誰だって辛い過去は思い出したくない。

だけど、忘れたい程の過去も忘れたいとは思わない。

自分の過去は許されない過ちばかり。

でも、その出来事があったから今の私がいる。



『……』



そう思えるようになったのは、あなた達がいたから、だよ。







戦いの終わり



「待たせて、ごめん」



ツナくんは襲い掛かってくる獄寺くんとビアンキさんの攻撃を受け流して、軽い攻撃で意識を落とす。

骸の憑依が解けて倒れる二人をふわりと受け止めて静かに寝かせた。



「リボーン、処置を頼む」

「急にいばるんじゃねぇぞ」

『ツナ、くん…』



ツナくんの額にはオレンジ色の炎が静かに灯っている。
それは普段の荒々しい死ぬ気状態とは違っていた。



「小言弾だ」

『小言、弾…?』

「あぁ、小言弾はツナの静なる闘志を引き出すんだ」

「……」

「死ぬ気弾のように危機やプレッシャーによって外側からリミッターを外すんじゃねぇ」

「………」

「秘めた意思によって内側から全身のリミッターを外すんだ」



ダイナマイトで攻撃された瞬間にリボーンくんが撃った謎の特殊弾。

その正体は「小言弾」だった。

小言弾を撃たれたツナくんは格段に戦闘能力が上がっていた。



「それは同時に感覚のリミッターを解除することになる。」

「それで僕の幻覚をも見破る、というのですか」

「ツナの中に眠るボンゴレの血が目覚めたんだ。」

『ボンゴレの、血?』

「ボンゴレの血統特有の見透かす力"超直感"だ」

「く……っ」



骸の幻覚はボンゴレの血、超直感で敗れる。

小言弾でパワーアップしたツナくんは犬、千種を倒して、獄寺くんとビアンキさんも最小限のダメージで守ることが出来た。

歩く度に腹部に痛むけれど、私は獄寺くん達の元に歩み寄る。



「羽依、お前も無理すんな。」

『これくらい、平気…だよ…』

「……羽依、離れていろ」

『え……っ』

「骸、出て来い」

『……!』

「生きているんだろう」



ツナくんが冷静に問いかけると奥から足音が聞こえる。

怪しい笑い声が聞こえると暗闇の中、骸が姿を現した。



『骸……っ』

「六道骸……」

「この程度で勝ちを確信されては困りますよ」

「……」

「僕が持つ能力六つのうち、一つだけ発動していないものがあるという事にお気づきですか?」

「第五の道、人間道だな…」

「えぇ、その通りです」

「………」

「六つの冥界のうち最も醜く危険な世界……」

『むく、ろ…』

「出来れば発動させたくなかったんですがね」

「……!!」



骸は指で自分の眼球を弄った。
グチュグチュと生々しい音と共に骸の右眼からは血が滴り落ちる。

右目に刻まれてる数字が「五」に変わると骸の身体からは禍々しい真っ黒なオーラが放出した。



「ドス黒いオーラだな」

『……っ!?』

「……!!」

「行きますよ…!!」



骸は口角を上げ走り出すとツナくんに先手を仕掛ける。
三叉槍を器用に使い、拳や蹴り技を炸裂させた。



「……っ」



ツナくんは攻められるばかりで、ついには吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

ここにいたら獄寺くんたちが巻き添えになっちゃう…!

私はリボーンくんの誘導の元、獄寺くんたちを離れたところへ移動させた。



「脆いですねぇ!ウォーミングアップのつもりだったのですが」

「……そうこなくっちゃな」

「………!!」

「……お前こそ、本気を出さないでいいのか?」

「フッ、君は本当に楽しませてくれる。」

『ツナ、くん…』



毛糸の手袋は今はグローブに変化していて、綺麗なオレンジの炎を灯している。

以前のツナくんとは比べ物にならないくらい強くなっていて、確実に骸を攻めていた。



「……っ!!」

「お前の本気はこの程度か?」

「クフフ……クハハハハ…っ!!」

「……」

「これは嬉しい誤算だ、君を手に入れれば知略を張り巡らす事もなく直接ファミリーに殴りこみが出来そうです」

「マフィア間の抗争がお前の目的か?」

「まさか。そんな小さいものではありませんよ」

「六道骸、お前の目的は何なんだ?」

「…僕はこれから世界中の者の身体を乗っ取るつもりです」

「……」

「彼等を操り、この醜い俗界を純粋で美しい血の海に変える」

『血の、海……』

「世界大戦、なんてベタすぎですかねぇ」

「………!」

「ですが、まずはマフィア……マフィアの殲滅からだ」

「……」

「ボンゴレ十代目を手に入れる、そして……その娘を殺す。」

「恨み、か…」

「おっと、これ以上、話すつもりはありません。君は僕の最終形態によって僕のものになるのだから」

「そうはいかない。」

「クフフ、それでは行きますよ」

『……!』

「な……っ!?」



骸はツナくんに攻撃を仕掛ける振りをして私の元に向かって来る。

身体が思うように動かなくて反応が出来ず、私の両手は背後に回った骸によって拘束されてしまった。



『……っ!!』

「これが、僕の復讐の始まりです」

「何故だ?」

「クフフ…、何故、とはどういう意味でしょうかねぇ」

「何故、羽依がお前の復讐に関係している?」

「……いいでしょう。最後にお話してあげましょう」

「………」

「この娘が僕の復讐に関係している理由、それは…」

「……」

「…ー…エストラーネオファミリーのボスの娘、だからですよ」

『……!?』

「娘……?」

「クフフ、幼かった君は自分の生い立ちを知らないでしょうねぇ」

『……っ』

「実験により実の父親に記憶を消され感情も制御され殺しの道具、生物兵器として使われていたのですから」

「……」

『ボス、が私の父、親……!?』

「ボンゴレ十代目、せっかくですから教えて差し上げましょう、この娘の過去を」

『……っ!!』

「翼はご存知ですよね」

「あぁ…」

「この娘の能力はエストラーネオファミリーのボスが人体実験により植えつけたものです」

「人体、実験…」

「天使のような翼を持つ少女を作り、エストラーネオファミリーは神になろうとでも思ったんでしょうかね。」

「………」

「勘違いも甚だしいですよ。純白の美しい翼も、実際は血で染まり命を奪うものでしかないのに」

『……っ』

「こうして純粋無垢に見えても、人に言えるような過去ではないのです」



ツナくんを見ることが出来なくて俯かせていた顔は骸に無理矢理、上げられる。

ツナくんはどう思っただろう。
どんな顔をしているんだろう。



『…ー…っ』



見たくない。

だけど、逸らす事は許してくれなくて、ツナくんを見るしか出来ない。



「君は人を殺める時、顔色一つ変えなかったそうですねぇ」

『……ッ』

「ボス…、君の父親も言っていましたよ…」

『ボ、ス……』 

「とてもよく出来た"兵器"だと」

『………!』



肩に顔を乗せた骸は耳元で囁く。
ビクッと震えると骸は楽しそうに笑い、私のしてきた過去を淡々と話す。



『……っ』

当時の光景が頭に流れる。

血の匂い、ターゲットの怯えた瞳に悲鳴。
全てが鮮明に思い出されて、眩暈がする。



『や……っ』



やめて、話さないで。

震えてしまい、それさえ言葉に出来ない。

私はツナくんを見ていることが出来なくなって強く目を閉じた。


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