正式な手続きで骸様が復讐者の牢獄から出所して一週間。

恋人である骸様とは夢の中やクロームを通じて会って来たけれど本当の骸様に会えたのは十年ぶり。

話したい事がたくさんある。
だけど中々、二人きりになれる時間がない。

何故なら意識を取り戻した骸様に犬、千種、クローム、そしてM・Mとフランが何かと付きっ切りだからだ。



「そんな常に傍にいなくとも大丈夫ですよ」

「いーじゃないれすか!だって十年ぶりなんれすよ!」

「骸様……」

「クフフ、犬も千種も変わらなくて何よりです」

「師匠ー、犬ニーサンは昔からこうなんですかー。人間って中々成長しないもんなんですねー」

「どーゆー意味だ!つか!今日はパーティーしましょうよ、骸さん!」

「パーティーですか?」

「そうれすよ!せっかく脱獄したんれすから!」

「ボンゴレが正式な手続きしてくれて出所したんですから脱獄ではないですよー、犬ニーサン。本当、イヌ並みに優れた知能をお持ちですねー」

「フラン、うるせーぞ!ほら、ブス女にM・M!さっさと用意しろっつーの!」

「はぁ?何で私が骸ちゃんだけならともかくあんた達の分まで用意しなくちゃいけないのよ」

「私、準備してくる…」

「クフフ、凪、ありがとうございます。ですが別に気にしないでいいですよ。」

「だけど、骸様……」



骸様と凪、そしてM・Mと犬。
四人で話していて、すっかり話に乗り遅れてしまった私と千種は蚊帳の外。
私は千種と一緒に皆の一歩後ろにいて静かに様子を見ていた。



「……」

『………』



骸様をじっと見つめていると目が合った。
たったそれだけなのに、何故か気まずく感じてしまい私は不自然に声を上げた。



『あ…!クローム、大丈夫だよ!料理なら私、作るから!』

「え?」

「ちょっ、名前…!!あんた一人で行くつもり!?」

『もちろん!みんな、骸様とゆっくり話しててね!準備が出来たら呼ぶから!』



まずは買出しに行って来る!と一人で部屋を飛び出した。

骸様に会えて嬉しいのはみんな同じ。
これからは一緒にいられるんだから焦ることはない。

時間が経てばいくらでもお話できるんだから、これくらい我慢しないと。



『……っ』



ショッピングモールを当てもなく一人で歩いていると余計に寂しく感じる。
考えないようにしても頭の中に浮かぶのはネガティブな考えばかり。

もしかして実際の私を見て、気持ちが冷めてしまった?
M・Mやクロームの方がいい…?



『……』



骸様が自由の身になって自分達の傍にいる。
夢にまで見た待ち望んでいた事のはずなのに私は今、笑えていない。
仲間に嫉妬しちゃっている自分がすごく嫌。

そっと頬に手を当てて、ウィンドウに映る自分の顔を見たら、ため息が零れた。



『……お買い物して帰ろう』



料理をして気分を紛らわそう。
骸様が好きな料理をたくさん作ろう。

気分はまだ晴れないけれど喜んでもらいたいから、たくさんの食材を購入してお祝いらしくケーキを買って帰った。


***


一生懸命に作った料理は皆、食べてくれてお皿の上は空。
たくさん作ったから残るかと思ったのに、これだけ綺麗に食べてくれると作ったかいがある。

夜はもうすっかり更けて、お酒を飲んだみんなは酔いつぶれて居間でダウン。

風邪をひいてはいけないから人数分の毛布を持って来て部屋の明かりを落とした。
クローム、千種、犬、M・M、そしてフランに順番に毛布をかける。



『…って、フラン、何であなたもダウンしてるの?』

「んー…名前ネーサンー…?」

『フラン、起きてる?もしかしてフランもお酒を飲んだ?』

「無理矢理、飲まされたんですよー、あの馬鹿イヌにー」

『あ、はは……犬ね。まったく、フランに飲ませないようにきつく言っておかなきゃ』

「子ども扱いしないでくださいー」

『子ども、でしょ。』

「……」

『歩けなさそうね、ここで眠って。…ね?』

「はーい…」

『……ふふ、いい子』

「だから、子ども扱いはー…」

『はいはい、おやすみね』

「……おやすみなさい」



支えてソファーに寝かせ毛布をかけるとフランは安心したように息をついた。



『あれ…?骸様は…』



確か横になっていたはずだけど、毛布を用意している間に部屋に戻ったんだろうか。

今日もあまり話せなかったな。
そう思ったら自然と深いため息が零れた。



『片付けよう…』

「片付けなど明日でいいでしょう」

『……!!』

「と、いうよりも用意は君が全部してくれたのですから後は酔いつぶれている皆にやらせればいい」

『骸様…』



後ろを見ると、そこにはいないと思っていた骸様が立っていた。
ベランダに出ていて月明かりに照らされている骸様は見惚れてしまうほど綺麗で言葉が出ない。



『……っ』

「クフフ、やっと静かになりましたね。今日は羽目を外しすぎです。」

『皆、骸様が自由の身になって嬉しいんですよ』

「皆の中に君も含まれていますか」

『も、もちろんですよ。嬉しいです、とても…』

「……」

『骸様、外じゃ冷えてしまいます、上に何か羽織ってください』

「…こちらに来なさい、名前」

『え……?』

「僕は大丈夫ですから」

『はい…』



有無を言わせない声と微笑み。
言われた通り傍に寄ると、ぎゅっと腕の中に閉じ込められた。
その温もりに嬉しさから息がぐっと詰まってしまう。



「二人きりです、ね」

『骸様…』

「クフフ、寂しい思いをさせてしまったようですね」

『え…?』

「嫉妬、してくれていたのでしょう。」

『き、気付いていたんですか…っ』

「君の事なら何でも分かりますよ」

『ご、ごめんなさい…』

「謝る事など何もないです。僕が他の者と話をしている間、君が僕の事しか考えていないと思ったら嬉しくてたまらない。」

『骸様……』

「クフフ……」



久しぶりだというのに意地が悪いですね、と苦笑する骸様。

撫でてくれる手も、包んでくれる身体も十年前よりも大きくて心地がいい。
ここにいる事を確かめるように恐る恐る腕に触れると応えるように強く抱きしめてくれた。

触れられることが、傍にいることが嬉しくて、涙が出て来てしまいそう。



『私は、いつでも骸様の事しか考えてません…』

「これ以上、僕を喜ばせないでください。」

『だって、本当のことです…』

「おやおや……」

『昔、手を差し伸べてくれた、あの日からずっと、骸様のことばかり…』

「名前……」

『骸様、好き、です…、昔も今も、きっとこの先も…』

「……」

『大好き、なんです……、これからも、お傍に置いてください…』

「……名前」

『……はい』

「………」

『骸、様…?』



いつもなら「僕も好きですよ」と返してくれるのに今日は言葉に詰まっている骸様。
不安になって見上げると困ったように笑っている。



『……?』

「…本当に、君には困りますよ」

『骸様…?』

「……僕の理性を容易く崩すのですから」

『え……?』

「実はというと、二人きりを避けていたんですよ」

『……嫌い、だからですか』

「違いますよ……、ずっと望んでいた君がこうして手が届く所にいると我慢が出来なくなる……」

『……?』

「…愛しているからです、名前」

『……っ』

「今までも、これからも君だけを」

『……!』



柔らかく微笑むと骸様はゆっくりと私の唇と自分のものを重ねた。
十年ぶりに初めてちゃんと触れ合った互いの温もり。

嬉しくて、満たされていく心。
ゆっくりと瞳を閉じると涙が頬に伝った。

ずっと夢だった愛しいあなた。


今、ここにいる。












優しい光が私達を祝福している



end



2010/05/06
桜木朔優様へ
三周年フリリク企画
リクエストありがとうございました!

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