扉を開く。
眩しい光が差し込むけど、もう逸らさない。

扉の横に座っていた山本くんは驚いたように私を見て、慌てて立ち上がった。

気恥ずかしそうに頬をポリポリとかいていたけど、すぐにいつもの笑顔を向けてくれる。



『……山本、くん』

「はは…、久しぶりに顔、見れた、な。」

『たった、六日だよ…?会ってない、の…』

「そっか?すっげー久しぶりな気がすんだけど…」

『……私、も』

「だろ」

『…う、ん』

「……そうだ」

『どうした、の?』

「ちょっとそこの公園まで散歩しねぇか?」

『え……?』

「いいだろ?なっ?」

『あ……』



山本くんは、もう一度、笑うと私の手を取って歩き出した。

私の手を包む大きな手。
野球をしてるからか、しっかりとしていて力強い。

いきなりでびっくりしたけど、すごく安心する。



『……』



六日ぶりの外はすごく新鮮。

久しぶりだからドキドキしたけど山本くんが手を繋いでくれてるから歩いていける。

そう思ったら、優しい山本くんを疑った自分が嫌になった。



『山本、くん…』

「ん…?」

『ごめん、なさい…』

「何がだ?」

『え……?』

「真白に謝られる事なんてされてないぜ?」

『で、でも、私、山本くんの事……っ』

「ストップ。」

『え……!?』

「一つ、確認していいか?」

『な、に…?』

「真白、あの、さ…」

『……?』

「……オレのこと、嫌、か?」

『えっ?』

「……オレと一緒にいるの、嫌か?」

『……っ嫌、じゃないよ!そんなこと、ある訳、ない…っ』

「そ、そっか。だったら…、さ。いいだろ?」

『山、本くん……』

「…今、こうして一緒にいるんだからさ!」

『……っ』



だから謝んなよ。
そう言って山本くんはニッと笑って私の頭をくしゃっと撫でる。

泣きたくなるような気持ちをグッと堪えて、私は笑った。



『あり、がとう…!』

「礼を言われることもしてないぜ?」

『山本くんが気付いてない、だけだよ…』

「……」

『いつも、本当にありがとう…』

「真白……」



山本くんは手をぎゅっと握り返して、応えてくれた。

久しぶりに見た空はぽかぽか優しい色をしている。

私達は綺麗な夕焼けに包まれながら、子供達が帰る道を歩いて公園へと向かった。



「さぁ、着いたぜ!」

『こんな所に公園があったんだ…』

「知らなかったのか?」

『うん、寄り道とかしなかった、から…』

「そっか…、んじゃ、オレが寄り道仲間一号な!」

『寄り道、仲間?』

「今度から帰りは一緒に寄り道しようぜ!よし、決まり!」

『え、えっと……』

「とりあえずブランコに行くか?座ってゆっくり話せるしな」

『あ…、う、うん……!』



山本くんと一緒に公園の中央に行くと滑り台にジャングルジム、シーソー、そしてブランコがあった。

こんなの身近になかったから、ほとんど初めて見るものばかりでついきょろきょろと見回してしまう。

落ち着かない様子でブランコの傍に行くと、見慣れた人がブランコに腰をかけているのに気がついた。



「………獄寺」

『……あ、獄寺くんだ』

「……ッ!!」



獄寺くんはビクッと身体を反応させ私達を見るとあからさまに驚いた顔をしている。

驚いて動きが止まるのは一瞬。
吸っていたタバコをポロリと落として勢いよくブランコから立ち上がった。

山本くんは私を後ろへやり、獄寺くんと距離を取る。



『……!』

「獄寺、お前、一人で何してんだ?」

「な、何してんだって…、んなの、その…」

『ブランコ、好きなの?』

「ち、ちげぇよ!アホッ!」

『……?違う、の?』

「誰がこの年で好き好んでブランコに乗るかよ!」

『……?』

「あー…、つか、お前、何で普通にオレと話してんだよ!」

『何でって、言われても…』

「……また吹っ飛ばすかもしんねーぞ」

『しないよ』

「いい切るかよ、普通…」

『獄寺くんは、そんな事しない。』



真剣に見つめると獄寺くんはすぐに視線を逸らした。

ガシャンと音を立てて彼はまたブランコに座ると拳を握る。



「真白……」

『……?どう、したの…?』

「……っ」

『獄寺くん…?』

「…ー…わりぃ」

『えっ?』

「…悪かった。いくら十代目の命令だからって、女を…、お前を傷つけるなんて……」

『獄寺、くん…』

「…本当に、悪かった」



先程から合わなかった視線が重なる。

今まで獄寺くんの口から「ごめん」とか「悪かった」なんて聞いた事がなかったから、びっくりした。

私の思っていることが山本くんにも伝わっているのか、山本くんも驚いたように獄寺くんを見ている。



「獄寺が謝るなんて珍しいのな」

『う、うん…、明日、雨かも?』

「ははっ、確かに。」

「なっ!?」

「むしろ雪じゃね?こんな季節なのに吹雪くかもしんねぇな!」

「吹雪く訳ねぇだろっ!能天気アホコンビ!!オレがこの一週間どんだけ悩んだと思ってんだよっ!!ざけんなっ!!」

「おっ、やるか、獄寺」

「…ー…っのやろ!!」



獄寺くんはブランコから立ち上がって山本くんを怒る。

殴りかかりそうな勢いだけど、本気じゃない。

いつもの二人、だ。

そう思ったらホッとした。



「何、笑ってんだよ!真白…っ!」

『えっ?えっと、獄寺くんらしい、なって思って…』

「はぁ?」

『不機嫌そうに一人で怒ってて、いつもみたいに山本くんと口げんか、してるから…』

「お前、マジで喧嘩を売ってんだろ…っ!!」

『う、売って、ないよ!それに、沢田くんに従う理由は分からない、けど…それが、獄寺くんだと思う。』

「オレは十代目の右腕だから…、な」

『だから…、あの時も、信念を突き通したんだよ、ね…』

「……あぁ。でも、今の十代目は……っ」

『………』

「…ー…っ」



言葉の続きが気になった。

だけど、聞かなかった。

獄寺くんはこの一週間、私みたいに悩んでたんだって思ったから。



『……ただの攻撃の駒なら、信頼関係なんて、いらない、よ。』

「………んな事、分かってんだよ」

『…受け売り、なんだ』

「……っ!」



誰の言葉か察しがついたのか、獄寺くんはチッと舌打ちをした。

そして、胸ポケットからタバコを取り出して、誤魔化すように吸い始める。



「素直じゃないのな、獄寺。」

「てめぇはいつでもアホすぎんだよ。能天気野球馬鹿が。」

「ははっ、ひっでー!」

「つか、何でお前が真白と一緒なんだよ。真白、ずっと休んでたのによ。」

「ん?いいだろ、別に。気になんのか?」

「なっ!ちげーよ!そんなんじゃねぇ!」

「そんなんって、どんなんだ?」

「…〜…のやろ!!」



いつもなら口げんかしてどうしようって慌ててしまうけれど、今は、こんなやり取りにとても安心してしまう。

さっきは少しぎくしゃくしていたけど、この二人はすっかり元通りで嬉しい。

そんな二人を見ていたら私は空いているブランコに気付いた。



『……』



座ってこぐんだ、よね?

私は興味津々にブランコに座ってみた。



『あ…、でも、この足じゃこげない、や。……残念。』

「……!?」

「……っ!」

『……?どうしたの、二人とも』

「……その、真白」

『獄寺、くん?』

「……その足の怪我はオレが原因だ。…だから」

『……?』

「だから、オレがこいでやってもいー…」

「真白!そのまま、座ってろよ!オレがこいでやっから!」

『あ、山本くん…』

「野球馬鹿!何でお前なんだよ!」

「普通、オレじゃねぇ?獄寺、一つ使ってんだし」

「あぁ、そうか。だったらこっちをお前に貸してやる。だから真白のブランコはオレがこぐ。どきやがれっ!」

「いいって!オレ、ブランコに乗りたい訳じゃねーし。獄寺、使ってていいぜ。」

「いいっつーの!」

「遠慮すんなよ!なっ?」

「してねぇよ!だ、だったら真白が決めればいいだろ!」

「…だな!んじゃ、真白!オレと獄寺、どっちにこいで欲しいか決めてくれ!」

「加減を知らねぇ野球馬鹿よりオレの方がいいだろ!真白!」

『え……っ』



ブランコに座る私の目の前に差し出された二人の手。

二人はちゃんと私を見て、その手を差し出してくれている。



『え、えっと…』



見えないから、人の気持ちは、怖い。

だけど、例え目に見えたとしても変わらない。

好きも嫌いも、憎しみも、その人の感情が見えたって変わらない。



『……』



だから、信じたい。

見えないからこそ、目の前の二人を信じたい。



『…………』



私は今まで、何を強がっていたんだろう。
二人といると、そう思う。

泣くのは嫌、頼るのはだめ。
全部全部、我慢して本音でぶつからなかった。

一人で大丈夫。
自分が弱くなる気がして一人でいた。



ずっと、気づいてなかったけど



『わ、たし……』



私は自分の弱さを人に見せたくなったんだ。

人に頼るのは、自分の弱さを認める事になるみたいで嫌だったんだ。

本当の自分、見せたら嫌われてしまうんじゃないかって思ってた。



『……』



笑って泣いて、怒って、弱みを見せたっていいの。

もしかしたら嫌われてしまうかもしれないけど、もっと人を好きになりたいから本音でぶつかろう。

信じて、頼ろう。
積み重ねたそれが信頼になるんだから。



『……』



そうしたら今より、きっと自分らしくなれる。

きっと今より、自分を好きになれる。



『………』

「真白、どうしたんだ?」

「おい、ぼけーっとしてんじゃねーぞ」



もっと本気でぶつかれば、沢田くん達とも元通りになれる。

前みたいに仲良くなれる。



『……』



辛い事や哀しい事があったって、どんな結果になっても、今度は絶対に大丈夫。

今は分かり合えない人でも信じたいの。



みんな、綺麗な心を持ってるって。



『……』



差し出してくれた手の温もりを信じたい。

山本くんは優しくて明るくて強い人。

獄寺くんは不器用だけど優しくて意思の強い人。



そんな二人の温もりを、信じる。



「つか、何で……」

「両方の手、掴んでんだよ、真白」

『あ、あれ……?』

「ぼけっとしてんじゃねぇぞって言ったばかりだろうが!アホ真白!」

『う……っ』

「まだ、ぼけっとしてるな。…よし、こうしてやる」

「お、おい、獄寺…」

『え……!?う、わ……っ』



獄寺くんは私の頭を強引に撫でる。
そして、ぼさぼさになった髪を見てふっと笑った。

むぅっとした私を見て、山本くんが笑う。

二人が笑ってくれたから、私も笑った。



『……』



掴んだ二人の手は、とても温かかった。



今日の夕焼けの色みたいに。



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加筆修正
2012/03/10


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