ある日の昼休み、私は一人で次の授業に使う教材を運んでいた。

昼休みに職員室前に通りかかった時、先生に頼まれたから教室に運んでいるんだけど…



『うぅ、重い……』



私じゃ力が足りなくて休み休み教室へと運んでいた。

早くしないと次の授業、始まっちゃうから急がなきゃ。








視線



ずるずると引きずりながら運ぶ荷物。

もたもたしながら運んでいると後ろから不意に声をかけられた。

聞き慣れた声に振り向くと同時に肩をポンと叩かれる。



「よっ、真白!って、どうしたんだよ、その荷物」

『あ…っ山本くん!えっと、これは次の授業で使う資料とプリントだよ』

「次は確か生物だったろ?何でまたそんなでかい世界地図まであるんだ?」

『生物の次の授業が地理だから、ついでに頼まれちゃって…』

「災難だったな…って、まさかお前、これを一人で運んでんのか?」

『え…?う、うん、そうだよ…』



職員室前で先生に持って行ってくれって言われたの。

そう言葉を続けると山本くんはプリントの束と地図を一本、持ってくれた。



『山本、くん…?』

「持つぜ!無理しねぇで誰かに頼めばいいのによ」

『あ、ありがと…!でも、どこかに行くんじゃない、の?』

「ん?あー……」

『……?』

「大丈夫、大丈夫。でも、ちょっと待っててな?」

『え……?』



山本くんは廊下の窓を開けてグラウンドにいるクラスメイトに向け、声をかけた。

もしかして、昼休みに遊ぶ予定、だったのかな?



「わりー!野球、行けなくなったー!」

「んなっ!?マジかよ!どうしたんだ?」

「ちょっとなー!また誘ってくれ!」

『野球…?』



山本くんは笑顔で答えていた。

その様子をぼーっとして見ていた私はハッとして山本くんに話しかける。



『や、山本くん!私、大丈夫だから野球、行ってきて?』

「いいっていいって!つか普通、手伝うもんだろ?」

『でも…っ』



こんな大荷物を普通、女子に運ばせないよな、なんて言って山本くんはまた、ははっと笑った。

その曇りのない笑顔にホッとして私は残りの地図を一本、持つ。



『あの、ありがと…山本くん…』

「礼はさっき聞いたぜ。こういうのはお互い様、だろ?」

『あ………』

「なっ?」

『……うん!』



山本くんが人気者な理由、すごく分かる。

うちのクラスだと獄寺くんも女の子に人気があるみたい。
でも、獄寺くんは誰とでもけんかみたいになっちゃうから近づく人はいない。

私はよく話すけど怒鳴られることが多い。

もうちょっと、獄寺くんを仲良くなれないかな?



「おーい、行こうぜ」

『あ…、うん…っ!』

「……」

『ま、まって……っ』

「焦るなよ!転ぶぜ!」

『大丈夫!』



二人で歩く廊下。

他愛ないお喋りに花を咲かせていると後方から嫌な感じがした。



『……!』



パッと振り向いて辺りを見渡す。

だけど、確かに変な視線を感じたのに誰もいなかった。



『………?』



今のは、なに…?

気のせい、だったのかな?



「どうしたんだ?」

『え……?』

「……?」

『あ…、その…』



悪意を感じる視線。

こういうの、昔も感じたことがある。

でも、ここは私がいた所とはまるで違う「普通」の場所だ。



『……(気のせい、だよね…?)』

「真白?」

『……!』

「ぼーっとしてたけど具合でも悪いのか?」

『えっと、今、誰かに見られているように感じて…』

「見られてる?」

『なんだか気持ち悪かった、というか…』

「心当たりはねぇのか?」

『うん…。でも、な、何でもないみたい…、気のせい…かな…』

「そうか…?」

『うん…』

「何かあったらすぐに言えよ?」

『あ、ありがとう、山本くん!』

「それじゃ、行こうぜ!」

『………うん。』



気のせいだよね?

もう一度、振り向いてもそこには誰もいない。

心配するようなことじゃない。
そう自分を納得させて私は山本くんの後を追う。

だけど一歩二歩と進んだ時、誰かが後ろから私に抱きついた。



「羽依ちゅわーんっ!!」

『わ…っ!!』

「なっ!?」



走ってきたのか勢いがいい。

いきなりの事で驚いて、私は抱え持っていた地図をバット代わりにして抱き着いてきた人を振り払った。



「うぉ……っ」

『び、びっくりした…!シャ、シャマル先生だ…』

「おー!すっげぇいいフォームだな、真白!」

『ご、ごめんなさい、シャマル先生…っ』

「いてて…!いやぁ、羽依ちゃん、今日も元気で何よりだ!」

「さっきの視線、シャマル先生だったんじゃねぇ?気持ち悪いって言ってたろ」

『う、うん…?』

「怯えさせちゃったなら悪かったなぁ」

「や、怯えてたっつーより気持ち悪がってたんスよ」

「オジさんくらいの歳になると人肌が恋しくなる訳よ。って事で羽依ちゃん。」

『はい…?』

「次の時間、オジさんと……」

「さぁ、真白、行くか。さっさとこれは運ばねぇと!」

『う、うん…っ』

「つれないねぇ」



山本くんに同意してシャマル先生と別れた。
後ろを振り向いて会釈するとシャマル先生は手を振ってウインクで応える。

いつものように楽しい先生に笑うと今度は投げキッスをしていた。
これには山本くんも苦笑い。

二人で笑いながら階段を上がる。

私達の教室に着くとプリントと地図を机に置いた。



「よし、これでOKだな。」

『うん!ありがとう、山本くん!』

「これくらい、いいって!…と、もう授業が始まるな、席に着こうぜ」

『あ…、うん!そうだね…!』



次はちょっと苦手な生物。
生理的に受け付けない授業内容。

「昔」を思い出して気分が悪くなっちゃう。

出来なら、サボりたい、な。



そう思いながら溜め息を吐いて窓から青空を眺めた。



next



加筆修正
2012/03/09


prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -