脱獄してイタリアから日本へ渡った。
そして、私達は黒曜中に編入。

千種、犬、骸様達は一緒のクラス。
だけど私は悲しくも遠く離れたクラスになってしまった。

同じクラスがよかったなって思っても決められた事は仕方がないよね。
行きと帰り、お昼は一緒だから寂しくない。



『……』



学校に通い始めて気付いたことが一つある。
ずっと一緒にいたからかな?私は全然、気付かなかったの。

犬と骸様、そして恋人である千種までも異性にモテるって事が!

そりゃあ、骸様は背も高いし優しいし強いから目立つなぁ、とは思ってたけど犬と千種は私の中で想定外。



『……はぁ』



帰りのHRが終わって千種達のクラスに向かう。
クラスに着いて中を覗くと、いつものように女の子に囲まれていて中に入る事に戸惑って足を止める。

どちらかと言うと目立つ事が苦手で消極的な私は千種達に声を掛けられず、廊下から様子を見ていた。



『う……、今日はいつもより女の子が多いかも…?』



ううん、「かも」じゃない。
明らかに多い。多すぎるよ!

皆の様子を見ると可愛くラッピングされた包みを持っていて骸様や犬、千種達に渡してる。



『……?』



何だろう?と首を傾げて考えるけど何も思い付かない。
クラス内に甘い匂いが充満してるから中身はお菓子に間違いはないと思うけど、一体、何で渡しているんだろう。

バレンタインデーは二月。
千種達の誕生日って訳でもない。
記念日でもイベントもない普通の日なはずなのに何で三人にプレゼントしているんだろう。
考えれば考える程、首を傾げてしまう。



『……』



見ていても謎が増えるばかり。
千種達も私に気づかないから静かにドアを閉めて廊下に戻る。

壁に持たれかかって、ため息を一つ零してドアを見た。
こんなんじゃ、気づいてくれるはずがない。

今日はもう先に帰っちゃおうかな、と考えたら妙に寂しくなってきて目頭が熱い。



『どうしよう…』



教室内がすごく賑やかだから一人で廊下にいる自分が余計に寂しくなった。

……やっぱり帰ろう。
メールを送っておけばいいよね?

そう思い携帯を取り出しながら踵を返した。



『……』

「………っ」

『今日の夕飯、私が作ろうかな…?あっ、だったら帰りに買い物してー…』

「名前……」

『へ?』

「こっち、来て……っ」

『……っ!?』



ふいに後ろから呼ばれる。
振り返る間もなく手を引かれて走り出した。
手の主を見ると、さっきまで骸様や犬と一緒にクラスの中心になっていた千種。

走って中庭まで出ると、やっと足を止めてくれた。
非戦闘員である私は千種と違って体力がないため、息がすっかり上がっちゃって必死に呼吸を整えながら話しかけた。



『ち、千種…!?どうしたの…!?』

「はぁ……、めんどい…」

『千種…?』

「クラス、煩くて…、帰ろう、名前…」

『え…、帰っちゃっていいの?』

「うん…」

『……ね、ねぇ』

「なに…?」

『女の子達に囲まれてたけど、何だったの…?』

「あぁ…、うちのクラス…調理実習で…カップケーキを作ったんだけど…」

『調理実習…?あっ!私のクラスは来週だって言ってた!』

「そう、それで女子が…」

『カップケーキを千種達に渡してたって事?』

「うん」

『そ、そっか……』



千種、カップケーキ、貰ったのかな?
貰ったのね?断る理由なんてないもん。

胸の奥がもやもやする。



『……』



もし来週、カップケーキを作ったら千種は私のを貰ってくれるかな?

普通の恋人同士の常識が私にはよく分からない。
でも、付き合っていても言って良い事と悪い事ってあるでしょう?

"他の女の子から貰わないで"なんて、私の我侭。

こんなこと、言えるはずがない。
我慢する事よりも、こんな事を言って千種にめんどいと思われる方がやだもん。



「……名前?…どうかした?」

『……っ!な、何でもないよ!え、えっと、その…』

「ん…?」

『も、もしかして、骸様達もちゃんと調理実習に参加したの?』

「ほとんどオレがやったようなものだけどね……、ほら、これ…」

『…?何これ?』

「カップケーキ。オレが作ったやつでよければ名前にあげる…」

『あ、ありがとう…!!』



カップケーキを受け取ると千種は私の頭を撫でてくれた。
これだけで気分が変わっちゃう私は何て単純なんだろう。

だけど、やっぱり千種が他の女の子から貰ってたと思うと心の奥にモヤモヤが残る。

私が千種の恋人だって皆は知らないから、仕方ない。
そう、自分に言い聞かせて無理矢理、納得させて黒曜中を後にした。



「……」

『ねぇ、千種…』

「……なに?」

『さっき、私がいたの気づいてたの?』

「……?」

『えっと、声かけなかったのに廊下に出て来てくれたから…』

「あぁ、気づいたというか……」

『……』

「そろそろ来るかなって、思ってたから…」

『そっか…』

「…うん。ねぇ、名前…」

『何?』

「……カップケーキ、オレ、誰からも貰ってないから」

『えっ?』

「…さっき、気にしてただろ」

『き、気づいてたの…!?』

「……別に。…何となく」

『……』



カップケーキ、貰ってなかったんだ。

千種、甘いもの苦手だったっけ?
それとも私に気を遣ってくれたのかな?



『千種…』

「なに…?」

『甘いもの嫌いだった…?』

「……名前のだったら食べるよ」

『……そっか』

「……うん、だから」

『だから…?』

「……オレ以外の奴にあげないでよ。」

『……へ?』

「…、……」

『それって、さ』

「……」

『……骸様や犬にもだめってこと?』

「………」

『ね、ねぇ!な、何で黙るの…っ!?』

「………めんどい」

『ま、待ってよーっ』



無表情に近い、いつもの顔で早歩きになった千種を小走りで追いかける。

だけど、気づいちゃった。
千種の頬、少し赤かった。

自分で気づいているのかな?
もしかして、照れ隠しで早歩きしてるの?

千種も私と同じ気持ちなのかな?



「……」

『…ー…っ』

「………」



他の女の子を見ないで?
私だけを見て欲しい。



大好きって気持ちを、今よりももっと伝えたくて、彼の大きな背中に抱きついた。









(私だけの特権なの!)



end



2008/06/21
970000hitキリリク
Red Rose様へ!

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