モニターには相変わらず京子とハルちゃん、そしてその背後には双子の殺し屋が映っている。

先程と違うところと言えば、手にしているものがライターではなく液体が入っている瓶だというくらい。

あの瓶は何……?



「断るなら分かってますよねぇ?」

「…っ何をする気だ!」

「私が持つ、この瓶を見てください」

「んだよ、それは…っ!!」

「硫酸ですよ。双子の殺し屋にもこれと同じものを持たせました」

「硫酸っ!?何に使う気だ…!!」

「そんなの一つしかないでしょう?彼女らにかけるんですよ」

「な……っ」

「この天使のような顔が硫酸で溶け出す様は見ものでしょうね、ウジュジュ…!!」



双子の殺し屋はそれぞれ硫酸を手にして今にも京子とハルちゃんにかけようとしている。
目の前のバーズさんは嫌な笑みを浮かべて、その様子を見ていた。



『……っ』

「本当は目の前の羽依さんに硫酸をかけたいんですがねぇ」

『っだったら、私にかけて…!京子とハルちゃんはやめて…っ!!』

「それは出来ない相談です。私も命は惜しいもので。」

『な、何を言っているの…っ?』

「……あの方を怒らせてはいけませんからねぇ」

『あの、方?』

「目の前のあなたにかけたら、と考えるだけでも興奮して鼻血が出るのですが、残念です」

「……羽依、オレの後ろにいろ」

『や、山本くん…!でも!』



山本くんが目の前に立ち、私を隠す。

そうやっている間も双子の殺し屋は京子達の背後から離れない。

沈黙が続くと硫酸が入っている瓶の蓋を外して京子達にかけようと動き出した。



「いいんですか?沢田さん……」

「…ー…さ、刺すよ!!」

「じゅ、十代目…!?」

「だ、だから!関係ない京子ちゃん達を巻き込むな…っ!!」

『ツ、ツナくん……!!』

「十代目!」

「ツナ……!!」

「だ、だい、大丈夫、だから!」



ツナくんはナイフを手にすると自分の足に向けた。
震えている腕で、思い切ってナイフを突き刺そうと振り下げる。

その瞬間、モニターの向こうで不気味な悲鳴が木霊してツナくんの動きがピタッと止まった。

驚いてモニターを見ると双子の殺し屋が大人イーピンちゃんの攻撃を受けている姿が目に入った。



≪は、はひーっ!一体、何なんですかっ!?≫

≪もうこれで、安心ね!言われた通り見張っててよかった!≫

≪間に合ってよかったです、若きハルさん≫

≪はひーッ、エロい人ですーッ!!≫

≪ふげーっ≫

≪わいせつ罪でつーほーしますよ!≫

≪うぅ……≫



「助かってよかったけど、大人ランボ、まったく役に立ってねーっ!!」

「しかも、アホ女に殴られて気絶しましたよ…」

「よくやったわ、ハル。あの顔、ムカつくものね。」

「よくないからーっ!!…ってか、じゃあ、京子ちゃんの方は……っ」

『京子……っ』



ハルちゃんの無事を確認して、今度は京子が映っているモニターを見る。

ハルちゃんの方に大人イーピンちゃんと大人ランボくんが助けに入ったように、京子の方にはシャマル先生が駆けつけていた。

殺し屋を見て呆れたように髪をかき上げて息を吐いている。



「おせーんだよっ、あの変態ヤブ医者!!」



≪ストーカーはよくないねぇ。たくっ!奴の読みはドンピシャだな≫

≪あれ、シャマル先生?どうしたの?≫

≪おじさんの格好いいところを見たら今夜は眠れなくなるぜ≫

≪えっ?≫

≪ちょっと、京子に近づかないでよね!行きましょ!≫

≪あっ、待って、花…!!≫

≪気をつけてなー。……女の子にはちっと刺激が強いから、帰ってくれて助かったぜ≫

≪……!?≫

≪お前さん、動かない方がいい…っつっても、遅かったか≫

≪……!≫

≪振動症候群…≫

≪…ー…っ!?≫

≪発病だ。≫



シャマル先生が背を向けると同時に殺し屋の身体から血が噴き出した。

バーズさんは倒された双子の殺し屋を様子を見て青ざめている。



「く…っ!さすが六道さんのミッションはレベルが高い。私はこれにて……」

「逃がすか、てめぇ!!」

「ぶへぁ!!」

「……って!一発で気絶しちまった!!」



獄寺くんは逃げ出そうとしたバーズさんをすかさずキックして倒す。

バーズさんが地面に倒れると肩に止まっていた小鳥はパタパタと飛んで行ってしまった。



「リボーン!シャマルやイーピンが読みがドンピチャ、言われた通り見張っててよかったって言ってたけど、まさか、お前…!!」

「よかったな、困った時に助けてくれるファミリーがいて」

「うん……って、ファミリーじゃないし!!大体、いつの間に起きたんだ!」

「ははっ、よく眠れたか、小僧」

「おぅ、バッチリ眠れたぞ。ビアンキもサンキュー!」

「リボーン、お昼寝できたならよかったわ。」



念のため辺りの気配を窺うけれど殺気は感じられない。

安全を確認すると、みんな緊張が解けてほっと息を吐いた。



「つーか、こんなに刺客がいるなんて聞いてねぇー!!」

「こいつらは六道骸と一緒に脱獄した奴らだ」

「はぁ!?んな事、一言も言ってなかったよなっ!?」

「だって、ディーノがこいつらは関係ないだろうって言ってたんだもん!」

「可愛い子ぶって誤魔化すなーっ!!」

「な、なぁ、刺客ってのは、これでもういないのか?」

「……いるわよ」

「えっ!?」

『………?』

「そこにいるのでしょう?隠れてないで出てきなさい。」

「……!」

「出て来ないんだったら…」

「ま、待って…!!」



ビアンキさんは茂みの方に声をかける。
その声に驚いたようで、慌てて茂みの中からフゥ太くんが姿を現した。

大きなランキングブックを抱えて哀しそうな、寂しそうな目でこちらを見ている。



「フゥ太っ!?」

「逃げ出して来たんですかね?」

「よかった!元気そうじゃんか!フゥ太、一緒に帰ろう!!」

「こ、来ないで……」

「えっ?」

「ツナ兄……、僕、骸さんについてく…」

「な、何を言ってるんだよ、フゥ太!」

『む、くろ……』

「もう、僕は、みんなの所へ戻れないよ…」

「お、おい!待てって!フゥ太…!!」

『あっ、ツナくん…っ!!』



泣きそうな顔で走り出したフゥ太くんをツナくんは追いかけて行った。

骸たちの狙いが十代目であるツナくんなら一人になんて出来なくて、私もツナくんの後を追いかけて森の中に入った。



『……っ』



これから少し先に待っているであろう戦いで私に何が出来るんだろう。



『…ー…っ』



犬は私なんて知らないって言っていた。

だけど、私にとっては仲間。
ツナくんと骸たち、どちらも私にとって大切な人たち。



『……』



ツナくんと骸たち。
例え一つしか選択肢がなかったら、私はきっとどちらも選べない。

だって、比べるなんて出来ないくらい私にとって大きな存在だから。



『………』



M・Mさんが言っていた。
戦う理由は人それぞれだって。

私が戦うなら、それは大切な人たちを守りたいから。

だけど、今はその大切な人たち同士が戦ってる。

まるでバーズさんの要求のように、何をどうしたら一番いいのか分からない。



『………っ』



ひたすら森の中を走る。

今は立ち止まりたくない、から。



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加筆修正
2011/12/10


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