弱い自分を見せたくなくて、強がる。

無理して傷ついて、疲れたら休んでいい。誰かに頼っていいの。

弱くてもいいんだよ。

辛いって言ってもいいんだよ。



『……』



だって、皆、同じなんだから。



だから、傍に誰かがいるんだ。



…ー…必ず。








一緒



黒谷さんはカッターを自分に振り下ろしたけれど、私は腕を掴んで行為を止めた。

思い通りの行動が出来なかったからか、黒谷さんは暴れるけれど私は離さない。



「離して…ッ!!何で止めるのよ…!!」

『…ー…いで』

「………!?」

『死ぬだなんて言わないでっ!!』

「……ッ」

『自分を傷つければ簡単に死んじゃうんだよ…!!』

「………っ」

『だから、死ぬなんて言わないで…!!』

「あなたに何が分かるっていうのよ…!」

『分かるよ…!私もずっと綺麗な世界に憧れてた!』

「……っ」

『だから、こうしてここにいるの!黒谷さんと私は似てるの…!!』

「似てる…?私とあなたが?どこも似てる所なんてないわ!」

『似てる、よ…!!』

「あなたには山本くんみたいな人がいるじゃない…!!皆がいるじゃない!私には誰もいない…!」

『一人じゃない…!私がいる!!』

「そんなの、信じられないわよ…ッ!!」



泣くように黒谷さんは叫ぶ。

叫んだ後に訪れた静寂には呼吸の音だけが聞こえる。



『………』

「は、ぁ……」



一人じゃないって、どうすれば信じてもらえる?

"同じ"になったら、黒谷さんも、ちゃんと向き合ってくれる、のかな?

私はカッターの刃に自分を映して見つめた。



「おい、羽依…、何して……」

「#真白#、さん…!?」

『山本くん、沢田くん、大丈夫だから…。』

「…ー…ッ」



私は左手首にカッターの刃を入れた。

黒谷さんの左手首の傷と同じ場所。

自分を傷つける行為はしてはいけないこと。意味のないこと。

だけど、今、この時は絶対に意味があることだって思った。



『……っ』

「…ー…っ」

『これで一緒だよ、あなたと……』

「バカじゃないの…っ!?」

『バカで、いいよ』

「………ッ」

『あなたは一人じゃない。』

「……!」

『私を信じて…っ!信じてくれるまで、こうしてる、から…っ』

「真白さん!何でこんな事…っ!!こんなに血が…ッ!山本、シャマルを……っ」

「…ー…っ」

「山本!オレ、呼びに…ー…」

「待ってくれ、ツナ」

「何でだよ…!!あんなに血が…っ」

「今、シャマル先生を呼んだら、だめなんだ」

「なんで…ッ!!」

「オレは羽依を信じてる。大丈夫だ。絶対に。」

「でも、山、本……っ」



ドクドクドクと左手首からは鮮血が滴る。

体中の血が溢れ出ようと手首に集中しているみたいで、背筋にはゾクッと悪寒が走る。



「どうして…、どうして私のためにそこまでやるのよ…!!」

『……あの時、嬉しかった、から』

「……っ!?」

『あの時、体育館に来てくれたの嬉しかったから…!!』

「たい、いく…かん……?」

『心配してくれて、嬉しかったの…っ』

「あ、あんなのあなたを信用させるための嘘に決まってるでしょう…っ」

『だとしても!私は嬉しかった!』

「………ッ!!」



あなたにとって、偽善だったとしても、それを決めるのはあなたじゃない。

私。

私にとって、あの時の優しさは嘘じゃない。

嬉しかったの、本当に。



『だ、から…っ、だから、私は黒谷さんと友達になりたい……!!』

「……っ!?」



あの時に見せてくれた黒谷さんの優しさを信じたい。

黒谷さんは「痛み」を知っているから、心配してくれたんだって思うの。

本当に全部が嘘の優しさだったなら、私はこんな気持ちにならない。



『………っ』

「………」

「真白さん…!!」

「羽依…っ」

『だい、じょう…ぶ……っ』

「……」

『は、ぁ………』



意識が朦朧としてきた。
貧血のようにクラクラして身体に嫌な寒気がする。



「も、う…、やめなさい、よ……」

『やめ、ない……っ』

「……っ」

『黒谷さん…、大、丈夫だよ…。私を、信じて…?』

「なん、で……っ」

『あ……ッ』

「……!?」



黒谷さんに歩み寄ろうと一歩を踏み出すと、ふらついて足の力が抜ける。



『……!』



その場に倒れてしまいそうな時だった。

私は硬い床に倒れるはずだったのに、支えてくれる温もりを感じた。



「真白、さ、ん……ッ」

『…ー…っ』



倒れそうになった私を支えてくれたのは黒谷さんだった。



「……っ」

『黒谷、さん……』



支えてくれた彼女をぎゅっと抱きしめる。

その時、笹川先輩の「とっさに出た行動が答え」という言葉が浮かんだ。



これが、黒谷さんの答え。



「な、なん、で……、私……」

「羽依…!羽依……!!」

「真白#さん…ッ!」

『…ー…っ』



闇に抗うことは出来ずに落ちていく。

黒谷さん、山本くん、沢田くんの声が遠くに聞こえたと思ったら、不安定な意識はそこで途切れた。



『………』



自分のマイナスな部分ばかり気になって嫌なる。

だから、他人が羨ましく思ったり妬んじゃう。

そんな自分に気づいて、もっともっと自分の事が嫌になっちゃう。



『……』



嫌いな所ばかり気付いて、自分のいい所なんて分からない。

周りを気にすると、自分を見失ってしまう。



『……っ』



それは、皆、同じ。

誰だって、誰かが自分にないものを持ってるって羨んでる。



『………』



私の翼を京子達は綺麗だって言ってくれた。

一人だったら気づかなかった。

自分じゃ、自分の背中なんて見えないから、私は哀しくなったの。



『……』



みんな、みんな一人じゃないよ。

嬉しいも哀しいも、辛いも幸せは、全部、全部"一人じゃない"から生まれる気持ちだよ。

辛いことも、誰かと一緒に乗り越えれば、幸せに繋がる。



『………』



だから、心を閉ざさないで。

みんな一緒だから。

あなたを思う人、必ずいるから。



あなたは絶対に一人じゃないよ。



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加筆修正
2012/03/13


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