろうがぁ!二人ともさっさと食え!」

「あ゛ぁ?何で、てめぇが作ったもんを朝から食わなきゃいけねぇんだ。」

『ご、ごめんね!私、昨日はボンゴレの会議で遅くなって…つい、さっき起きたの!』

「…それなら仕方ねぇな」

「う゛ぉ゛ぉい!!」

「うるせぇ、こいつがそんな言葉を覚えたらどうすんだ」

「ひでぇ、お父さんだなぁ…」

「カスに父親と呼ばれる理由はねぇ!」

「何の話だぁ…!!気が早ぇぞぉ!!」

「あ、ぅ?あ…、…ゅ?」

「あ゛ぁ?」

『あれ!?今、喋りそうだったよ!?』

「う゛ぉ゛ぉい!そろそろ喋りだす時期だしなぁ!この本にも書いてあったぜぇ」

『本?』

「これだぁ…」

『………』



スクアーロのエプロンポケットから出てきたのは「すくすく子育て!」と大きなタイトルが目立つ雑誌。
手頃なサイズで持ち運び出来るから何冊か常備してあるみたい。

かなり読み込んだ後がある。
もしかして毎月、買って読んでくれていたの…?

嫌々、ベビーシッターしてるのかと思ってたけど満更じゃなかったのかな。
…スクアーロはプロのベビーシッターで難なくやっていけそう。



「あーぅ!あー…」

『……!』



必死に口を動かしてくりくりとした綺麗な目で私達をじっと見てる。
そんな顔も可愛くてにやにや。
三人で赤ん坊の前に座り込み声をかけた。



『ほら!ママだよ!ママ!言ってごらん』

「う゛ぉ゛ぉい!!こういう時だけずるいぞぉ…!!」

「………、…パパだ。」

『あはは、ザンザス、照れてるでしょ』

「うるせぇ、名前」

「う゛ぉ゛ぉい!喋りそうだぞぉ…」

「あー…、ぅ…?」

『……』

「………」

「……」



私達はゴクリと喉を鳴らして静かにする。
喋るか、喋らないか分からないのに胸がドキドキする。

小さな口が開くと緊張が走った。



「あー…ぅ!か、ちゅ…!」

「あ゛?」

『え……?』

「はぁ……?」



目をパチパチさせる私達をよそに赤ん坊は無邪気に笑い拙いながらも言葉を発する。
スクアーロを指差しながら。



「かちゅ!」

「……」

「……か」

『ちゅ………?』



かちゅ!かちゅ!と言いながら手を叩いて楽しそうに微笑む我が子。
そして、スクアーロに抱っこして、と言わんばかりに近づいてる。



「……まさか、カスって言いてぇのかぁ?」

『…っふふ、あはは…っ!』

「何だかなぁ…」

『ちょっ、何で初めての言葉がカス…!おかしい…っ!ねぇ、ザンザ…ー…うわぁ…っ!!』

「……カッ消えろ、カス!!」

「んなーッ!?」



ザンザスお得意の炎でスクアーロは文字通り消しカスになりかけてしまった。
スクアーロの傍に赤ん坊がいたから、とっさに軌道を逸らしたため無事だった。

結婚してからザンザスは少しは落ち着いたと思っていたのに怒りで我を失ったとはいえ娘に炎を向けるなんて…!!



『ザンザス……』

「……っ」

『この子に何かあったらどうするつもりよ!離婚よ、離婚!!』

「…ー…っ!!」

『何もなかったからよかったものの…!!今度は気をつけてよね!』

「あ……、あぁ、分かった。気をつける…。」

「オレの心配はねぇのかぁ、名前…」



ふぅとため息を零して私は赤ん坊をしっかり抱いて守ったスクアーロを見た。
相変わらず「かちゅ」と繰り返す赤ん坊にスクアーロは自分の名前を覚えさせようと必死だった。



「……やっぱり納得できねぇ。何で初めての言葉がカスなんだ」

『そりゃ、納得できないかもしれないけどさ、パパがいつも使ってる言葉を真似したんじゃないの?』

「……オレの、真似?」

『何だかんだ、お父さんの真似しちゃうのよ、きっと!』

「………」



フォローしとかないと大切なベビーシッター、じゃなくて仲間が本当に消しカスになっちゃう。
ふと、隣にいるザンザスを見ると心なしか穏やかに微笑んでいた。
この様子なら大丈夫だよね?



これからも私達の赤ちゃんを大切に育てて行こうね、ザンザス。









(スクアーロが好きだって言い出したらどうしよう…)(そんときゃ、カスの最後だ)(確実に、あの子に嫌われちゃうわよ)(………)



「スクアーロだぁ!す、く、あーろ……」

「すぅあ…?」

「違う、違う。ス、ク、アーロ……、ほら、言ってみろぉ…」

「す、くぁ……あ!」

「……」

「すく…す、くあーろぉ……?」

「う゛ぉ゛ぉい!そうだぁ…!偉いぞぉ…!!」

「やっぱりカッ消す……!!」

『あぁ、もう!言った傍から何をやってるのよ!』



end



加筆修正
2009/05/15

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