夢の彼は哀しそうで、私の胸はぎゅっと張り裂けそうに痛くなった。

別々の道を選んでしまったけれど、彼らは笑って過ごしてるかな?

元気で、暮らしてるのかな?








暗雲



夏休み明け。
昨夜の夢のせいか眠った気がせず身体に疲れが残っている。

心地いいはずの空なのに見上げても落ち着かず、もやもやした気分で私は一人、学校へ向かっていた。



『今日、会いに行ってみようかな…』

「あ…っ、羽依ちゃん!」

『……!』

「おはよう、羽依ちゃん!…えっと、いい天気だね!」

『ツナくん、それにリボーンくんも…、えっと、おはよう!』

「ちゃおっス、羽依」

「そのー、よかったら一緒に学校に行かない?」

『うん…!』



挨拶もそこそこにして、三人で学校に向かう。
ふと、ツナくんが手に持っているものに目線を移すと、それに気づいたように慌てて話し出した。



「これ、空手や柔道のチラシなんだ。母さんが護身用に習ってみろってうるさくてさ!」

『護身用…?なん、で…?』

「最近、物騒らしいんだよ。でも、襲われてるのって風紀委員だけらしいけど」

『え…っ!風紀委員が襲われてる…?』

「オレも今朝、知ったんだ。並中風紀委員が次々と襲われてるって」

『………』

「土日で風紀委員、八人が重症で発見されたんだぞ」

「しかも、何故か歯が抜かれてるんだろ。まったく、何でそんな事…」

『なんだか、危ない、ね…』

「怖いよなぁ…」

『ね、ねぇ、それでツナくんは何か習うの?』

「なっ、習わないよ!大体、オレが格闘なんて無理だって!」

「やってみねぇと分からないだろ。まずはフゥ太にツナに合う格闘技ランキングを作ってもらうか」

「な…っ!!」

『それか、リボーンくんに特訓してもらう…とか?』

「おっ、それにするか。フゥ太の奴、最近、姿を見せねぇからな。」

「だから!必要ないって!」

「好きな女を守る時に必要だぞ」

『ツナくん、京子の事を守…ー…っ』

「ちょっ!羽依ちゃんまで何、言ってんのー!」

『え…?』

「きょ、京子ちゃんは、その…!あぁっ、なんて言ったらいいんだろ…!!」

『すき?』

「そ…っそうなんだけど!そうじゃない、っていうか…まだよく分からないというか…っ」

『……?』

「な、何だかよく分からなくなったっていうか…っ」



チラリと控え目に私を見るツナくんは顔が林檎みたいに真っ赤。
その姿が何だかおかしくて、くすくすと笑うとまた顔を赤くした。



「うぅ、からかわないでよ、羽依ちゃん…」

『ふふ…、ごめん、ね?』

「い、いいけどさ…、あ、あの…」

『ん…?』

「好き、って言えば、さ……羽依ちゃん」

『……?な、に?』

「その…、や、山本のこと…どう思ってる、の…?」

『山本くん…?どうって……好き、だよ』

「え…っ!?それじゃあ、もう付き合ってるの!?」

『付き、合う…?』

「へ……?」

『…?……?』

「あれ?もしかして分かってない?えっと、じゃあ、返事とかした、の?」

『返、事?なんの…?』

「何って、それは、あの時の屋上で……」

『……?』

「あ…、でも、分からないって事はそういう事だよな…、山本には悪いけど良かった…って!何、言ってんだオレー!!」

『ツナ、くん…?』



一人でホッとしたり真面目な顔したり慌てたりツナくんの表情は忙しい。
余程、手に力が入っているからか勧誘のチラシはくしゃくしゃになっている。

そんなツナくんを見てリボーンくんはにやりとしていた。



「ツナも悩める年頃だな。二人とも、だなんて考えはだめだぞ。」

「な…っ!?」

「まぁ、ツナは一人と付き合うのでいっぱいいっぱいだろうな、…って訳だ、羽依」

『なに…?』

「オレの愛人にならねぇか?」

『あい、じん?』

「ちょっ、リボーン何を言ってんだよ!!…って!あっ、風紀委員がいる!」

『え…っ?あ…、本当だ。風紀、委員の人たち…』

「まぁ、こんだけ事件が多発してるからな、警戒してんだろ」

『ね、ねぇ、早く、教室に行こう、ツナくん』

「う、うん、そうだね!」



風紀委員の横を早足に歩く。
どうか"あの人"に気付かれませんように…!

だって、あの人に見つかったら…



「ん…?そこで群れているのは沢田綱吉と真白羽依かい」

『あ……っ』

「ひぃ!ヒバリさんー!!」



今日の雲雀先輩はいつもよりも機嫌が悪いみたい。
風紀委員の人たちが襲われてるから、かな?

雲雀先輩は風紀委員長だもん。
犯人探しをしているに違いない。



『雲雀、先輩……』

「真白羽依、悪いけど今日は君に構ってる暇はないんだ」

『別に、構って、くれなくていいのに…』

「落ち着いたら君を風紀委員に入れるから」

『入り、ません…』

「羽依ちゃんって雲雀先輩に対しては割と辛口になるよね」

「そりゃいくらおとぼけ羽依でも警戒もすんだろ」

「いつもトンファー片手に風紀委員に入れって追い掛け回されてもんなぁ。」

「沢田綱吉、何か言ったかい」

「ひぃっ!!い、言ってませんー!!」

「……ふん」

『……?』



雲雀先輩はいつものお決まりの会話の後、ため息を一つ吐いて事件のことを話し出した。



「まったく身に覚えのない悪戯だよ。」

『あ、あの、雲雀先輩…』

「ん…、なんだい?」

『本当に身に覚えない、んですか?』

「ちょっ、羽依ちゃん!それを言っちゃ…!!」

「何それ。君達、何か言いたそうだね」

「い、いえ!な、何でもないですよ、本当…っ」



ギロリと睨まれ、ツナくんと二人してビクッと震えていると、どこからともなく音楽が聞こえた。

緑たなびくー…って、あれ、この曲って、もしかして?



「これって…」

『校、歌?あ…、雲雀先輩の携帯、みたい』

「えぇっ!?まさかの着うたーっ!?」

「……煩いよ」

「ひぃ!すみません…っ」



雲雀先輩、そんなに学校が好きなんだ。

携帯を取り出すと雲雀先輩は会話を始めたから、ツナくんと私は邪魔をしないようにこそこそと離れる。

だけど、そんな私達を雲雀先輩が呼び止める。



「ねぇ、君達の知り合いじゃなかったっけ?」

「えっ?」

『誰が、ですか…?』

「笹川了平」

『え…っ、笹川先輩がどうかしたんですか?』

「京子ちゃんのお兄さん、ですけど…」

「やられたよ」

『え……!』

「な…っ!?だ、誰にですか…っ!!」

「さぁね。まぁ、やり口を聞く限り風紀委員を狙ってた奴と同一犯で間違いなさそうだけど」

「……っ」



今まで風紀委員ばかりだったのに笹川先輩が狙われたの?
笹川先輩は風紀委員じゃない、のに何で…?

呆然としていると、ツナくんは笹川先輩が運ばれた病院へと向かおうと私の手を取った。



「羽依ちゃん!早く行こう…!!」

『う、うん…、でも…』

「どうしたの…!?」

『雲雀先輩と話したい、ことがあって…、えっと、すぐ行くから先…行ってて?』

「わ、分かった…!!先に行ってるから!」

『すぐ、行くね…!』



ツナくんとリボーンくんは急いで並盛中央病院へ向かった。
その背中を見送る私に雲雀先輩は声をかける。



「ほら、君も早く行きなよ」

『雲雀、先輩…』

「なんだい」

『襲ってる、人たちって…誰か、分からないんです、か?』

「……」

『何が、目的とか…』

「……知らないね」

『………』

「だけど…」

『……?』

「尻尾は掴んだ。」

『え……っ!』

「僕は悪戯の犯人を潰しに行く」

『雲雀先輩…大、丈夫…なん、ですか?』

「そんな顔しないでよ。僕が負けるとでも?」

『そう、じゃなくて…、まさか一人で……?』

「当たり前だろ」



鋭く光る瞳、独特の威圧感。
この状態をどこか愉しんでいるように感じる。

雲雀先輩は強いけど、いくらなんでも一人で行くなんて…



『……心配、です』

「………」

『……』

「君に心配されるの不愉快だよ」

『え…っ!?』

「犯人は必ず咬み殺す」



雲雀先輩は不敵に微笑む。
すれ違い様に頭をポンと軽く叩かれた。



「だから、真白羽依はぼけっとして待ってなよ」

『ぼ、ぼけっと……?』

「あぁ。ぼーっとしていればいいよ。いつものようにね」

『いつも、ぼーっとしてないです…』

「ワォ、無自覚だったのかい」

『……』



雲雀先輩の背中を見送って、私も笹川先輩が運ばれた病院へと急いだ。

モヤモヤとした気持ちはまだ消えてくれない。

雲雀先輩なら大丈夫だよね…?
雲雀先輩が必ず犯人を捕まえて、この事件を解決してくれるよね?



『………』



空を見上げたら雲が太陽を隠して光を遮っている。

一人ぼっちで太陽を隠す雲が少し寂しそうに見えた。



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加筆修正
2011/11/21


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