私の一日はまず恋人の骸様を起こす事から始まる。

朝ごはんの準備はばっちり!
今朝は和食にしてみたけどパンの方がよかったかな?
美味しいですよ、って言ってくれるかな?なんて思いながら、まだ夢の中にいる骸様に声をかけた。



『骸様、朝ですよー、起きてくださーい!』

「ん……」

『朝、ですよ、骸様…』

「……名前」

『わ…っ』



引き寄せられた私は骸様に抱き締められてベッドの中にダイブ。
骸様を起こすのは毎朝、時間がかかっちゃう。

時にはぎゅっと抱きついて、時にはキスで起こしてください、なんて困ったことを言っては二人きりの時間を楽しむように駄々を捏ねるから。

こういう時の骸様は子どもみたい。
可愛い、なんて言ってしまっては、むっと怒ってしまうかもしれない。
だから言葉にしない代わりに微笑んで髪を撫でた。

気持ちよさそうに目を細めるものだから、つい甘やかしちゃう。



『もう、骸様…、早くしないと朝ごはん食べる時間がなくなっちゃいます』

「クフフ、いいでしょう?少しくらいゆっくりしても…」

「良くないわよ、骸ちゃん」

『……っ!!』

「……M・M、僕の寝室に入っていいのは名前だけですよ」

「ギリギリ入ってないわよ、ほーら」



既に開いているドアをトントンとノックするM・M。
私は一部始終を見られていた事に恥ずかしくなり骸様の腕から逃れて彼女の元へと駆け寄る。

骸様と私は恋人、一緒に住んでいる。
だけど二人きりで同棲という訳ではなく仲間と共同生活をしていた。

いつ誰が見ているか分からないのに骸様はお構いなしに恥ずかしい事を言ったり抱き締めてくる。
そんな私達を見た仲間達にからかわれる事もしばしば。

もちろんM・Mもその仲間の一人。
最近は骸様にちゃちゃ入れするのがマイブームらしい。

そんな事は知らない骸様はだるそうに起き上がり私達に視線を向けた。



「名前、気にせず僕の元へ来なさい」

『え…、で、でも…』

「だめよ、名前。私、お腹が空いてるんだから早く朝ごはんにしましょ」

「おや、まだ食べてなかったのですか」

「名前が全員、揃わないとだめって言うからね。骸ちゃんとあの馬鹿イヌが最後よ。イチャイチャしてないでさっさと起きてよね」

「……」

「というか師匠ー。朝からセクハラは良くないですよー」

「お前までいましたか。恋人同士なのですからセクハラになりませんよ…、クフフ、それにしてもカエルを被ってないと目立ちませんね、おチビ。」

「師匠みたいな髪型にすればミーも少しは目立ちますかねー、そんな髪型、絶対に嫌ですけどー。」

「朝から刺されたいのですか、フラン。そしてM・M。最近のお前達は少々、僕を甘く見ていませんか」

「見てないわよ。いつでも怖いって思ってるわ!今も眉間に皺を寄せてこわーい!ねぇ、フラン?」

「えぇ、怖いですよねー、師匠ってー。名前さん、オタスケー」

「そうそう、助けて、名前ー」

『え…っ!?』



右にはM・M、左にはフラン。
私の腕にぎゅうーっと抱きついてきたものだから身動きが出来ない。

その状態を見て骸様は眉間に皺が寄り笑みが引きつる。
片手にはいつの間にか三叉の槍が握られていた。

槍に気付いたフランは素早く私の後ろに隠れる。



「名前の後ろに隠れるなんて卑怯な…」

「すみませんー、師匠に似てしまいましてー」

「………」

「というか師匠って寝起きがめちゃくちゃ悪いんですねー」

「寝起き以前の問題です。さっさと僕の名前から離れなさい。」

「嫌ですよー、ミーは名前さんの事、姉のように慕っているんですよー。甘えたっていいじゃないですかー。」

『え……!?』

「えっ!?ってなんですかー?もしかして迷惑ですかー?」

『う、ううん!嬉しい…!!』

「おぉ、本当ですかー?」

『本当だよ!私、兄弟っていないから嬉しい!』

「じゃあ、今度、一緒に買い物でも行きましょうよー」

『うん!』

「ちょっ、ちょっと待ちなさい、名前…!」

『あ…、はい、骸様、何か…?』

「何か?ではないですよ、僕がいるのに他の男と買い物に行くとは…!!」

「キャハハ、骸ちゃんってば慌てちゃってー!犬と千種と買い物に行くのはいいのにフランはだめな訳ー?納得いかないわよね、フラン?」

「そうですよー、ミーはもっと名前さんと仲良くしたいですー」

「M・M…!!おチビ…!!お前達、本当に性格が悪いですよ」



怒っているのか少しだけ低い声で骸様が言った。
その言葉にたいしてフランとM・Mはふっと笑って「師匠ほどじゃないですよー」「骸ちゃんほどじゃないわ」と返す。

見事にハモった言葉に骸様はまた眉間に深い皺を寄せる。



「さーてと!今朝はこれくらいにして、と……私はそろそろ馬鹿犬を起こして来るわね!」

『あ……、犬、起きるかな?』

「大丈夫よ、これで一発。」

『それって、クラリネット?』

「えぇ、耳元で思いっきり吹けば一発よ」

「一発であの世ですよねー、グッジョブバーニングビブラート」

「ふふ、覚悟してなさいよ、馬鹿犬」

『えぇ!?だっ、だめだめ!!絶対だめっ!』

「冗談よ、バーニングビブラートは使わないわ。フラン、こういう冗談を名前に言わないでよね、本気にするから」

「チッ、バーニングビブラートじゃないのかよ。……と、よい子の皆さんはM・Mを真似しないでくださいねー」

「誰に言ってんの、あんた」

「そりゃー良い子の皆さんですよー」

「意味、分かんなーい」

「お前たち、人の部屋の前で煩いですよ、いい加減にしなさい…!!」

『……!!』



フランとM・Mのペースに乗せられて、私もつい騒がしくしてしまった。
声をかけられて骸様の方に振り返ると不機嫌そうに見ていた。



『ご、ごめんなさい、骸様…私……』

「はい……?」

『わ、私、気がつかなくて騒いじゃって……、すみません…』

「違……っ!!」

『その…、朝食、出来てるので着替えたら来てくださいね…っ、それじゃ…っ』

「ま、待ちなさい!違います、名前…!!君に言ったのではありません…!!」

「あーあ、名前ってば可哀相ー」

「本当、だめだめな師匠ですよねー」

「…ー…っ!!」



M・M、おチビ!!
食卓へと戻る途中、骸様の声が家中に響いた。

以前の骸様にしてみれば大声なんて珍しいけれど仲間達と暮らすようになってからは珍しい事じゃない。
怒らせてしまうのは良くないけれど感情をストレートに表すようになった骸様の方が嬉しい。

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