傍にいられなくてもいい、遠く離れていてもいい。 君が笑っているなら隣が僕でなくても構わない。 誰よりも君を愛しく想い、幸せを願ってる。 「……」 そう願っているのは本当のこと。 だけれど僕はそこまで大人ではないから、もう一つの事も望んでしまう。 君の一番、傍にいたい。 僕にだけ笑顔を向けて欲しい、と。 いつか見る空 暗い牢の中、隣に眠る羽依の髪を撫でながら僕はこれからの事を考えていた。 どうすればいいのかと考えていると、一か八かの賭け「脱獄」の二文字が頭の中に浮かんで離れない。 「……」 もしもあの時、僕がボンゴレ十代目を手にいれていれば、もっと傷つける事が出来ていたならば「普通の日常」を望む君はここにいなかっただろう。 傷つけるのも嫌う振りをするのも憎まれる事も簡単に出来ることだと思っていたのに。 「……難しいもの、ですね」 嫌われたくなかった。 傷つけたくなかった。 だって、本当は守りたかったのだから。 「……僕も甘くなったものだ」 …いや、君に対しては昔から甘かった。 何故、こんな感情を持ったのだろうと思う。 けれど、不思議とは思わない。 「……」 エストラーネオファミリーの娘と分かっても嫌悪感など沸かなかった。 本来ならば恨みを抱くだろう。 だけど、君は穢れのない真っ直ぐな心で僕の瞳を綺麗だと言ってくれた。 気持ち悪くて仕方がない瞳だったのに、君の一言で救われたんです。 このままの僕でいいんだと、そう思えた。 「………」 君がいてくれて、君と出逢えてよかったと心の底から思う。 羽依、君が僕の存在を認めてくれた日から僕が生きる理由は君なんです。 「……」 『………』 僕よりずっと小さな身体。 こんな小さな身体だけれど羽依には確かな強さがあると思う。 能力や力よりも、もっと強い力がある。 僕はそれを計算に入れてなかった。 だから羽依にも、ボンゴレ十代目にも負けた。 「……羽依」 『ん……』 「おや……」 『むく…ろ…?』 「すみません、起こしてしまいましたか」 『ううん、大、丈夫だよ…』 「……」 『骸、は…ずっと起きてた、の…?』 「えぇ、少し眠れなくてね…」 『……』 そっか。 そう小さく呟いた羽依は身体を起こし僕の隣へ寄り添うように座った。 「無理せず眠って構いませんよ、羽依」 『大、丈夫…』 「そう、ですか…」 『……』 「羽依…」 『……?どう、したの?』 「外へ…もう一度、並盛へ戻りたいと思いませんか」 『え……?』 「仲間に会いたいと思いませんか?」 『……』 「彼らも、君の帰りを待っている」 ここに来てから話題にしなかった事を聞いたためか瞳が揺れた。 羽依は戻りたいと思っている。 彼女の口から、その言葉を聞いたなら脱獄を決心、出来る。 だからこそ、今まで僕は聞かなかった。 並盛に戻ったら、彼女はまた僕の元から離れていってしまうから。 『骸……』 「…はい」 『……離れてたら、もう友達じゃない、のかな』 「え……?」 『離れたら…会えなかったら、仲間じゃ…ないの、かな』 「……」 『いつも、傍じゃないと…だめ、なの…?』 「それは…」 『…ー…会いたい。約束をやぶっちゃったこと、謝りたい』 「………」 『でも、会えないの…。だけど…』 「……」 『想ってる、から…』 仲間。 静かな牢に響く言葉は凛としていた。 今でも羽依はボンゴレ達を想っている。 ボンゴレ達も羽依を想っていることだろう。 『だ、から、骸…』 「……?」 『……脱獄なんて、しない』 「…羽依にしては珍しく鋭いではないですか」 『だって…それしか、ないもん…すぐにここから、出る方法なん、て…』 「……」 『………』 「羽依」 『……?』 「ここにいて不安では、ないですか」 『不安、はないよ』 「何故です?」 『いる、から』 「いる……?」 『うん……大切な、仲間がいる…から…』 「え……?」 『骸たちだよ』 「……!」 羽依は僕の手をぎゅっと握る。 彼女の体温が移り、冷えた僕の手が温まっていく。 「……(似てる…)」 ボンゴレ十代目に敗れた時に感じた温かな炎に。 『……?骸、どうしたの…?』 「…何でも、ありませんよ。それより、羽依…」 『ん……?』 「約束して頂けますか」 『約束…?』 「いつか、二人で空を見ましょう」 『空、を?』 「えぇ。青空の下、二人で歩きましょう」 『二人、で?千種と犬は…?』 「クフフ、二人には内緒です」 『ないしょ…』 「だめですか?」 『……、ううん、歩こう?』 「……えぇ、必ず」 僕達は幼い子どものように指切りをして約束をした。 「………」 いつか君と見た空は、高く青かった。 いつか君と見る空も、青空だと願う。 end 2009/05/26 二周年フリリク企画、ナナミ様へ! リクエストありがとうございました! |