お昼ご飯



「…美味しい。さすがイタリアですね」

「良かったなぁ゛…」

目の前でパスタを食べる女。
あの時、にこりと笑った彼女は時間あったらお昼ご飯行きませんか?と言った。
あの時なぜ頷いてしまったのか…自分でも分からねえ。
任務は休みだが仕事はない訳じゃねーしだいたいこんな今日会ったばかりの一般人の女と食事なんて普段の自分じゃありえない。
ただこいつの笑った顔を見ると何となく断れない気になった。山本の友人だからか、それともこいつに何かあんのか…
そんなことを考えていると女が「あ」と声をあげた。何だ。

「そういえば、お兄さん名前何ていうんですか?」

たった今思い出した、という調子でそう聞いてきた女。
今更だなぁ…
まぁオレもこいつの名前は山本がなまえと呼んでいたことしか分からねえし人のことは言えねえかぁ。

「S・スクアーロだぁ」

「スペルビスクアーロさん?」

「スクアーロでいい」

名前にさん付けなんて慣れてねぇからな。

「じゃあスクアーロ。みょうじなまえです。よろしくお願いします。あ、私のこともなまえでよいですので」

「…ああ」

椅子に座ったまま頭を下げたなまえ。
何つうか礼儀正しいな。
若干日本語おかしい気もするが…こいつ本当に山本の友達か?
調子狂うぞぉ…

「スクアーロは何歳?」

「27だぁ」

年齢を聞かれたのでそう答えるとなまえは「へー…」と言った。
う゛お゛ぉい、何だその微妙な表情は。

「お前山本と同い年つーことは18かぁ?」

「18、今年で19です。もうすぐ大学生」

「留学、だったかぁ?」

確か山本がそんなことを言っていた。今日は平日だがイタリアでは新学期はまだ始まってねーからなぁ。

「まぁそうですね。交換留学とかではないんですけど。だから新学期始まる前に来てちょっとでも慣れようかなって。どうせ日本にいても1人なんで」

「1人?」

「…うち家族みんな海外。父パイロット母客室乗務員。兄中国姉アメリカ在住」

日本人だよなぁ、家族とかいるんじゃねーのかと思い聞くと返ってきた答え。

「…何でカタコトなんだぁ」

「なんとなく。あたし高2から1人暮らしだったんです」

「………」

そう言って再びパスタを食べ始めたなまえ。
それ別に理由になってねーだろぉ…なんつーかよく分からねーやつだ。
にしても随分グローバルな家族だなぁ…

「なんでイタリアに来たんだ?」

兄貴が中国で姉貴がアメリカだったかぁ?なぜわざわざイタリアを選んだのかと思い尋ねる。

「ピザがおいしいから」

「適当すぎんだろぉ!」

「あとパスタ」

「聞いてねぇ!」

食いもんで選んだのかよ!
こいつアホなのかと思っているとなまえは食べ終わったらしく「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
そして通りかかったウエイターに「美味しかったですありがとう」と言っていた。
いや、日本語じゃ通じねーだろ。


「さぁ行きますか」

「あ゛ぁ?」

なまえがそう言って立ち上がる。どこへ行くんだぁ…

「買い物、付き合ってくれますよね?」


にこっと笑ったなまえ。
またか。何なんだこいつほんとに。

一緒に昼食を食べて分かったこと。
それは、こいつは今まで出会ったことのないタイプで何だか変わったやつだということだった。




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