日本の夏というのは酷く感傷的にさせる。
きっと大切で失いたくない物があればあるほどに。

想いが強ければ強いほどに。



『骸様!早く来て下さい!』

「おやおや、名前、そんなに急がなくても大丈夫ですよ」

『早くー!』

「クフフ、待ってください」



仲間であり恋人である君と夏祭りへとやって来た。
二人で慣れない浴衣を着て祭りを回ると心が騒がしくなる。

色々な露店を回って楽しい時間。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろ花火が打ち上げられる時刻となった。

露店巡りに一区切りつけて神社の裏の特等席へと腰を下ろす。



「ここなら落ち着いて見れますね」

『この場所、昼間に散歩してる時に見つけたんですよ!』

「ほぅ、そうでしたか。」

『打ち上げまで、もう少しだけ時間あるから、のんびりしてましょう!』

「それもいいですが、花火やりませんか?」

『えっ!?花火ですか?』

「えぇ、手持ちの花火です。来る時に買って来たんですよ、いかがですか?」

『やりたいっ!です!』



元気よく返事をする名前は可愛くて自然と綻んだ。
花火を渡すと曇りのない笑顔を僕に向ける。



『骸様もやりましょう!』

「僕も、ですか?」

『はい!』

「……」

『やりませんか?』

「……そう、ですね、たまには僕もやりますか」



火を灯せばたちまち色とりどりの光を放つ。
つんと鼻につく火薬の煙、この独特の匂いにもどこか夏を感じる。



『わぁ…っ、綺麗…!』

「……」



名前は光の残像で字を書いたり、とても楽しそうだった。

火をつけると激しく瞬き、光は数秒で消える。
消えていく花火はどこか哀しげに見えた。



『あっという間でしたね』

「クフフ、そうですね。ですが最後に線香花火が残ってますよ」

『あ!本当だ!』



二人で同時に火をつけると沈黙が続く。
落ちないようにそっとじっと"終わり"を待つ。

動かしたら今にも落ちてしまいそうな線香花火。
バチバチと火を散らした後、ゆらゆらした穏やかな優しい光はまるで君のようだと思った。



「………」

『……』 

「………」

『あ……』

「…おや、残念ですね」



ぽつりと落ちてしまい光を失う花火。
そんな花火を見て名前は残念そうに笑った。



『線香花火って可愛くて綺麗なのに、すぐ終わっちゃいますよね』

「仕方ないですよ。ほんの一瞬だからこそ美しさが際立つんです。」

『……?』

「惜しいと思うでしょう?一瞬だからこそずっと見ていたいと思う」

『……骸様、今日はなんか真面目ですね』

「僕はいつでも真面目ですよ、名前」

『えーっ、嘘だー!』

「失礼ですね、即答ですか」

『だってー!』



二人で小さく笑い心地いい時間。

この時間は永遠になんて続かない。
花火のように必ず終わりが来る。

そう思ったら寂しさを感じて素直に楽しめる事が出来ない。



『骸さん!そろそろ打ち上げ花火が始まりますよ!』

「もうそんな時間ですか」

『はい!』

「……」



空を見上げると遠くでドンと音が鳴り空には大きく鮮やかな華が咲く。
打ち上げられては消えて、また新しく上がる花火。

隣で微笑む君を見ると柄にもなく、この時が永遠に、この先もずっと続けばいいと思ってしまう。



『ねぇ、骸さん……』

「どうしました?」

『ほんの一瞬でも、綺麗ですよね…』

「…そうですね」

『だから、残るんですよ』

「残る…?」

『はい!花火は昔からずっとあるものですよ』

「……」

『心に残るから、大切な人と見たいから今もあるんです』

「………」

『……だから』

「……?」

『だから、来年も一緒に来てくれますか?』

「………」

『骸、さん?』

「…もちろんですよ、また来年もまた見にきましょう」

『………!』

「…ずっと共にいましょう」

『……!はいっ!』



指を絡めて繋いで、自然に綻ぶ笑顔を君に贈ればぎゅっと握り返してくれる。
この瞬間がたまらなく愛しい。



「………」

『……』



必ず終わりは来る。

だけど君への想いは終わりなんてない。
僕の中で永遠に巡る。

来年も、十年先も、ずっと変わらない。












永遠を教えてくれる君は僕の光



end



2009/08/31

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