道案内



う゛お゛ぉい、何なんだこの状況は…
オレの隣を歩く日本人の女。


なぜこんなことになったのか。
先ほどの山本武からの電話を思い出す。



「う゛おぉい!山本武ぃ!お前なに人の番号勝手に教えてやがるんだぁ゛!」

『スクアーロ!てことはなまえに会えたんだな!』

「あ゛ぁ!?」

電話口から聞こえてきたのはいつものように明るい調子の声。

『そいつオレの友達なんだ。イタリアに留学するっつーから何か困ったことあったら電話しろって言ったのな』

「何故オレのを教えたぁ!?」

普通そこは自分の番号教えんだろぉ!

『だってオレ日本にいるし助けてやれねーだろ?なぁ、なまえに変わってくんね?そこにいるんだろ?』

「ちっ…」

山本に言われるまま、何とかしろ、断りやがれと思いながらケータイを渡した。


「もしもし…」と受け取った女。会話は聞こえねえがいやいやとかはぁとか言ってる様子を見る限り山本のペースのようだ。

会話が終わったのかケータイを返してきたので受け取る。


『じゃあとりあえずなまえのことアパートまで案内してやってくれな!』

「う゛お゛ぉい!何でそうなるんだぁ!」

電話口に怒鳴る。

『大丈夫だぜなまえいいやつだから』

ハハハハと悪びれる様子もなく笑った山本。

「そういう問題じゃねぇだろぉ!」

『あ、そろそろ時間なのな。またメールするからとにかくなまえのことよろしくな。まだイタリア慣れてねーんだ道も分んねーのに危ないやつに声かけられたら大変だろ?また寿司奢るからさ』

「人の話を聞けぇ!」

『あ、そーだ、なまえは“一般人”だから、そこのとこよろしくな!』

「う゛お゛ぉい、待…」

最後に思い出したようにつけたして電話はそのまま切られた。




そして今の状況に至る。
女はイタリアの町が珍しいのかさっきから右や左に並ぶ店に忙しく目を走らせている。

何でオレがこんなこと…と思うが危ないやつに声かけられたらという山本武の言葉。
暗殺者である自分は危ないやつじゃないのかという気もするが確かにここらは治安がいいとは言えない。日本に比べるとなおさら。
それを分かっていて今更ほっておくのも気が引ける。
ちっ、スリから助けたりするんじゃなかったか…


「…う゛お゛ぉい、あんまりきょろきょろすんなぁ」

フラフラとどこか危なっかしい彼女にそう声をかけると「スミマセン」と謝られた。

「……」

「……」

なんとなく沈黙になる。めんどくせぇな…

「お兄さん山本とはどういうご関係で?」

しばらくして唐突に女が尋ねてきた。
関係…

「……家庭教師、みたいなもんだぁ」

山本曰わくこいつは一般人。つまり山本のことも何も知らないということだ。
なのになぜオレに会わせたのかが謎だが。まさかマフィアのファミリーなどとは言えない。

「お前は山本とどういう関係なんだぁ」

山本は友達っつってたかぁ…クラスメイトかなんかか?と思いながら尋ねる。

「えーと、友達です一応。小学校と高校が一緒だったんで」

「一応?」

「まぁ友達だけど家族みたいな感じでして」

…よく分からねぇ。まぁどうでもいいがなぁ。



「着いたぞぉ。何階だあ?」

そんな話をしながらしばらく歩くと目的のアパートに着いた。

「2階です」

階段を上がり部屋の前に荷物をおろす。

「ありがとうございました」

「あ゛ぁ。じゃあなぁ」

ぺこりと頭を下げた女。帰ろうとすると「あの!」と呼び止められた。

「何だぁ?」

まだなんかあんのか、と振り返る。

「…今からお時間ありますか?」

そう言って笑った彼女。
笑顔を見たのはこれが最初だった。





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