買い物の途中、恋人である骸さんから「大怪我をして動けない」という一通のメールが届いた。
私は驚いて心配になり急いで黒曜センターに戻った。

息を切らしつつも足を止めず、骸さんの部屋へ直行。
勢いよく開けた扉の向こうには、いつものように微笑む骸さんがいた。

彼は優雅に紅茶とケーキを用意して待っていて、今日は何月何日でしょう?と笑顔を共にクイズを出されたら、いとも簡単に答えが出た。

答えは四月一日。
今日はエイプリルフールだ。



『……っ』



先程のメールは骸さんがついた嘘だという事が分かると、へなへなと足の力が抜け、その場に座り込んだ。

その様子を見た骸さんは、また楽しそうに笑っている。

骸さんの事、大好きなのに今日の骸さんは大嫌い。
安心して出た涙は俯いて隠しておこう。

見られたくないもん。



『う、嘘つく人って大っ嫌い…!……です!!』

「そのセリフ、去年も聞きましたよ」

『そうですよ!去年も騙されましたもん!!』

「まさか同じパターンで引っかかってくれるとは…、クフフ…」

『…ー…っ!!』

「このケーキ、怒るであろう君のために買って来たんですよ」

『な…っ』

「ほら、食べましょう」

『む、骸さんのばか…っ!!』

「おっと…」



また騙されてしまった自分に落ち込むのと同時に骸さんに苛立つ。
近くにあったクッションを手に取り骸さんに向かって投げてみるけど簡単にキャッチされてしまった。

キャッチされてしまって、またムカムカして骸さんに背中を向けた。
いくら美味しそうなショートケーキでも今年こそは許してあげないんだから!



「すみません、機嫌を直してください。……ね?」

『いやです!』

「チョコレートケーキもありますよ」

『…ケーキじゃ機嫌、直りません!!』

「こちらを向いてください。でないと君の分のショートケーキの苺、食べてしまいますよ」

『そんな事を言っても向きませんってば!!』

「困りましたね」

『困ってる割にはにこにこにこにこ笑ってるのは何でですか!』

「おや?そんなに笑ってますかね?」

『笑ってます!!私を騙して、そんなに面白いんですか!?』

「……」

『毎年毎年、嘘をつかれて、その度に心配してるのに!楽しんでいるのは骸さんだけです…!』

「…楽しんでませんよ」

『楽しんでいるでしょう!?さっきから笑ってばっかりです…!!』

「違いますよ。これは楽しい、というよりも…」

『……?』

「嬉しいんですよ」

『は……!?』

「君が心配してくれて、僕のために息を切らして駆けつけてくれる事が。」

『な…っ』

「君を信じていない訳ではないですが、気持ちを確かめるような事をして僕は本当に歪んでますね」



骸さんは後ろから私の頭を優しく撫でる。

撫でてくれる大きな手は本当に優しくて温かくて私を落ち着かせてくれた。
そっと振り向くと骸さんは私を包み込むように抱きしめる。



『……!!』

「君の気持ちをよく考えず少々、過ぎたことをしてしまいましたね…」

『骸、さん…』

「すみません…」

『………』

「許して、くれませんか?」

『……だったら』

「何です…?」

『もう、嘘をつかないでください…』

「そんな事でいいんですか?」

『…はい。…それと』

「それと…?」

『怪我……とか、しちゃ嫌です…』

「……」

『危ないこと、しないで…ほしいです…』

「……クフフ、分かりました」



腕の中から骸さんを見上げると嬉しそうに微笑んでいる。

今年のエイプリルフールもまた、骸さんにとって有意義なものとなったみたい。
心配したけれど、こうして抱きしめられると怒っていたのに身を委ねてしまう。

大好きです、と呟いたら骸さんは、また嬉しそうに笑った。












『骸さん、チョコの味がします…』

「おや、ばれてしまいましたか」

『チョコレートケーキ、つまみ食いしてましたね!』



end



2009/04/01

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