『犬君!ケーキ、お願いねー!!』

「んなの言われなくても分かってるっつーの」

『チョコレートケーキだからね!』

「何度も言うなって!」

『だってー!!』

「犬、自分の好きなの買ってきそうだからね」

『あ、千種君、さすが!分かってるね!』

「まぁね」

『お花はクロームちゃんが買ってきてくれるからー…、よし!私は料理しちゃおっと!』



毎年毎年、見る光景。
小中学生じゃあるまいし皆で集まって誕生日パーティーだなんて馬鹿げている。

普通は男女二人きりで、いい雰囲気を作り過ごすものでは?
まぁ、恋人同士でないからと言われれば、それでおしまいですがね。

名前のことだ。
はっきりと「恋人でも何でもないのに二人きりでお祝いするの?」と言われそうで食事に誘えなかった僕は何て意気地がない。



「……」



賑やかなものも悪くはないですよ。
犬や千種、クロームが楽しんでくれるのなら名目なんだって構いません。

ですが僕そっちのけで名前が犬や千種、クロームと準備ばかりするものだから、どうにも納得、出来ないものがある。



「…君は本当にいつでも嫌になるくらいに元気ですねぇ」

『元気が一番でしょ?六道君は誕生日はいつも不機嫌だね!』

「誰のせいだと思ってるんですか?」

『さぁ、誰のせいでしょうねー?』

「……」



十年前とまったく変わらず無邪気に僕の真似をして悪戯に笑って舌を出す。
…そんな姿が可愛いだなんて思っても絶対に口にも顔にも出してやるものか。



『あれ?また不機嫌になっちゃった?』

「別に。何でも。」

『本当に?』

「……本当です」

『……?』



あぁ、もう。
首を傾げて無邪気に覗き込まないでください。
君の一挙一動に口角が上がってしまいそうな顔を必死に抑えているというのに。

本当、君にはイラつかされる。
特に僕の誕生日、六月九日は。



「手伝う…」

『あっ、千種君、ありがとうー!!さっ、主役の六道君はあっちの部屋で待っててね?』

「追い出す気ですか」

「骸様、休んでいてください」

「千種まで何を…」

『そうそう、休んでてくださいねー!!』

「な…っ」



どうして千種と名前は仲がいいんでしょうね。
実は付き合っているとかそういう落ちは止めてくださいよ。



「……」



追い出された僕はテレビを見ているふり。
正直、耳に入らない。
キッチンの和気藹々な雰囲気が気になって仕方がない。

もしも、十年前の君からの告白の時、下らない駆け引きをせずに素直に「僕も好きだ」と伝えていれば今、この時間は間違いなく二人きりで過ごしていただろう。

この妙な疎外感はこの十年間、ずっと想いを告げられずにいる罰だろうか。



「大体、こういうパーティーは本人に知らせないのが普通ではないでしょうかね」



皮肉を零してソファーに寝転がる。
少し開いた窓から風が入って気持ちいい。

僕はそっと目を閉じてキッチンから聞こえる音に耳を傾けていた。

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