例えるなら、彼は真っ暗な闇を照らす月。

真っ暗な中でしか見えないけれど、とても優しい光。



『……』



"離れていても、例え、これから何があったとしても僕は君を想っています。

何よりも大切な君の幸せを一番に願っています。

…ー…君の、味方です。"



彼の言葉を思い出す度に優しい思い出が溢れてくる。

いつだって月のように優しく見守ってくれたあなたがいたから、私はこうしてここにいられるの。








夢の中のあなた



気がつけば闇の中にいた。
不安定な感覚、反響する声にめまいがする。

これは、いつも見る夢だ。

夢だと分かっていても抗う術はなく過去を見てしまう。



『……っ』



幼い頃は自分が自分じゃなかった。
どんな残酷な事も全て表情一つ変えずにしていた。

過去を忘れてはいけない。
それを戒めるように、ふとした時に夢を見る。

見るのは決まって怯えて助けを請う標的の顔。
背中に翼がある私を見て化け物だと罵る声までも脳裏に鮮明に記憶されている。



『……』



兵器として使われていた頃、感情を抑制されていたけれど、不思議なことに一つだけ望んでいたことがあった。

相手の血に染まった私の姿を見ると、いつもボスは喜んでいた。
理由は分からなかったけど唯一、それを求めていた。

今、思えば ボスが喜んでくれて嬉しかったんだと思う。

あの気持ちは何なんだろう。



『……っ』



暗闇の中、映し出される夢は時に残酷。

でも、目を反らしてはだめ。

私が殺した人たちや残された家族はどんな思い?

苦しい、悲しい、辛い、憎い。
きっと想像を超える感情。

だから夢なら覚めてだなんて、思っちゃいけない。
もっともっと苦しめて、私は簡単に幸せになっちゃだめなの。



『…ー…っ』



だけど、怖い。
すごく怖い。

夢の中では一人だから。



「羽依…」

『……っ!』



暗闇の中、一筋の光が見える。
その光の中心には彼がいた。

柔らかな光に安心して、その場に座り込むと静かに近づいて撫でてくれる。



「羽依、大丈夫ですよ…」

『………っ』

「大丈夫です」



私を呼ぶ声は優しくて張り裂けそうな心を癒してくれる。
彼は零れる涙は拭って抱きしめてくれた。

あなたと会わなくなって、そんなに月日は経っていないのに懐かしく感じる。



『…ー…っ』

「………」



そっと見上げたら、あなたは哀しそうに微笑んでいた。

どう、したの?
なんでそんな顔をしてるの?

問いかけたいけど声が出ない。

心配そうに見つめていると彼は困ったように微笑んだ。
抱きしめられた身体を離すと彼は眉を下げた哀しげな表情で私を見つめる。



羽依

『……?』

僕は……

『…ー…っ』

僕はいつでも君の事を、想っています

『……』

離れていても、君の幸せを願っている

『……?』

僕では君を守れない

『……』

…ー…こんなにも想っているのに

『…ー…!?』



哀しそうな表情で何かを話しているのに聞こえない。

どうして、そんな顔してるの?
私のせい…?最近、ずっと会ってなかった、から…?

違うよ、忘れてた訳じゃない。
過去もあなた達のことも忘れるはずないよ。

大切な仲間を忘れられる訳、ない。



「……」

『……!!』



彼は私に背を向けて深い闇へと歩き出す。

そっちは、だめ…!!
止めようと思って必死に追いかけるけど、私はこの場から少しも動けない。

あなたの背中がどんどん遠くなる。

手を伸ばしても、届かない。
振り向いてくれない。



『……っ』



ねぇ、待って…っ!置いてかないで…っ!

一人は、嫌……っ!!



『…ー…っ』

羽依

『……!?』

一人じゃないですよ

『…ー…?』



彼は振り向くと、ゆっくりと近づいて来てくれた。
そして私の頬を伝う涙を指で拭い、不器用に微笑んだ。



「………」



彼は後ろを指差し私をとんと押すと、闇に同化し霧のように消えていった。

真っ暗闇に残された私は彼が指差した方を見る。

何があるの?



『……』



後ろには先程の月みたいな優しい光ではなく、青空にある太陽のように眩しい光があった。

その光には人影が見える。

あれは、ツナ、くん…たち……?



『…ー…っ!?』



ツナくんが私に手を伸ばしてくれている。
眩しすぎて、恐る恐る手を伸ばしたら山本くんと獄寺くんが力強く引き寄せてくれた。

その瞬間、強い光に包まれ私はバッと飛び起きる。

辺りを見回すと、いつもと何一つ変わらない朝の風景があった。



『……っ?』



いつもとまったく違う夢だった。

今のはなんだったの…?



『あ…れ……?』



ふと目を擦ると涙が零れていた。
だけど、頬に伝っていただろう涙は拭われている。

もしかして、夢じゃなかった、の?



『………っ』



昨晩のような胸騒ぎがして背筋に悪寒が走る。

彼の哀しそうな微笑みが瞼の裏に焼き付いたように、離れない。



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加筆修正
2011/11/21


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