すっかり寒くなった今日この頃。
日が落ちるのも早くなり辺りは真っ暗。

近所のコンビニに行った帰り道、私は木枯らしに吹かれながら歩いていた。



『さて、と。早く帰ろ…、…しゅっ。』



独り言を呟いていると鼻がむずむずして、耐え切れずくしゃみを一つ。
冷えたから風邪でもひいちゃったかな。

はぁ、と息で手を温めながら、辺りを見ると普通の住宅街のはずが異様に明るくなっていて目を疑った。



『え…?』



きょろきょろと見回すと先程の暗い夜道が嘘のよう。

どこもかしこもパレードのような色とりどりの明かりで照らされていて眩しい。
木々や家はリボンやお菓子の飾りつけがされていて、まるでプレゼントのようにラッピングされている。



『な、何これ…』



もしかして夢?
思わず頬をつねってみると痛い。
どうやら夢じゃないみたい。

夢じゃないとしたら一瞬にして何でこんな風に変わってしまったんだろう。

非日常的な出来事にプチパニック。
いつもの帰り道で本当に家に辿りつけるのかな?
不安を覚えながらも歩いて行くと自宅に近づくにつれて、どんどんと賑やかになっていく。

黒猫にカボチャ、魔女や小人の人形を見たら、やっと今日が十月三十一日だという事に気がついた。



『…もしかしてハロウィーン?』

「正解です」

『……っ!』



声がして振り返るとランタンを持ち黒いマントを羽織ったナッポー…じゃない!恋人の骸がいつもの怪しい笑みを浮かべて立っていた。



『何なのよ、これ!骸の仕業!?あ…っ、もしかして幻覚!?』

「えぇ、お気に召しませんでしたか?」

『綺麗だけど、いきなりだったからびっくりしたよ!』

「クフフ、ならばちょっとした悪戯は成功ですね」

『ちょっとした悪戯どころじゃないよ!』

「せっかくのハロウィンなのですからいいでしょう」

『それは、まぁ…』

「さぁ、立ち話はこれくらいにして帰りましょう、送ります」

『えっ、でも、骸も帰るんじゃ…?遠回りになっちゃうよ』

「いえ、名前の家に向かっていたんですよ」

『まさか、ハロウィンのため?』

「はい、ハロウィンの王道パターンに乗り名前に悪戯をしようかと……と、冗談ですよ、もちろん」

『……』

「………」



怪しい。
じぃっと見つめるとコホンと咳ばらいして私の手を握り歩き出す。



『ちょ、ちょっと…っ』

「さぁ、帰りましょう」

『もう!誤魔化さないで!』

「クフフ…。…あぁ、そういえば、まだ言ってませんでしたね」

『何を?』

「トリック・オア・トリート、名前」

『はい、チョコレート』

「何で菓子類を持っているのですか…!!」

『だって今、コンビニに行って来たから。雑誌を買うついでにお菓子もね』

「……予定が狂いましたよ」

『予定って?』

「お菓子なんて持ってないという名前に迫るという予定です」

『………』



眉間に皺を寄せて悔しそうな顔。
いじけた様な視線を送られると可愛いと思ってしまって、私も骸をからかいたくなった。



『じゃあ、チョコレートいらないの?』

「そ、それは…」

『新発売だよ、美味しいと思うんだけどなぁ』



封を開けて骸に見せびらかすとじっとチョコレートを見つめている。
チョコレートは骸の好物。
甘い香りに誘われて折れるのは早かった。



「……欲しいです」

『聞こえないなー』

「…トリック・オア・トリート。お菓子ください。」

『ふふっ、はい、どうぞ!』



チョコレートの封を開けて、骸の口元へ一つ運ぶと素直に食べた。

今日の骸は何だか、可愛いなぁ。
もっと悪戯したくなっちゃう。



『美味しい?』

「えぇ、これは中々…」

『……ねぇ、骸』

「どうしました?」

『トリック・オア・トリート!』

「え…?」



お菓子、持ってる?と聞くときょとんとして驚いている表情。
自分が言うことしか考えてなく私からトリック・オア・トリートと言われる事を予想もしてなかったらしい。

その様子からして骸はお菓子なんて持ってなさそう。
ちょっと意地悪だったかな?

ふふ、と悪戯を企む子どものような笑みを浮かべると骸はふっと微笑んで私を抱き締める。



「…お菓子、差し上げます」

『え……?』



持ってたの?と首を傾げると、その瞬間、唇が重なった。



『……っ!!』

「……」



骸が食べた甘いチョコレートが私に移る。
重なった唇が離れると、至近距離で瞳が合い頬が熱くなる。

確かに甘かったけど、今のキスがお菓子の代わり…!?
外でキスをすることも含め、色んな意味で恥ずかしくてドキドキする。

赤くした顔で骸を見つめると、私につられたように彼も頬を染めて手の甲で口元を隠した。



「…何だか、少し…照れますね」

『う、うん…そう、だね…外だしね…』

「……」

『………』

「…帰りましょう、か」

『う…、…うん!』



ぎゅっと手を繋ぎ、彩られた夜道を歩き出す。
幻覚でハロウィーンタウンとなった賑やかな街を案内してくれるようだった。












「ではなく、君の甘いキスでお願いします」

『え…っ!?』



end



2010/10/31
お題配布元:TOY

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