力は使い方次第で暴力になることもあれば、その人にとって救いになるかも知れない。

ツナくんは真っ直ぐな拳と、力強い言葉と瞳でランチアさんを救ったと思う。



『……』



迷う時間なんてない。
悩むことは、もう終わりにしないといけないんだ。

私は誰も傷つけたくない。

だけど、戦う。

傷つけるためじゃなくて、大切な人たちを守るために。



『………』



がむしゃらに、どんなになっても私なりに戦う。

気付いて欲しいの。

こんな事をして手に入るものは、何もないってことに。








私の戦い方



「ランチアはまだ死んでねーぞ」

「え…っ!?」

「意識を失っているだけだ。だが、針の毒が問題だな」

『針の毒…?』

「あぁ、針に毒が塗ってある。」

『針に毒、が……?』

「解毒剤ならメガネ野郎が持ってるはずですよ。あいつはオレがぶっ倒します、十代目!!」

「あ、ありがと、獄寺君…」

「山本は、この身体じゃ無理だな」

「安全なところに運びましょう」

「ごめん、山本。すぐ戻ってくるからね」

『山本くん…』

「……っ」



山本くんはランチアさんからビアンキさん達を守って、あの鋼球を受け止めたらしい。
その衝撃で完全に気絶しているようで話しかけても反応はない。

ここに置いて行く訳にはいかないから、ツナくんたちと安全な場所へと運んだ。



『山本くん、ここで待ってて、ね…』

「……っ」

『え……?』

「…ー…羽依」

『山本、くん…?』



目は瞑っているけれど山本くんは私の手をぎゅっと握る。
応えるように私も握り返すと手の力が強まった気がした。



「行く、な……」

『え……っ』

「…ー…羽依」



苦しそうに眉間に皺を寄せて私の名前を呼んでいる。

私は山本くんの手を両手で包んで握った。



『大丈夫、だよ。』

「……っ」

『大丈夫、だから…待ってて……、ね?』

「羽依……っ」

『すぐに戻ってくる、から』

「…ー…っ」

『……山本、くん』



大丈夫。
もう一度、独り言のように呟いて立ち上がると、先程から辺りを飛んでいたバーズさんの鳥達が廃墟の方へと消えていった。



≪バーズヤラレタッ!バーズヤラレタッ!≫

「あの鳥達、急に煩くなって飛んでいきましたね」

「う、うん、どうしたんだろう……」

「今まで静かだった所を見ると、倒されてしばらくしたら仲間を呼ぶように訓練されてんだな」

「なら、鳥達が戻っていった建物に…」

『骸、が……』

「六道骸がいるんだ!!」

「さぁ、行きましょう!」

「うん!」



私、ツナくん、獄寺くん、ビアンキさんで黒曜ヘルシーランドの建物の中に入る。

建物の中は所々、崩れていて足場が悪い。
一階には独特の嫌な空気が漂っているものの人の気配はない。

上への階段を探しているけれど、目に付く階段は全て壊されてしまっていた。



「骸は上の階だな」

「生きてる階段を探しましょう。一つは残してるはずよ。」

「えっ!な、なんでっ!?」

「こっちの移動ルートを絞れば守りやすいだろ」

「あっ、そうか!ルートを一つにしちゃえばオレ達は、その道を行くしかない…」

「逆に退路もなくなるけれどね。六道骸、勝つ気でいるわ。」

「ん……?」

「どうしたの、獄寺君」

「十代目、携帯が落ちてます。壊れてますけど。」

『これ、雲雀先輩の……それじゃ、やっぱりここに…?』

「そのようだな。」

「そういえば、雲雀さんの着うた、並中の校歌だったよね…」

『う、うん…』

「ダッセー!雲雀の野郎はどんだけ学校が好きなんスか!」

「……さぁ、いつまでも話してないでいらっしゃい。階段があったわよ」

「えっ!」



私たちが雲雀先輩の携帯を拾って話している間にビアンキさんが非常用の階段を発見した。

階段に近寄ると私たちの後ろからコツコツと足音が聞こえる。
みんなしてハッと振り向くとそこには千種が立っていた。



『……!』



千種は獄寺くんとの戦いでボロボロ。
だけどヘッジホッグを既に手にしていて戦う気でいるみたい。

狭い通路で逃げようにも進む道は上しかない。



「メガネ野郎のお出ましだな」



獄寺くんは不敵に微笑むと一瞬の隙をついてダイナマイトを宙に投げた。

辺りに立ち込められた煙が私たちを包み、姿を隠す。



『獄、寺くん…っ!?』

「これは…っ!?」

「煙幕っス!今のうちに行ってください!」

「で、でも、獄寺君!」

「十代目は六道骸をお願いします、オレはメガネ野郎と決着をつけてきます!」

「……隼人、聞きなさい。」

「あぁ?なんだよ。」

「貴方は前にやられた時、針の攻撃を受けたわよね?」

「それが何だってんだ」

「その針にはランチア同様、毒が仕込まれていたの。だけど、トライデントモスキートで命を取り留めたのよ。」

「なっ!?よりによってシャマルの世話になったのかよっ!!」

「その副作用で先程のように激痛の伴う発作が起こるかもしれない」

「……」

「隼人、それでも行くの?」

「……当たり前だ。オレはそのためにここにいる」

「…そう。なら止めないわ。ツナ、行きましょう」

「えっ!だ、だけど!」

「早く行ってください、十代目!骸を倒して、またみんなで遊びに行きましょう!」

「獄寺君…」

「さぁ、早く!」

「…ー…分かった!ビアンキ、リボーン、羽依ちゃん、行こう…!!」

『………っ』

「おらっ、羽依もさっさと行きやがれ!お前もお前でやる事があるんだろうが!」



獄寺くんに背中を押されて、私たちは非常階段で二階に上がる。

二階も一階と同じように荒れていて、目に付く階段は全て壊されていた。

一階からはドォンドォンと獄寺くんのダイナマイトらしき爆発音が聞こえる。



『この音……っ』

「獄寺君、大丈夫かな…!!また、みんなで遊びに行けるのかな…っ!!」

「そのために骸を倒しに行くんだろ」

「えぇ、そうよね、リボーン…」

『…ー…っあの!』

「ど、どうしたの、羽依ちゃん」

『先に、行ってて…』

「えぇっ!な、なんでっ!?」

『私、獄寺くんの所に行ってくる』

「………!!」

「……羽依」

『獄寺くんなら、大丈夫だって思うけど、もしも副作用があったら…』

「で、でも!」

『誰か一人でも、欠けたら嫌、だから…っ』

「……!」



引き止めるツナくんをジッと見つめると隣にいたビアンキさんが私の肩に触れる。

そっと見上げると力強い瞳で私を見つめ、背中を押された。



「羽依、隼人を頼めるかしら?」

『……っはい!行ってきます…!』

「ちょっ、ビアンキまで何を言って…って!あっ、羽依ちゃん!」

『……?ツナくん?』

「オレ、待ってるから!」

『……うん!』

「無理しないで獄寺君と来て!それで……」

『………?』

「必ず、みんなで帰ろう!」

『うん……!!』

「約束、だからね!」



こくんと頷いて私は翼を出す。
とんと地面を蹴り宙に浮くと羽ばたいて、来た道を一気に飛びかけた。



「羽依ちゃん早ーっ!?つか、スカートで飛んじゃ中が見……っ!!」

「こんな時でもとんだエロガキだな」

「本当ね」

「し、仕方ないだろーっ!?」


***


一階は火薬の匂いが充満している。
ただでさえ薄暗く視界がいいとは言えないのに爆風で土埃が立ち込めていて辺りがはっきりと見えない。



『……(どこに、いるの…っ)』



ダイナマイトの後を辿って行く。
すると、その先には苦しそうに胸を押さえている獄寺くんがいた。

副作用が起こったのか窓際の壁にもたれ掛かっている。

今にも千種が攻撃を仕掛けそう。

このままじゃ危ない。
そう思った瞬間、厚いガラス窓が割れ黒い影が獄寺くんに襲い掛かる。



「隙ありびょん…っ!!」

「……ッ!!」

『獄寺くん…ッ!?』



素早い影はチャンネルを使った犬だった。

間に合うか分からない。
だけど、犬の攻撃が振り上げられたと同時に私は翼を使い、スピードをつけて獄寺くんの元へ飛んだ。

犬の攻撃は急所を外れたけど私の勢いは止まらず、二人でカーテンで締め切られていた地下への階段に落ちてしまった。



「羽依…っ!?何で、お前が…っ」

『ご、ごめん…っ!間に合わなかった、けど……っ』

「……っオレはいいから逃げろ!」

『よくない…っ』



離れないと言うように抱きつくと獄寺くんは諦めたように私の肩を抱く。



「今のオレじゃ守れるか、分かんねぇぞ」

『守ってもらおうだなんて、思ってない』

「へっ、言うじゃねーか…」

『守るために、来たんだもん』

「お前……」

「イチャイチャしてんじゃねぇびょん!」

『……!』



背後から聞こえる犬の声にハッとして振り向く。
そこには犬と千種が立っていて私を睨んでいた。



「お前までやられに来たんだー?」

「…犬、無事だったんだ」

「当ったり前じゃん!」

「その割に来るの遅かったけど」

「し、仕方ねーだろ!あの女が岩を投げるからいけねぇんだ!」

「……姉貴、やっぱりもう一つ岩を落とすべきだったな」

「んだとーっ!?」

「まぁ、別にいいけど。それより……、ねぇ…」

『千種……』

「………戦うつもり?」

『…ー…うん』

「……」



獄寺くんを巻き込む訳にはいかない。
羽ばたいて二人を飛び越え階段の上へ移動する。

地に足をつけず彼らがこちらに来るのを待っていると、バーズの鳥が獄寺くんの方に飛んで行って「ヤラレタ」と繰り返していた。



『……』

「……戦えるの?」

「一発で仕留めるびょん!」

『……そういう、訳にはいかない、の』



私と犬、千種は一定の距離を保って動かない。

その緊張を破るようにバーズさんの小鳥が「並盛中」の校歌を歌い出した。



「何だよ、この歌」

「……知らない」

『校、歌……?なん、で?』

「……ねぇ、よそ見してる暇はないんじゃない?」

『……っ!!』

「さぁ、始めるびょん!お前から八つ裂きだ!」

「……めんどいけど、行くよ」

『…ー…!!』



仲間が私に向かってくる。

目的が違うなら、攻撃をしてくるなら、それは「仲間」でも「敵」になっちゃうの?



『……っ』



違う。
私が戦うのは「敵」じゃない。

傷つけるために戦うんじゃない。



『………』



大好きなあなたたちを守るために、戦うんだ。



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加筆修正
2011/12/10


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