逃げるように教室を飛び出した。

走って走って息を切らして辿りついた場所は屋上。



『はぁ…、疲れた……』



痛む腕を押さえながらずるずると地面に腰を下ろして深呼吸。

今の教室は居心地が悪いから、しばらく屋上にいよう。

ふと、空を見ると雲が太陽を隠していた。

だけど、とても心地がいい風が吹いていて落ち着ける。



『……』



ボーっと過ごしていたら、そのうち眠くなってしまい私はゆっくりと瞳を閉じた。

これからの事をどうしよう、と考えながら。








新たな参戦者



さっきみたいな空間は苦手。

殺意に似た感情。

無数の針に囲まれているように張り詰めた空気

直接、何かされた訳じゃないのに痛くて苦しくて、息が止まりそうになる。



『……』



私は綺麗な世界で生きたいと思ったの。

綺麗な大空を羽ばたきたいと思ったの。

だから、行動した。
一人では難しかったけど、大切な仲間がいたから何でも乗り越えられた。

全ては"あの人"のおかげで今を手に入れた。



なのに、今は羽ばたきたいと思った大空は曇っていて見えない。



『………』



でも、見えないからって、諦めるのはもういやなの。

どんなに哀しいことや辛いことが起きても全部、全部、受け止めたい。



『……』



ほんの少し前みたいに、みんな笑って、そこに自分もいる日々が戻ってくる。

私はそう、信じてる。

今までの日々は幻なんかじゃない。



『………』

「ねぇ、君…」

『……?』

「ここだよ」

『え……?あ……』



いつの間に眠ってしまったんだろう。
遠くから聞こえる声で目が覚めた。

声の主を探そうときょろきょろと辺りを見回すと学ランを着た人がいた。

目を擦りながら彼を見つめると腕には風紀と書いてある腕章をつけている。



「ねぇ、何でここに居るんだい。今、授業中だよ」

『えっと、今、何時…です…か…?』

「そろそろ最後の授業が終わるよ」

『もう、そんな時間…』

「それよりも、さっさと質問に答えなよ」

『あ…、は、はい…すみま、せん…』

「……でも、まぁ、いいか。何にしろサボりに変わりない。」

『え……?』

「君はここで咬み殺す。」

『……ッ!!』



学ランさんは殺気を放ち、どこから出したのか武器を構える。

そして、瞬きもする間もないほど風のように素早く、勢いよくこちらに向かって来た。



『……っ』



私はトンファーをギリギリまで引きつけて、ジャンプをして距離を置く。

学ランさんは攻撃を避けたことに驚きを見せると面白そうに口角を上げた。



「ワォ、避けられるんだ。君、何者?」

『普通の、生徒…で、す…』

「そんな訳ないだろ」

『………普通、だもん』

「君、面白いことを言うね」

『…別に、面白いことなんて言ってない、です』

「……」



彼はふっと口角を上げると、もう一度、武器を構えて向かってくる。

休む暇もない連続の攻撃。
とても素早い攻撃だけど私にとって避けられないものじゃない。



『………』

「ふぅん、随分と余裕だね」



ふわり、ふわり。
トンファーの流れに任せて自然に避けていく。

攻撃を受けたら怪我どころじゃ済まないと思う。
けれど彼の攻撃は当たりもしなけれど掠りもしない。

ヒットしない事が余程、気に食わないのか、彼は次第に攻撃の感覚を狭めた。



「……っ」

『……』



学ランさんは私をフェンスまで追い詰め、最後と言わんばかりに大振りの攻撃を仕掛ける。

その攻撃もスッと避けて距離を置くと屋上には「ガシャン!」という金属音が鳴り響き、フェンスのネジが飛んだ。

最後の攻撃も空振り。

学ランさんは鋭い目つきで私を一睨みした。



「君、気に入ったよ」

『気に入った……?』

「這いつくばらせたくなる」

『……!!』



彼は再び走り出し攻撃を仕掛けてくる。

きっと、これは私が避け続ける限りに終わらない。



『……(…だったら)』



今度は私も学ランさんに向かって走り出す。

ふわりと素早く風のように近づくと反応しきれなかったようで、彼の武器を思いっきり上へ蹴り上げた。



「……!」



遠くに吹っ飛んだ武器が音を立てて地面に落ちる。

手ぶらになった学ランさんは不機嫌な顔をして私を見つめていた。



『あ……』

「……」

『ごめん、なさい…』

「………」



慌てて武器を拾って、謝るけれど学ランさんはまだむすっとした顔で睨んでる。

今の戦いを思い返して、ふと沢田くんの事を考えた。



『……』



さっきの沢田くんの拳、普通じゃなかった。

私の"能力"は衰えてない。
現に今の攻撃は全て避けられた。

私だったら例え至近距離の攻撃でも、避けられるはず。

だけど、沢田くんの攻撃は避けきれなかった。

彼の内に秘められた巨大な力を感じて、怖気付いてしまった身体は少しも動いてくれなかった。



『………』

「君、何者だい」

『え……?』

「気に入らないな」

『さっきは、気に入ったって言ってた…』

「さっきはね。僕は君は何者なのか、って聞いているんだけど。」

『……、私は、普通の並盛中の一生徒、です。』

「ワォ、僕の攻撃を全て避けておいて普通かい」

『学ランさんは、何者…?』

「僕は雲雀恭弥」

『雲雀…先輩……?』

「僕はいつでも好きな学年だよ」

『……?』

「そして、この学校の風紀委員長」

『ふうき、委員…』



好きな学年って、どういう事、かな…?
それに風紀委員って…?

風紀委員って生徒の違反を正す…とかそんな感じだったっけ…?
確か、朝に髪や服装のチェックをしてた気がする。

並盛中の制服を正しく着ているか、とか余計なものを持ち込んでないか、とか。



『……』



私はふと思うことがあって雲雀先輩を下から上へと見る。

雲雀先輩は学ラン。
並盛指定の制服じゃない。

それに武器を持って攻撃を仕掛けてきた。

この人が風紀委員長…?



『ほ、本、当……?』

「何だい、その心底ありえないって顔は。」

『だって、風紀委員長なのに生徒に殴りかかるなんて…』

「君がサボってるのがいけない。」

『…サボってない、もん』

「……」



でも、サボりと一緒かも。
授業に出たくないとか、そういうのではないけど。

言い訳なんて出来なくて私はそれ以上は何も言えずに、ため息を零して俯いた。



「君、名前は?」

『え……?』

「名前だよ、名前。」

『名前…』



確か"あの人"が言ってた。

見ず知らずの男の人に声かけられて名前とか教えちゃいけない、って。
ついて行ってはだめですよって。

なんて言ってたっけ、こういうの。

えーっと……。



………あ!



『えっと…、な、なんぱ?お断り、です』

「……咬み殺されたいかい」

『う……』

「遊んであげるよ。もう一度…」

『当たらない、のに…』

「……」

『あ……』



もう一度、戦う気満々で武器を構えているから、つい、ポソッと呟いてしまった。

雲雀先輩は聞き逃さずにピクッと反応してしまう。



「……まぁ、今日の所はいいや。」

『……?』

「それに、君が並盛生徒なら簡単に調べられるからね」

『す、すとーかーも、お断りです…』

「やっぱり君はここで咬み殺す」

『……!!』

「覚悟しなよ」

『……っばいばい、雲雀、先輩』

「……!」



屋上もゆっくりしていられない。
戦うのって好きじゃないから、逃げるが勝ち。

私はチャイムが鳴ると同時に向かって来た雲雀先輩の攻撃をスッと避け、扉まで走った。

雲雀先輩は追いかけて来ない雰囲気だったけど、走って屋上を後にする。



『……っ』



教室も戻っても平気かな?

ちゃんと、話せない、かな。

今朝の事、全部、夢だったらいいのに。



『……』



ふと、足を止める。

一人で誰もいない廊下を見ていたら怖くなった。

行き止まりが見えるのに、そこに辿り着けないような不安を感じる。



怖い。



怖いけれど、一歩を踏み出してゆっくりと教室へと向かった。



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加筆修正
2012/03/09


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