クリスマスイヴ。 クロームから話があるの、と連絡をもらったから黒曜センターへと向かった。 あいにく彼氏はいないしクリスマスイヴは家族と過ごすつもりだった。 そんな寂しいクリスマスイヴに友達に会えるなら嬉しくて向かう足取りは自然と早くなる。 『クロームー?来たよー!』 「あ…っ名前…」 『犬や千種はいないの?あとあの変態…』 「うん、皆は出掛けてる…」 念のため辺りを見回すと私達以外、誰もいない。 どうやら本当にいないらしい。 ほっとしてソファーに腰を下ろす。 だって、骸がいたらクロームとゆっくり話が出来ないんだもん。 何故か私をしつこく追いかけてきてはスキンシップと言う名のセクハラをしてくる。 そして変態で不愉快、極まりない発言にはいつも困らされる。 引っ付いてくるのは不快というよりも恥ずかしくて拒否。 だってそうでしょ? 彼氏でもないのにベタベタベタベタしてきて顔だけは無駄にいいから余計に恥ずかしい。 『ねぇ、話ってなに?』 「えっと…、その…」 『ん…?』 「大切な人に、プレゼントあげたいの……クリスマス、だから…」 『え…!!もしかして彼氏っ!?』 「違う。恋人とか、そういうのじゃないの…、でも、とっても大切な人…」 『違うの?』 「うん……、それで、その人の欲しいものが分からなくて…」 『あっ!もしかして一緒に考えて欲しいってこと?』 「ううん、聞いたの…」 『え…っ?』 「もう、聞いたの。どうしても思いつかなかったから…」 『へ、へぇ…』 ぎゅっと槍を握るクローム。 その表情は妙に思い詰めてるというか、決心した!というような気迫を感じる。 嫌な予感するのは気のせいだよね? 切実に気のせいだと思いたい。 なのに、これ以上は聞かない方がいいと本能が私に語りかけてくる。 『そっ、それじゃ、よかったね!なら、私はそろそろー…』 「待って、名前」 『……』 帰るため立ち上がった私を引き止めるクローム。 鞄の中から赤い大きなリボンを取り出している。 ははは、何かなー、そのリボンは。 そんでもってどうして、リボンを持ちながら私に詰め寄ってくるのかなー? 「名前が欲しいって言ってた」 『それは冗談だよ、クローム!絶対に冗談!』 「違う、骸様は名前のこと好きだもの」 『やっぱり骸か…!!だ、だからって、クローム!私をプレゼントするという考えは…って!リボン、つけないでー!!』 「大丈夫、可愛い…」 『可愛いとか、そういう問題じゃなくて…っ』 私にリボンをぐるぐる巻き付けるクローム。 これじゃ身動きが出来ないよ…!! 普段のクロームは少し消極的だけどすごくいい子。 なのに骸が絡むとこうも積極的に変わってしまう。 というか、いくら変態でも、こんなので本当に喜ぶと思ってんの!? いきなり、リボンぐるぐるの女をプレゼントです!なんて渡したら困るに決まってんじゃん! 普通に喜んだら本当に変態だよ!! 『外してぇぇ!!』 「だめ。後は頭にもリボンつけて…」 『プレゼントになるなんて嫌だってば!!』 「お願い…っ」 『いくらクロームのお願いでも嫌なものは嫌ぁーっ!!』 「おやおや、クローム。何やら騒がしいですが一体、どうしー…」 帰宅した骸はリボンを巻かれた私を見て大げさな程、目を見開く。 さすがの骸も、どんな状況か理解が出来ないらしい。 そりゃそうだ。 リボンにぐるぐる巻かれている状況を一発でどんな状況か判断が出来るはずがない。 「……!骸様…」 「何故、名前をリボンで巻いているのですか?」 「骸様、名前が欲しいって言ってた、から、だから…」 「……!クフフ、僕の可愛いクローム…お前は本当にいい子ですね…」 「骸様…っ」 『……っ』 あーはいはい、褒められてよかったね、クローム! そんなに嬉しそうな顔をされると私も嬉しいよ。 何とも微笑ましい二人のやり取りを横に私は、この場を離れようと芋虫のように必死に移動する。 あぁ、いっそ芋虫になれたら、もっと早く移動できるのに!! 「クフフ…」 『……っ』 「どこに行くのですか?」 『帰るんだってば!!ちょっと!リボンを掴まないでよ、前に進めないじゃない!』 「この格好で逃げられると思っているのですか?」 『……っ』 「動くとスカートが捲れますよ…、僕は全然、構いませんがね」 人が必死に移動してるのに骸はしゃがみ込んで私の身体に巻き付けられているリボンをつんつんと引っ張る。 こいつ、確実に面白がってる!楽しんでる!! 「クフフ、メリークリスマス、名前…」 『メリークリスマス!はい!もう、いいでしょ!?帰らせてーっ!!』 「ダメですよ。僕と一緒に過ごしましょう?リボンは解いて差し上げますから」 『え…っ、解いてくれるの?』 「えぇ。三叉槍でリボンを切ります。」 『で、出来るの!?上手くリボンだけ…』 「君の身体を傷つけるような事はしませんよ、ただ……」 『……?』 「ただ、少し…少しだけ手元が狂い衣服を切り裂いてしまったらすみません、クフフフフ…」 『はぁ!?』 「大丈夫です、万が一ですから。もしもの話です。」 『……はは』 「さぁ、まずは僕の部屋に行きましょう」 『ちょっ!!』 万が一、もしも…って言うけどさ! 絶対にその「もしも」が起きるとか思うんだけど!! 骸にとっては奇跡でも私にとっては不幸でしかないよ!! そんなクリスマスの奇跡なんていらない!! 私が今、思ったことは骸はお見通しのようで真剣に語りかけてきた。 「いいですか、名前」 『な、何よ…』 「奇跡とは自分で起こすものなのですよ。ただ待つばかりではチャンスを逃すばかりだ」 『何か、いい顔でいい事を言ってるけど、その言い方は服も一緒に切り裂く気でしょー!?』 「クフフ、肌が傷つかないなんて、それこそ奇跡ではないですか?」 『や、やだってば…!!』 「でしたら、名前。観念して僕の恋人になりましょう?」 『……っ』 「この際、恋人になってしまえば頭を悩ますことはないですよ、クフフ」 観念して恋人になったとして嬉しいのか、この男は…!! 確かに恋人同士になってしまえばセクハラも多少のスキンシップになるけれど……大人の階段を上がっちゃうじゃん!! 「どうしますか、名前」 『……っ』 にこにこ笑ってる骸に怒るに怒れない私。 こんな状況にされても強く文句を言えないのは骸のことが嫌いじゃないから、とか思ってしまう。 『……と、友達からなら』 「……」 『あぁぁ、槍でつんつんしないでよ、バカ!!』 「名前…」 『だから!そんな目で見つめられても友達からとしか言えないってば!!って!また槍で突っつくなー!!』 「クフフ、では、もう一度、返事を聞かせてください」 『……っ!!』 「僕は本気で君が好きなんです」 『な…っ』 するいでしょ、これ。 脅しじゃん、100%脅しじゃないか、これ!! でも、槍を突きつけられながらも骸は真面目な顔で告白してる。 『…〜…っ』 そんな風に見つめられたらイエスって言うしかないじゃない! 小さく頷いたら、彼は嬉しそうに笑った 『…ー…っ(そんな笑顔、見せないでよ、馬鹿!!ときめくな、私!)』 「クフフ、これで晴れて恋人同士ですね」 『あぁ、納得できない…!!』 「おめでとうございます、骸様…!」 「最高のプレゼントですよ」 end 2009/12/25 |