授業を抜け出し屋上で寝転がると僕の視界には大空が広がる。
気持ちがいい風にほっとして空を見ていると後ろから明るい声が聞こえた。

ある人物が頭に思い浮かぶと同時に大空を遮られる。
大空を見ていた僕を覗き込んだのは予想通り彼女、苗字名前だった。



『六道君!またサボり?』

「…名前、また来ましたか」



いつからだったか「そんなところで寝てると風邪ひくよ」とやって来て僕の視界は大空から名前に変わった。

僕が屋上でサボっていると君は時折り、ここにやって来る。
所謂、サボり仲間というところでしょうか。

どこにでもいそうな少女。
第一印象はよく笑う、そう思った。

嫌味のつもりでそれを言ったら「六道君だってよく笑うじゃない?」と聞き返され驚いたことが印象に残ってる。
彼女は愛想笑いというものを知らないらしい。



『今日は朝からひっきりなしだね、大人気だ!』

「人気、ですか…」

『そうそう!あんなに女の子に囲まれるなんて中々ないよ?私、初めて見た!』

「………」

『あんなに囲まれてどうしたの?プレゼントとか貰ってたよね?』

「…えぇ、色々と頂きましたよ。中身はまだ見てませんが」

『……』

「………」

『…なんかさ、プレゼントを貰ってた割には全然、嬉しそうじゃないね?』

「……そう、ですか?」

『そうですよー』

「……」



六道君の真似してみた、と君は笑う。
真似?あぁ、もしかして口調の事ですかね。



「………」



先程の会話からして名前は僕の誕生日なんて知らないようだ。
もちろん言ってないから当たり前だけれど妙に苛々してしまう。

彼女を見ていると苛々して仕方がないため、視線を合わせず会話をしていると名前はいつものように横に座り、また僕の顔を覗き込んだ。



『あれ?怒った?』

「そんな事で怒る訳ないでしょう。ところで君は何故、ここに来たのですか?」

『え?だって私もいつも来るでしょ。』

「それはそうですが…」

『この時間、退屈でさ!六道君は?あ…っ!もしかして六道君も苦手科目の時間だからサボってるの?』

「僕に苦手な教科があるとでも?」

『な、なさそうだね…』

「当たり前ですよ」



皮肉交じりに、ため息を吐き僕は視線を空に移した。
名前も静かに傍にいて空を見上げていた。


"嬉しそうじゃないね?"

"怒ってる?"


その言葉はあながち間違いではない。
現に先程よりも苛々している。

君がただ静かに僕の傍にいるから。



『……』

「………」



続く沈黙。
いつもは煩いと言っても話すから沈黙が余計に静かに感じてしまう。

機嫌が悪い僕を察して気を遣って喋らないのだろうか。
気になって隣に視線を移したら目が合ったけれど、君は慌てて逸らした。

その態度は何ですか。苛々する。



「…何か用ですか?」

『……用と言えば用だけど、六道君、今、機嫌が悪いでしょ?』

「…悪いと言えば悪いです。君のせいで」

『なっ!私のせい?』

「そうです、君のせいです」

『私、何かした!?』

「してないから怒ってるんですよ」

『……?意味が分からないよ』

「…僕もよく分かりません」

『何それ』

「……」



寝返りをして君に背を向ける。

言えるはずがない、言いたくもない。
君からの"おめでとう"の言葉がないから子供のように"拗ねている"だなんて。

こう思う僕は、きっと君の事が……。



「……(…まったく、厄介な感情だ)」

『六道君ー?』

「………」

『……』

「………」

『ナッポー…』

「……ッ」

『あ、反応した』

「……」

『そんなに怒らないでよ!誕生日でしょ?』

「…知っていたんですか」

『そりゃ知ってますよー』

「…また、僕の真似ですか」

『そうですよ!…という事で誕生日おめでとう!』



はい、と笑顔で渡されたプレゼント。
いきなりの事で僕は驚きを隠せなくて上半身を起こした。



『六道君?どうしたの?』

「え…、あ…、その……」

『そんなに驚くこと?』

「驚きますよ、君に誕生日を教えてないでしょうに」

『いくら私でも好きな人の誕生日くらいチェックするよ』

「………は?」



君はまた驚くことをあっけらかんと言葉にする。
そして、いつものように明るく笑う君に僕のペースは簡単に崩れてしまう。

だから僕はいつも素直になれない。
他人に自分のペースを崩される事を好まないから意地を張る。



「………」

『六道君…?』

「……こちらに来てください」

『なに?……ッ!?』

「……」



名前は無防備に僕に近づく。
僕は近づいてきた名前をそっと抱き寄せてキスをした。

いつも自分のペースを崩す事がない名前はどういう反応をするでしょうね。



「………」



慌てて、何でこんな事をしたの?とでも言うでしょうか。
そうしたら、僕も素直になれる。

君が好きだからですよ、と伝えられる。



『…ー…ッ』



唇を離して髪を撫でたら名前は目を丸くさせ驚いていた。
これで、おあいこというものでしょう。



『……っ』

「……」

『えっと、今の…』

「誕生日プレゼント、確かに頂きましたよ」

『プレゼント、こっちなんだけど…っ!!これだよ、これ!』

「……ムードの欠片もありませんね」

『だ、だって、あんな…っいきなり…っ』



カァァと顔を赤くさせる名前。
形勢逆転とは、この事でしょうかね。

いつもの君からは想像が出来ない程しおらしく、頬を染めて恥ずかしそうに俯いてる。



「先程の答えですが…、…と、聞いていますか?」

『……六道君』

「何です…?」

『……』

「名前……?」

『………隙あり!!』

「……っ!?」



俯く君に近づいたら制服を掴まれて唇が重なる。
ほんの一瞬の事だけれど、君からのキスは、とても長く感じて僕の思考を奪った。



「…ー…っ!?」

『お返し!』

「な…っ、い、今のは…っ」

『大成功!だね!』

「……っ名前」

『へへ、また後でね、六道君!その時に"返事"を聞かせて!』

「ちょっ、ま…っ、待ってください…っ」

『ばいばい!』



そう言って、へらりと笑い名前は屋上を後にした。

とっさに手の甲で隠した唇には君の熱が残っている。
その熱は僕の意思とは関係なく頬にも移っていく。

顔が熱い。
どくんどくん、と脈打つ心臓が煩い。

君の笑顔が、声が離れて消えてくれない。



「…ー…っ」



認めたくないけれど、駆け引きは僕の負け。












告白の返事、タイミングが掴めない

プライドが邪魔をするから



end



2008/06/09

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