恋人と一緒の帰り道。
私は些細な事で怒って拗ねて、ついつい大嫌いって言っちゃった。

彼は私をきょとんとした顔で見つめてる。



『あ……、む、くろ…、その、私……』

「名前は僕の事が大嫌い、ですか」

『む、骸、えっと、私…』

「…僕の事が大嫌いなら無理して付き合う必要ありませんよ。」



骸は長いまつげを伏せて私から視線を逸らした。
哀しそうに、ため息を零して私の先を歩く。

引き止めなきゃ、と思うのに声が出ない。
好きなのに、これで終わりだなんて嫌で私は骸の背中を見つめる。



『……っ!!』

「……!」



声が出ない代わりに私は骸の背中にぎゅっと抱きついた。
骸は立ち止まってくれて私の腕に触れている。



『……ご、ごめん、なさいっ!』

「名前…」

『だ、大嫌いだなんて、つい言っちゃった、の…。』

「……」

『だから、そんな事、言わないで…っ』

「では、名前……、僕の事、好きですか?」

『…ー…っう…ん、好き…だよ』

「本当ですか…?」

『……大、好き』



好きと伝えたら抱きしめる力が自然に強まった。
恥ずかしくて骸の背中に顔を埋めて隠していると、突如、彼の笑い声が聞こえた。



「クフフ……」

『骸…?』

「嘘ですよ、名前」

『えっ?』

「最初から、嘘です。」

『………?』

「クフフ、まさかこうも上手く引っ掛かってくれるなんて名前は本当に可愛いですね。」

『……』



身体をくるりとこちらに向け、私の頭を撫でる。
その表情は楽しそうで先程の哀しそうな表情はどこにもない。

ぽかんとして見上げていると、またくすくすと笑われた。



『え…、え……?』

「大体、おかしいと思いませんか。大嫌いと言われたくらいで僕が君を手放すとでも?」

『……』



嫌いと言われようが手放す訳ないじゃないですか。
そう言って開き直るようにクハハハハ!と笑う骸。

よ、ようするに何?
私、骸にはめられたの?



「しかし、とても嬉しい誤算でしたよ、名前が告白をしてくれるなんて」

『む、骸…っ!』

「はい、なんですか?」

『む、骸なんて、やっぱり大嫌い…っ!!』

「そんなに顔を赤くして大嫌いと言われましても、クフフ…」

『き、嫌い!骸の馬鹿!』



骸は嫌い、馬鹿と繰り返す私を腕の中に閉じ込める。

暴れたって骸の力には敵わない。
私は怒っているのに骸はそんな事、少しも気に留めてないようだった。
むしろ小さな抵抗やご機嫌ななめも彼にとっては喜ばす要素らしい。

じたばた暴れる私をぎゅーっと効果音が付きそうな程、抱きしめて耳元にキスを落とした。



『や……っ』

「クフフ、先程、言ったでしょう?」

『な、何が…っ!?』

「嫌いと言われようが憎まれようが君を手放すつもりは未来永劫ありません。」

『……っ!!』



その言葉を聞いて私は抵抗する事を止めてしまった。

私の顔はさらに赤くなった事だろう。
骸が何かを言う度、する度にドキドキして息苦しくなっちゃう。



『…〜…ッ』



頬が赤く染まった私を見て、骸はムカつくほど上機嫌に微笑んでる。



『……』



嫌い、嫌い、大嫌い。
でも、やっぱり好き。大好き。

私の「大嫌い」は骸にとって、きっと最上級の「大好き」に聞こえてるに違いない。












end



加筆修正
2009/05/15

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