私にとって大切な仲間。
あなた達は私のもう一つの居場所。

大好きで大切だから、優しい手をこれ以上、汚して欲しくない。



『……』



誰だって望んでるものは、そんな事をして手に入るものじゃない。

だから、あなた達を止めたい。








影に潜む獣



獄寺くんと一緒にツナくんの家へ向かう。

ツナくん、家に帰ってるかな…?
チャイムを鳴らそうとしたけれど獄寺くんは門柱に隠れて私をぐいっと引っ張って止めた。



『わ……っ!?』

「ちょっと待て」

『ど、どうしたの?もしかして具合が…』

「違ぇよ」

『……?』

「あ、姉貴が…」

『え……?』



獄寺くんはツナくんの部屋の窓をチラチラと見る。
私も同じように見上げるとツナくんとビアンキさん、山本くんの後ろ姿が見えた。

獄寺くん、ビアンキさんを見ると体調が悪くなっちゃうから警戒しているみたい。

微かに震えて無意識に私の手を握っている。



『ど、どうする…?』

「……十代目を待つしかねぇ。」

『う、うん…』



獄寺くんと一緒に外で待っているとツナくんが私達に気付いたようで目を丸くしている。

だけど、驚いたのは一瞬。
獄寺くんの様子を見て状況を理解したようで苦笑いして、外に出て来てくれた。



「獄寺くん!大丈夫っ!?」

「大丈夫っス、これくらい!ですが…っ」

「ビ、ビアンキだよね…」

「……」

「だ、大丈夫だよ!顔の一部を隠してもらったからさ!」

「なっ、マジっスか!」

「隼人」

「……!!」



ビアンキさんの声にビクッと震えると獄寺くんは恐る恐る顔を上げる。

私も同じように視線を移すとそこにはリスの着ぐるみを着たビアンキさんが腕を組んで立っていた。
その肩にはリボーンくんがちょこんと座っている。

さっきまで身体を変化し続けていたレオンくんは今はまん丸になり安定しているようだった。



「まったく、子どもなんだから」

「……ど、どこから持って来たんスか、あれ」

「さ、さぁ……」

「それより、隼人、ツナ。羽依は何故、ここにいるのかしら?」

『あ…、えっと…』

「羽依ちゃん、その…オレ達、行ってくる、からさ」

「十代目、羽依も行く気らしいっスよ」

「えぇっ!?」

「どういう事よ、隼人」

「行きたいっつーもん止めなくてもいいだろ、姉貴」

「で、でも、危険な場所みたいだし…!!」

「こいつの能力を忘れたんスか?役に立つかも知れないっスよ」

「だ、だけど…っ」

『ツナくん、大丈夫だよ…、一緒に行かせて』

「羽依ちゃん…」

「ツナ、学校対抗のマフィアごっこなら人数いた方が楽しいんじゃね?」

「山本節きたーっ!!」

「ごっこじゃねぇよ!!」

「弁当も十分にあるしな!問題ねぇだろ!」

「……たくっ。お気楽野球馬鹿が」



ツナくんは私が行くことに反対していたけれど、行楽気分の山本くんのペースに乗せられ、和気藹々に敵のアジトである黒曜センターへと向かう事になった。



「十代目、そういえば敵の情報は掴めたんですか?」

「あぁ、獄寺君、えっと、まぁ…」

「はっきりしやがれ、ダメツナ」

「…って!何すんだよ、リボーン!」

「遊び気分で言ったらさっくり殺られちまうぞ。"六道骸"の狙いはお前なんだからな」

『……!』

「分かってるよ!オレだって六道骸のやってることは許せないよ!皆を巻き込んで…!!雲雀さんも戻って来てないみたいだし!」

「人質もいるはずだからな。気を抜くんじゃねぇぞ。ボスたるものファミリーを守るもんだ」

「なっ、リボーン!また羽依ちゃんの前で…っ」

「十代目、それなら、大丈夫っスよ」

「えっ?」

『話、聞いた、よ…。ボンゴレファミリー、十代目のこと…とか…』

「んなーっ!!」

「今日から羽依もファミリーだ」

「勝手なことを言うなよ、リボーン!」

「つーか、黒曜のボスは六道骸っつーのか。すげー名前だな。」

『……六道、骸』



六道骸。
その名前にどうしても反応してしまう。

少し前だったら傍にいて、一番、近い存在だったはずなのに、今は遠い。



『……』



戦わなきゃ、止められないのかな。
お話、出来ない、かな。

マフィア殲滅の事は知っていた。
だけど、私は戦うことに逃げた。

戦うことから逃げて、並盛で暮らす道を選んだ。

骸のためなら何でもしたい。
けれど誰の血も見たくないから、協力したくなかった。

戦えば関係のない人はもちろん、骸たちも血を流すことになる。
それが何よりも嫌だった。



『……(骸…)』



私が協力しなくても、骸はいつかきっとマフィア殲滅を実行するのは少し考えれば分かること。

それが、例え、たった三人だけでも。



『……』



あの、雨の日。
あのまま骸の傍にいたら今はどうなっていたんだろう。
骸たちとの穏やかな"日常"が続いてたのかな?

それともマフィア殲滅の計画は止まる事はなく動き出して、私はこの場ではなく骸達がいるであろう黒曜センターで敵として、ツナくんたちを待っているのかな。

もう一つ、あったであろう未来を考えると、胸の奥が締め付けられるように痛くなった。



『………』



骸の狙いは未来のボンゴレファミリー十代目であるツナくんを倒すこと…?
何故、今のボスを倒さないでツナくんを狙うんだろう。

ボンゴレ十代目を今、倒しても直接的にマフィア殲滅には繋がらないと思う。
ファミリーを滅ぼすなら現在のボスを狙うはず。

他に、何か別の目的があるとしたら……



『………他、に、何か』

「……?羽依、どうかしたのか?」

『あ…、山本、くん…』

「学校対抗のマフィアごっこなんだぜ?気楽に行こうぜ!」

『う、うん…』

「弁当も作ってもらったし後で食おうな!」

「お弁当なら私が用意したものもあるわよ、羽依」

『あ……ビアンキさん…』

「ははっ、両方、食えばいいじゃないっスか!つか、元気ねぇよな?」

『え……?』

「どうかしたか?あ、もしかして傷……」

『あ…っ、傷なんてたいした事ないよ…!』

「そうか?でもー…」

「野球馬鹿!暢気な事を言ってんじゃねぇぞ!そいつの怪我は大した事ねぇっつーの」

「獄寺は元気なのなー」

「当たり前だ!この大事な時に十代目のお傍を離れる訳にはいかねぇ!」

「つか、さっき羽依と手繋いでたろ?」

「んなっ!?」

「こうやってな?」



手招きしてるから傍に寄ったら山本くんは私の手を握った。
しっかりと繋いだまま駆け足で獄寺くんたちを追い越して行く。



『わ…っ山本くん…っ!?』

「山本一人、ピクニックデート気分ーッ!?」

「な、何やってんだ、野球馬鹿!離しやがれっ!!」

「隼人、貴方もあれくらい大胆に行きなさい。」

「はぁ!?何、言ってんだよ、姉貴…!!」

「弟もいいけど妹も欲しいわ」

「ははっ、わりーっスけど、渡す気ないんで」

『……?』

「山本武…、邪魔ね…」

「ひぃぃぃ、山本とビアンキ、さっきからあらゆる意味で火花が散ってるーっ!?」

「ツナ、煩いわよ」

「ひぃーっ!!あーっ、というか!ほら!ここだよ、ここ!着いたから二人とも落ち着いて!」

『あ…、ここが…』

「黒曜センター、っスか」



黒曜センターは映画館や動植物園が入ってた総合娯楽施設みたい。
今ではその風貌はなく土砂が崩れていて荒れ果てている。

独特の不気味な雰囲気に何だか妙に緊張した。

どこから入れるんだろう?
皆で入り口を探していたら入場口らしき大きな門を見つけたけれど、しっかりと鍵がかけられていて閉鎖されていた。



「鍵、錆びきってますね」

「これじゃあ、入れないよ!どうしよう…」

「どきなさい、隼人、ツナ」

「は…っ!?」

「え……」

「ポイズンクッキング…!」

「…ー…ッ!!」



怪しい煙の立つ桜餅らしきもの。
ビアンキさんはそれを鍵に勢いよく投げつけるとたちまち煙が立って溶けていく。

錆びた鉄の匂いとボイズンクッキングの紫の煙が辺りに立ち込めた頃、鍵はガシャンと溶け落ち、私達はセンター内へ足を踏み入れることが出来た。



「うぅ…、ついに入っちゃったよ、緊張してきたぁ…!!」

「へぇー、本格的なのなー、マフィアごっこ」

「だから"ごっこ"じゃねぇって言ってるだろうが!」

『ねぇ、ツナくん、このルート、真っ直ぐでいいのかな…?』

「来た事があんなら案内しやがれ」

「そう言われても小さい頃だし、でも、確かこの先にガラス張りの動植物園があったはず…」

『ない、よね…?』

「えぇ、跡形もないわ。」

「はは…、だから記憶が曖昧なんだって!」

「使えねぇな」

「本当、使えないわ」

「リボーン!ビアンキ!二人して言うことないだろ!?」

「……」

『あれ…?山本くん、どうしたの…?』

「ん?あぁ、これ…」



山本くんはしゃがみこんで足元を見ている。

私達は山本くんが指先でなぞっている場所を覗き込む。
そこには大きな獣の足跡らしきものが地面に残っていた。

爪先の部分には茶色い"何か"が土にこびり付いている。



『これは、血……?』

「時間が経って変色したんだな…」

「な、何で血なんか…っ」



胸がざわついて周りをよく見ると、木にも同じような跡があった。
地面と同じように血のようなものがついている。



「……!十代目、あれを見てください!」

「ひぃぃ、オリが食いちぎられてる!?まだ動物、残ってんのー!?」

『………動、物』

「……!十代目、何かいます…!!」

「ひぃぃ!?何か来たー!!」



騒いでいると、後ろからガサッと物音がした。
その方向を見ると茂みから現れたのは狼のような獣。

血だらけで生きているようには見えない獣たちは私達に襲い掛かってくる。

皆で広場に逃げると不意に地面から声がして山本くんの前に人影が飛び出した。



「……!!」

「へへ、ラッキー!!」

「な……ッ!?」



素早い人影を反射的に避け、山本くんは倒れこんだ。
その衝撃からかガラスが割れる音がして地面に大きな穴が開く。

山本くんはそのまま穴へと落下。
人影は山本くんを追うように薄暗い穴へと姿を消した。



「いらっしゃーい」

「いってー……なんだ、ここ?」

『山本くん…!!』

「山本!!」

「動植物園の屋根が土砂に埋まっていたのね…」

「つか、十代目。あの野球馬鹿、このまま置いていきましょうよ」

「ちょっ、こんな時に何、言ってんの、獄寺君!!…って、山本!!そこに何かいる!!」

「んー?」

「あれは、獣…!?」



私達は慌てて穴を覗き込む。

薄暗い園内には、グルルルル…と獣のような唸り声が響いている。

暗闇の中、必死に声の主を探すと、大きな獣のような影が山本くんに近づいていた。



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加筆修正
2011/11/21


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