私はツナくんをハルちゃんたちに任せて獄寺くんを探す。 途中、公園に寄ったけれど見当たらなくて、商店街の方に向かった。 『………』 おかしい。 静かすぎる。 普段だったら賑っているのに「音」がまったくない。 それが、何だか非日常的で怖くなった。 『……っ』 この雰囲気、昔も感じたことがある。 嫌な予感と緊張から息苦しくなったけれど足を止めずに商店街を走り獄寺くんを探した。 『は、ぁ…っ、ここにも、いないのかな…っ』 きょろきょろと辺りを見回す。 誰かに獄寺くんを見かけたか聞きたいけど人がいないため出来ない。 どうしようかと走りながら考えていると、ドォンと大きな爆発音が聞こえた。 音のした方の空を見ると、もくもくと煙が上がっている。 『獄寺くん…っ!?』 煙が上がっている方へ急ぐ。 途中で導火線の切れたダイナマイトと、額から血を流している男の人が二人、倒れているのを見つけた。 近づいて確かめる。 出血が酷いけれど胸が上下しているから死んでいない。 彼らの額を見ると何本もの針が刺さっていた。 『……これ、は』 針を一本、手に取ると再びドン、ドォンと大きな爆発音が聞こえる。 その音にハッとして音がした角へと曲がる。 そこには鼻につんとくる火薬の臭いが充満していた。 煙の向こうには獄寺くんが地面に座って煙草を吸っている姿が見える。 ほっとして駆け寄ると、私に気づいてひらひらと手を振ってくれた。 『獄寺くん…っ!!』 「おー、羽依じゃねぇか。どうしたんだ?」 『どうしたってこっちのセリフだよ…!何があったの…っ!?』 「これくらい、たいした事ねぇよ。ハ…っ!!十代目まで、どうしてここに!?」 『あっ、ツナくん!』 「よ、よかった、いた…!!」 ツナくんは辺りを見回しておどおどしながら駆け寄って来た。 荒れてる周りとは反対に思いの外、元気な獄寺くんを見て安心したように口を開く。 「獄寺君、無事…!?黒曜中の奴が狙ってるって聞いて…!!」 「オレを心配して来て下さったんすか!?全然、大丈夫っス!これくらいで右腕のオレがやられる訳ないじゃないですか!」 「そ、そう…、よかった…(今、何気に右腕を強調したー!!)」 「たった今、やっつけたところっス!」 「や、やっつけちゃったんだ…?すげ……」 『………』 獄寺くんは目を輝かせてニカッと笑って頭を下げる。 ツナくんを見ると苦笑い。 私は二人の様子を見て「いつもの光景」だと安心した。 『あ…っ、ねぇ、獄寺くん…』 「どうした?」 『えっと、襲って来た、人は……?』 「あぁ、黒曜中の奴だったぜ。」 「本当に黒曜生に狙われてたんだ…っ!?」 「そこら辺に倒れてるはず…、な…っ!!いない…っ!?」 「えっ!?」 『……っ』 獄寺くんの言葉を聞いて、私たちは警戒して辺りを見回す。 きょろきょろしていると突然、後ろから声が聞こえた。 殺気を感じてゾクリとしたものが背中を走る。 「手間はぶけた……」 「てめぇ…!!」 「な……っ!?」 『…ー…!!』 振り返る瞬間、素早い攻撃が繰り出される。 狙いは明らかにツナくんだ。 私はとっさにツナくんを庇ろうと前に立つ。 だけど、その私の前に大きな影が庇うように立った。 『獄寺くん…っ!!』 「羽依…っ!!十代目、連れて逃げてくれ……っ」 「あ…っ、ごっ、獄寺君…っ!?」 「………くっ」 『…ー…っ』 全てがスローモーションに見える。 倒れていく獄寺くんの胸元から血が勢いよく吹き出して私の視界は血の赤に染まる。 『あ……』 獄寺くんが倒れて相手の姿が見えた。 その人物は見間違うはずがない、大切な仲間の姿。 血だらけの千種の姿があった。 「……」 『……っ』 「ごっ、獄寺君!!大丈夫…っ!?獄寺君っ!!」 「…ー…ッ」 倒れた獄寺くんにツナくんが駆け寄る。 私はただただ目の前にいる血まみれの仲間を見ている事しか出来なかった。 『なん、で…』 「……、……どけ」 『どか、ない……っ』 「………殺すよ」 『……ッ』 千種はシュッシュッと二、三度、ヘッジホッグを見せ付けて攻撃の体勢をとる。 私は千種に攻撃なんて出来ない。 出来るはずない。 ただ、ツナくんと獄寺くんの前に立つことしか出来ない。 「どかない気…?」 『…ー…どかない、よ』 「……」 獄寺くんは庇ってくれた。 だけど、私は千種に攻撃なんて出来ない、したくない。 だったらせめて。 そう思い私は背中に力を込める。 力を集中させると、瞬時に背中に真っ白な翼が現れる。 これは私がエストラーネオファミリーの人体実験で手に入れた力。 この大きな翼でツナくんたちを隠すように立った。 「な…っ!羽依ちゃん…っ」 『ツナくん…っ、動かないで…っ』 「………行くよ」 『……っ』 「うわぁぁ…っ!!」 『…ー…っ!』 ヘッジホッグで攻撃される瞬間、私は誰かに後ろから引っ張られる。 本来なら直撃するだろう攻撃は針が数本、私の肩に掠っただけだった。 『……!!』 「……」 背中に感じるぬくもり、私の身体に回された腕。 そっと見上げると山本くんが私の頭をくしゃりと撫でて安心させるように微笑する。 そしてすぐ真面目な顔になり、獄寺くんを見た後、千種を見つめた。 「ツナ、羽依、大丈夫か?」 『山、本くん…っ』 「山本…!!」 「並中生が喧嘩って聞いてな。まさかと思って来てみたら…」 山本くんは立ち上がってキッと睨みをきかせる。 それは、いつかの怒っていた表情とはまた違っていた。 「穏やかじゃねぇな……」 『山本くん……』 「ツナ、羽依、危ねぇから下がってろ」 「お前も、そこの…女も邪魔……」 『だめ…っ、やめて…っち…ー…っ』 「……ッ」 『あ………!』 千種。 彼の名前を呼ぼうとしたけれど素早い攻撃により、言葉に出来なかった。 千種の優勢になるかと思いきや山本くんは襲い掛かるヘッジホッグを刀で真っ二つに切る。 「……!…お前は山本武」 「だったら、なんだ…」 「お前は犬の獲物……」 『……っ!?』 「ケン……?」 「……、…めんどい」 人が集まって来たため千種はゆっくり歩いて、この場を去る。 お巡りさんが駆け付けて、私たちも逃げるように走った。 『……っ』 反対の方向に走りながら私は振り返り千種を見る。 もう大分、小さい背中。 あんなに血が出てる。 身体をズルズルと引きずって、千種の歩いた道は赤く染まっていく。 千種はこちらを振り返ることはなかった。 「早く行こうぜ…っ!!」 「うん…!早くしないと獄寺君が!」 『……っ』 ドクンドクンと大きく脈打つ鼓動、痛いほど渇いた喉。 伝う冷や汗に胸騒ぎ。 それは、穏やかな日常の終わりを告げていた。 next 加筆修正 2011/11/21 |