笑いあって、何気ない日々を大切な人達と過ごす。

それは今まで望んできたもの。
今まではずっと手に入らないと思って諦めていたの。

だけど、実際は手を伸ばせば、すごく近いところにあった。

私は自分から求めようとしていなかったんだ。

望むものはいつも手に入らなかったから、最初から手を伸ばすことをしないで諦めて、何もしなかった。



『……』



初めて自分から求めて行動したら私の世界は変わっていった。

今は毎日が安らいで楽しい。

もう、立ち止まる日々には、ばいばい。



私は前を向いて、この空を羽ばたいていく。








はじまりの空



外国から日本へ、そして並盛中学校、二年A組に転入して約三ヶ月が過ぎた。

転入当初は学校の雰囲気に戸惑って、ドキドキしっぱなし。
だけど、隣の席になった山本くんが話しかけてくれてクラスに馴染む事が出来た。

戸惑う私に山本くんが「無理に合わせないでお前のペースで慣れていけばいいんだぜ」と言ってくれて嬉しかった事を今も覚えている。



『………』



友達、出来るかな?
そう心配で不安に思っていた頃が今では嘘みたい。

毎日がきらきらしてて、楽しくて、うれしい。



『いってきます』



マンションの少し重たいドアを開いて「いってきます」と部屋に向かって呟く。

一人だから、もちろん返事なんて返って来ない。

昔のように賑やかではなくて一人きりの暮らしだけど学校に行けば、みんながいるから淋しくない。



『少し、遅れちゃう、かな』



今では通い慣れた通学路を走って数分、学校へと着いた。

教室に行くとクラスメイト達は既に登校していて、ふと携帯を見ると遅刻ギリギリの時刻だった。



「はよっ、真白!」

「お前、今日も遅刻ギリギリだな」

『あ……』

「家、遠いのか?」

『……ううん、寝坊』

「ははっ、毎日か?」

『うん、毎日…』



私が素直に白状するとあははと明るく笑ったのは隣の席の山本武くん。

ケッとした感じで私を睨んでるのは獄寺隼人くん。

二人は教室に入ってきた私に気付いて声をかけてくれた。



「お前な、少しは十代目を見習いやがれ!」

『へっ?』

「ご、獄寺君、またそうやって真白さんに突っ掛かるんだから!」

『だ、大丈夫、だよ…』



いつもごめんね、おはようと声をかけてくれたのが沢田綱吉くん。

みんなに"ツナ"って呼ばれてるの。

初めて会った時、そう呼ばれてるのを聞いて美味しそうな名前だなって思っちゃった。



『おはよう、山本くん、沢田くん。』

「…って、オレにはなしかよっ」

「ははっ!獄寺はちゃんと挨拶してねぇからじゃね?」

『えっと、うん……獄寺、くん、おはよう?』

「…はよ。たくっ、ムカつく女だなっ!大体、お前いつもいつも…」

「真白いるかっ!?」

『わ……っ!?』

「極限いい朝だなっ!今日こそ真白と沢田をボクシング部に入れる!!入れ!入るのだ!」

「って、オレもーっ!?」

「あぁ、そうだ!死ぬ気に燃えている沢田が入らなくてどうする!」

「そんな事、言われても!ねぇ、真白さん…!!」

『う、うん…!は、入りません…!私、格闘技なんて無理です…!!』

「何を言うか!真白の身軽なフットワークをボクシングで生かさず何に生かす!お前は只者じゃない!!」

「ちょっ、お兄さん!」

「ボクシングは心身ともに鍛えられていいぞ!沢田!な!真白!」

『え、えっと…っ』

「お兄ちゃん、やめて!羽依ちゃん、困ってるよ!」

「京子のお兄さん、相変わらずねー」

『あっ、京子…、それに花ちゃん…』

「おはよう、羽依ちゃん!」

「ちーす、羽依。あんた、今日もまた遅刻ギリギリじゃない。」

『う……』



ふわふわした雰囲気の女の子は笹川京子ちゃん、大人っぽくて落ち着いているのは黒川花ちゃん。

京子は会う度にボクシング部に勧誘してくる笹川了平先輩の妹さん。

全然、似てないよね?
この二人が兄妹だって聞いた時、すごくびっくりした。



「羽依ちゃん、お兄ちゃんがごめんね」

『ううん、大丈夫だよ』

「京子、大丈夫だと言ってるぞ!だからボクシング…」

「お兄ちゃん…っ!!」

「きょ、京子…っ!しかしだな!」

「ほら、授業、始まっちゃうよ!教室に戻って?ねっ?」

「だが…っ」

「お兄ちゃん…!!」

「む……」



京子が強く言うと笹川先輩もたじたじ。

さすがの笹川先輩もしゅんとして肩を落として自分の教室へ帰って行った。



「もう!お兄ちゃんったら!」

「沢田、せめてあんたがボクシング部に入ったらいいんじゃない?」

「えぇ!?」

「花まで何を言ってるの!ツナ君!気にしなくていいからね?」

「そうですよ、十代目!十代目が芝生頭の部に入る必要ねぇっスよ!!」

「ははっ、でも、ツナがボクシングをやる所、見てみてぇな!」

『……』

「なっ?真白もそう思うだろ?」

『え…っ?あ……え、えっと?』

「お前、今、ぼーっとしてたろ」

『う…、ご、ごめん…』

「ツナがボクシングをやる所、見てぇなって話だぜ!なっ?見たくねぇか?」

『う、うん!見てみたい!』

「なーっ!?そんな、真白さんまで…!!」

「ふふっ」

「ははっ、そんなに青ざめることじゃないだろ、ツナ!」

「だ、だって…っ」

『………』



みんなで笑って今日も一日が過ぎる。

こういう普通の生活、今まで思っても見なかった。

みんなが笑顔で過ごしていて、そこに私がいて、世界が広がっていく。

今はまだ、少し眩しい世界だけど、きっとこれから馴染んでいける。



『……』



こんなに幸せだったからかな。

私は少しも気付かなかったの。



少しずつ少しずつ迫っていた、闇に。



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加筆修正
2012/03/09


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