骸さん達に会いに行くために並盛町を出て黒曜へ向かう。

僕は情報を集めるため並盛に住んで並盛中に通っている。

骸さん達とは昔からの仲間という関係。

並盛も悪くないけれど、仲間に会わないと落ち着かないから週に一度は会いに行くようにしていた。



『……』



手ぶらじゃ何だからコンビニで差し入れのお菓子をたくさん買った。
骸さんにはチョコレート、犬と千種にはポテトチップスやガム、クロームには麦チョコ。

いつも主張らしい主張をしないクロームが好きだって言ってたから、麦チョコだけ多めに買った。

喜んでくれるといいな。



『犬、千種…』

「んぁー、おっ、名前じゃねーか、来たのか」

『これ、お土産』

「イチゴガム、あるびょん!?」

『あるよ。あと新発売のとか買ってきた』

「甘やかしちゃだめだよ、名前。」

『うん…、でも…』

「……、夕飯、食べてく?」

『…うん!あ、そうだ、骸さんにクロームは?』

「今、出掛けてるみたいだけど」

『そっか…』

「…何か用があるの?」

『骸さんとクロームにも買ってきたから渡そうと思って』

「……ここに置いておいたら犬が全部、食べるだろうから、しっかり持ってなよ」

『…うん、そうする。千種、夕飯を作るの手伝うよ』

「……おい、名前」

『なに?』

「お前さ、もうちょい男らしくなれねぇの?」

『えっ?突然、何、言ってるの?』

「なんつーか、いつも思ってたんだけど弱そうだよな。学校の奴らに馬鹿にされてねぇか?」

『弱そうってどこが…?』

「……」



千種はめんどい、と呟いてキッチンへ逃げていった。酷い。
犬はじーっと僕を見て何かを真剣に考えてる。

嫌な予感がして思わず後ずさり。
犬が変なことを思いつかないうちに千種の手伝いに行こう。



『そ、それじゃ、僕……』

「それだ!」

『え…?』

「僕って言うからだびょん!」

『でも、骸さんも同じ…だけど…?』

「骸さんはいいんだ!強いし背もでかいからな!」

『………』

「試しにオレみてぇな口調にしてみろって」

『犬、みたいな口調…?』



犬はソファーから身を乗り出して勧める。
本当に犬みたいな口調にすれば強そうに見えるのかな…?



『あ、でも犬って…』

「なんだびょん」

『強い、っけ……?』

「お前よりかは強ぇびょん!!」

『一番は骸さん…、千種とクロームとは…?』

「オレが二番目に強いに決まってんだろ!」

『…決まってるんだ?』

「そうだ!」



犬が、あまりにムキになってじたばたして話すものだから後に引けない。

そこまで言うなら試しに犬みたいな口調にしてみようかな。
犬は言い出したらきかないから僕が試さないと静かにならなそうだしね。



『そ、それじゃ……、オレ、千種の手伝いしてくる、ね』

「"ね"じゃなくて"な"にしてみろびょん」

『ち、千種の手伝い、してくる、な…!!』

「……」

『……今度もだめなの?』

「…なんか違うんだよなぁ」

『……違うってどういうこと?』



犬は数秒、考え込むと何かを思いついたらしく、僕の髪型を弄り始めた。
今度は髪型を変えてみようって、ことかな。



「ちょっと毛先、跳ねさせてみるびょん」

『え……』

「ほら!こういう髪型もいいんじゃねぇ?かっこいいびょん!」

『これ…、毎朝やるの…?』

「めんどいとか言うなよ。つーか口調、戻ってんぞ!」

『う、うん…』

「おぅ、だろ!おぅ!」

『……、お、おぅ…!!』



ぼーっと鏡を見ていると犬の手によって髪型が変わっていく。

かっこいいのかな、似合ってるのかな、これ。
僕には、よく分からないや。



「よっし!出来たびょん!」

『………』

「どうだ?」

『犬って、意外と器用だよね…、クロームの髪も骸さんみたいにカットしてたし…』

「まぁな!つか!また口調が戻ってるっつーの!!」

『う、うん…、お、おう…!!ごめ…、じゃなくて、悪い…』

「いー感じになって来たな。後はピアスか…、ゴツイ感じのアクセサリーでもつけてみるかー」

『アクセサリー…』



つまり犬は僕を獄寺くんみたいにさせたいってこと?
髪が跳ねててアクセサリーたくさんつけて、口調も犬みたいだし。



「ほら、この髑髏の指輪つけて、後はネクタイを緩めてみろ」

『うん…、こんな感じ…?』

「まぁ、さっきよりかは男らしくなったびょん」

『そうかな……?』



男らしいと言ったら山本くんや笹川先輩みたいなイメージなんだけどな。

今の僕、どうなんだろう。
雲雀先輩に見つかったら校則違反の塊としてトンファーで攻撃されてしまいそう。



『……』



鏡の中の自分に違和感を覚えていると足音が響いた。
どうやら骸さんとクロームが帰って来たみたいだ。



「ただ今、戻りましたよ」

「ただいま…」

「あっ、骸さん、おかえりなさいれす」

『おかえりなさい、骸さん…、それにクロームも…』

「おや、名前、来ていたんです、か……」

「名前、その格好……」

『……?』



僕を見た骸さんとクロームは言葉に詰まって固まっている。
骸さんは持っていた荷物をドサリと地面に落としてしまった。

どうしたんですか?と言う前に骸さんに肩を強く掴まれた。



『な、何ですか…っ!?』

「それはこっちの台詞です…!!何ですか、その格好は…!!並盛の不良に強制されたんですか…!?」

『え…?』

「あいつですか、獄寺隼人が趣味の押し付けを…!?」

『獄寺くん…!?ぼ……、…あ!オ、オレは別に…っ』

「オレ…!?そんな言葉遣いはいけません…!いつから不良になったんですか、名前!!」

『だって、犬が…っ』

「は……?犬…?」

「似合うじゃないれすかー!これで並盛の連中にも馬鹿にされないれすよー!」

「犬」

「え…?な、何れすか!?何で骸さん、怒って……」

「無理をさせる必要はないでしょう。理解が出来ないのでしたら犬も僕の好きなようにイメチェンしてもらいましょう」

「ナッポーなんて嫌れすよ!」

「………」

「……やっべ、チーターチャンネル!」

「能力を使って逃げるのはやめなさい…!!」



犬はチーターチャンネルを使い逃げ出した。
骸さんは犬の後を追い、僕とクロームの二人きりになった。

静かにしていると遠くで犬の「ぎゃん!」という声が響いたから、早くも骸さんに捕まってしまったみたい。



『……』

「………」

『……、どこに行ってたの?』

「あ…、本屋さん…、骸様とは途中で会って…、その…、名前は…?」

『ん……?』

「名前は……、今日、何で来たの…?」

『会いたかった、から』

「え…?」

『落ち着くんだ、ここ』

「そう……」



クロームは一瞬、驚いた顔をしたけれど、すぐ柔らかく微笑んだ。
そして鞄を抱えて控え目に僕の隣へちょこんと座り、おずおずと話し出した。



「名前……、これからは、その格好…?」

『どう…だろ…、オレ、は……』

「……」

『……こういう口調、なんだか慣れないな』

「……そう」

『うん……』

「……」

『………』

「……、…いつもの」

『……?』

「………私」

『ん……?』

「いつもの名前でいい」

『え…?』

「いつもの、名前がいい……」



隣でぎゅっと鞄を抱きしめてクロームは呟いた。

いつもの僕のままでいい。
その言葉が嬉しくて柔らかい髪に触れて撫でた。



『……ありがとう、クローム』

「………っ」



いつもより赤い頬のクローム。
俯いて、顔を隠しちゃったから覗き込んだら困ったように眉を下げて、さらに頬を赤くさせた。

可愛いな、なんて言ったらクロームは困るかな。
困らせて、もしも話してくれなくなったら、僕が困ってしまうから心の中で呟くだけにしておいた。

可愛い、という言葉の代わりに微笑んでクロームにお土産を渡す。



「これは……?」

『麦チョコだよ』

「麦チョコ…」

『クローム、この間、好きだって言ってたから。』

「……、覚えててくれたの…?」

『…もちろん。ねぇ。クローム…』

「……?なに…?」

『…僕、もっとクロームの事を知りたいな』

「え……?」

『教えてくれる?』

「でも、私のことなんて何を……」

『…何でもいいよ、好きなこと、苦手なこと、これからしたい事でも何でも』

「……、…私」

『ん…?』

「私も、名前のこと、知りたい…」

『クローム……』

「……」



クロームは緊張した様子でじっと見つめて僕の返答を待っている。
赤くなった頬に触れたら大げさに反応したけれど拒む素振りは見せない。



「……」

『クローム…』

「……?」

『……』



やっぱり可愛いな。
言葉に出してしまいそうだったけれど、何とか心の中に留めた。



『…それじゃあ、僕のことから話そうか。』

「……!」



そう言って笑いかけたら彼女はきょとんとしていたけれど、すぐに嬉しそうに微笑んだ。












初めての気持ち

胸の奥がくすぐったい



end



2011/07/10
お題配布元:青春

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