ツナくんが「六道骸」と言った人物は私の知ってる「六道骸」じゃない。

私の知っている骸とは何もかもが違う別人だった。



『……』



一体、誰なの?
どういうことなの?

混乱する私の前では息つく間もないくらい激しい戦いが繰り広げられていた。








知らない時間



「フィニッシュだ」

「く……っ!!」

「ツナ…!!」

『ツナくん!!』



ツナくんがリードしていたはずが、ほんの数秒後には巻き返された。

肉弾戦での容赦ない攻撃が続き、最後と言うように「六道骸」が鋼球を空に投げると動けないツナくんの上へと落ちていく。

その人は戦いの終わりを待っているようで瞳を閉じていた。



「…ー…ッ!!」



ドォン、と鋼球がツナくんごと地面を叩く重低音が辺りに響き渡る。

こちらにまで振動が伝わってきて足が痺れた。

緊張からか、この場を動けないでいると「六道骸」はそっと目を開けて私たちを睨む。



「……次は誰だ」

「……!!」

『……っ!!』

「女二人に赤ん坊一人か…、話にならんな。」

『…ー…ビアンキさん、下がってて、ください』

「羽依、あなたじゃ無理よ。ここは私が…っ」

『時間稼ぎぐらいは、出来ます…っ!!だから、その間にツナくん達を…っ』

「待て。」

『え……っ』



ガラガラと音がした方を見るとツナくんが息を荒くして立ち上がっていた。

立ち上がった事に「六道骸」も驚きを隠せないでいる。



「馬鹿な…!!鋼球が直撃して起き上がれるはずは……!!」

「あんたは悪い人じゃない」

「……!貴様、何を言っている…!!」

「そんな弱い心では死ぬ気のオレを倒せない。」

「……!」

「あんたは殺す事を望んでいない」

「お前にオレの何が分かると言うんだ!殺しはオレの本心だ…!!」

「嘘だっ!!」

「黙れ……!!」



ツナくんは向かって来る「六道骸」に強烈な一撃を放つ。

一瞬、この場の時間が止まったように静まると、音を立てて「六道骸」が倒れる。

それと同時にツナくんの額の炎は消えて荒々しい状態から、普段の穏やかなツナくんに戻った。



「このオレが、負け、た……だと…っ!?」

「あなたは羽依ちゃんの言ってた通り優しい人だ。」

「羽依……?」

「あなたを最初に見た時、おかしいと思ったんだ。うちにいる子どもみたいにあったかい感じがしたから…」

「……!」

「戦ったから分かったんです。あなたは攻撃の時、必ず目を閉じる。」

「……っ」

「鋼球を使わないと止めをさせないのはあなたの中に迷いや罪悪感があるからだ。」



「六道骸」は膝を地面につけ、驚いたようにツナくんを見つめている。
私たちも傍に寄ると負けを認めるようにぽつりと呟いた。



「一見してオレを見抜いたと言う事か……これがボンゴレの血…」

「六道骸……」

「…ー…完敗だ。"六道骸"がお前を警戒するのも頷ける。」

「え……っ!?あなたが六道骸じゃ…!?」

「オレは奴の影武者だ」

「偽者だったのね…」

「えっ、えぇーっ!?ちょっ、本当なの!?羽依ちゃん!!だって、写真では…」

『この人は骸じゃ、ない…よ。骸は……』

「自分の姿を残すようなヘマはしない」

『……はい』

「羽依、と言ったか?お前は本物の六道骸を知っているのか?」

『…ー…はい』

「……どういった関係か知らんが近づかない方が身のためだ」

『え……?』

「何があったんだ?話せ。」

「あいつは、六道骸はオレの全てを奪った男だ」

『……!?』

「全てを、奪った……っ!?」

「あぁ……」



その人は目を閉じて記憶を辿るように、今までの事を話し出した。

ずっと骸と一緒にいたはずなのに、私の知らない時間に起きた出来事を。



「五年前、だったか。オレは北イタリアのあるファミリーの一員だった。」

『五年、前……』

「孤児だったオレを育ててくれたボスに恩に報いたく、ファミリーの用心棒をしていた」

「……」

「いつしかオレはエリア最強とまで呼ばれるようになっていたんだ」

「そ、それで…?六道骸とはどう関係があるんですか…っ」

「ある日、ボスはオレの時のように孤児を拾ってきた。」

『……』

「オレはそいつの面倒を見ることになった。本当の家族のように可愛がった。ファミリーがオレにしてくれたようにな…」



当時を思い出しているのか表情はとても優しい。
それ程、ファミリーとボスはかけがえのない大切なものだったんだ。

だけど、ただの「思い出話」では終わらない。

ふっと影が落ちると少し震えた声で続きを話した。



「だが、ある時、事件が起きたんだ」

「事件……?」

「アジトに戻るとファミリーが皆殺しにされていた」

「え…ッ!?」

「北イタリア、マフィア大量殺人のことだな。有名な事件だ。」

「オレは怒りから調査をした。そして、分かったんだ、犯人は……」

「犯人は…?一体、誰だったんですか…?」

「このオレだったんだ」

「ど、どういう事……!?」



過去を話し出す骸の影武者。
私達の五年前と言えば研究所を抜け出した後だ。

私と骸は研究所で犬と千種に出会い、廃墟を転々として身を潜ませていた日々。
もしも追っ手が来たら連れ戻される?そんな不安に支配されて、時間が経つのを待っていた。



『……』



骸はある時、ふっと姿を消して何日も戻って来ないことが何度もあった。

その度に不安になって骸が戻って来た時には私は「おかえり」と繰り返していた。



『………』



"何をしてたの?"という言葉は頭になかった。

帰ってきてくれたことが嬉しくて安心して、その間、何をしていたかなんて考えもなかった。



「犯人に気づいてからは、オレは目を覚ます度に身に覚えのない屍の上に立っていた」

「で、でも!あなたには殺した記憶は……っ」

「あぁ、もちろんない。だからこそ自分がおかしくなったのかと自殺も考えたが、それも出来なかった」

「そんな……、何で……」

「全て奴のせいだったんだ」

「奴…?」

「六道骸だ。オレは奴に操られていたんだ……!!」

「な……っ!?」

『……!』

「身体の自由が利かず気がつけば血の海にオレは立っている。奴はそんなオレを影から見て楽しそうに微笑んでいた。」

『む、くろ…』

「いつしかオレは名も心も奪われ"六道骸"となっていたんだ」

「酷いよ…っ!!そんなの人間のする事じゃない……!!」

『………』 



ツナくんは怒りを露にしてグッと拳を作る。

震える拳を握りながらツナくんは力強い瞳で「六道骸」の影武者を見つめた。

その瞳は「必ず本物の六道骸を倒す」と言っているようだった。



「十代目…!!六道骸をぶっ倒しましょう!!」

「えっ!獄寺君っ!?だ、大丈夫だったのっ!?」

「これくらい大丈夫っスよ!」

『獄寺くん、本当に大丈夫、なの…っ?』

「大丈夫だって言ってるだろうが!休む訳にはいかねぇ!」

「いてくれたら心強いけど、その怪我じゃ…」

「お供させてください!!」



意識を取り戻した獄寺くんは「六道骸」を倒す意欲を見せている。
ビアンキさんは元気そうな獄寺くんの姿を見てほっとしていた。



「ボンゴレ、よく聞け…」

「え……?」

「奴の……六道骸の本当の目的は…」

「目的…?」

「あぁ……、…っどけっ!!」

「え…っ!!」

『あ……っ!?』

「十代目!!」



骸の影武者は動けるはずがないのに無理に身体を起こしてツナくんを押した。

その直後、離れた廃墟から飛んで来た「何か」は影武者の身体に突き刺さる。



「これは、針…っ!!メガネ野郎か!」

「な、何で……っ」

「オレ達には攻撃してこない所を見ると目的は口封じ、だな」

「そ、そんな…!」

「く…っボンゴレ……」

「そんな身体で喋っちゃだめだ!」

「……っ散々な、人生だったぜ」

「……っあなたの、あなたの名前は…っ?本当の名前、あるでしょう…!?」

「…ー…ランチア、だ」

「ランチアさん…!!」

「その名で…呼ばれると、ファミリーを思い出す…」

「ランチアさん……っ」

「これで、みんなの、元に…いける……」

「…ー…!!」

『……っ』



ランチアさんは空を見て瞳を閉じる。

ファミリーを思い出しているのか、苦しいはずなのに表情は穏やかなまま意識を失った。



「散々、利用しておいて不要になったらこれかよ…」

「これがあいつらのやり方なのね、人を何だと思っているの…!!」

『………』

「やっぱり、ムカつくよ…!!あいつだけは何とかしなきゃ…っ」

「えぇ!六道骸達をぶっ倒しましょう!!」

「みんな、六道骸の骸の所へ行こう!」



動かないランチアさんを見ると傷口からドクドクと血が流れてる。

ごめんなさい、なんて軽々しく許しを請う事は出来なくて、彼の手にそっと触れた。



『……ランチアさん』



もうこんな事を繰り返さない。
絶対に骸を止めると誓って優しくて温かい手を握った。



『………』



幼い頃、私たちは他の人にはない力を手に入れた。
決して望んで手に入れたものじゃない。

異形の姿、人を超えた能力。
その力は、幼い私達が手に入れるには大きすぎた。



『……』



あの頃よりも大人になったけれど、きっと今でも持て余してる。



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加筆修正
2011/12/11


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