*伝える想い
「ふー…来ないなぁ…」
駅前の広場現在20時30分。
ベンチに座ってため息をつく。スクアーロが、来ない。電話もメールも繋がらない。
「…のは前からか」
スクアーロにもう一度会いたいということは山本が伝えてくれた。時間も場所も間違ってない。
けど、待ち合わせ時間から1時間半。外国人は時間にルーズっていうけどスクアーロはそんなことない。今までも待ち合わせに遅れるのはあたしの方が多いくらいだった。
何かあったんだろうか。事故とかあってないといいけど…スクアーロのことだから大丈夫かな。
電話も繋がらないしメールも返ってこない。大丈夫だとしてこの状況は…
「ふぅ…もう来ないかな…」
関わるなってことはやっぱりもう会えないってことなんだろうか。
携帯を閉じて再びため息をつくと隣においていたカバンがなくなった。………なくなった?
バッと顔を上げると帽子を被った男の人があたしのカバンをもって走り出すのが見えた。
スリ!?
「うそ…ちょ、“待って!”」
慌てて立ち上がり追いかけて走り出す。
なにこれなんかデジャヴ。必死で走るが全く追いつかずスリとの距離はどんどん広がっていく。道行く人たちも気づいてないわけないのに見てみぬふり。
「も、ダメ…」
限界だと立ち止まった時、進行方向からざわっとどよめきが聞こえた。
「スクアーロ…どうして…」
顔を上げると振り返ったスクアーロと視線が合う。え、夢…?
混乱していると近づいてきたスクアーロがスリから取り返してくれたらしいカバンを差し出してくる。
「あ、ありがとう…」
ってなにあたし普通にお礼言って受け取ってるの。そうじゃない。
やっと会えたんだから、言わなくちゃ。
「あのね、スクアーロ、あたし、スクアーロのことが…っ」
顔を上げて口をひらくとぐっと前に引っ張られる。
次の瞬間にはスクアーロの腕の中にいた。
+++
なまえとの約束の日。任務が長引いてかなり遅くなってしまった。
「もう20時半か…」
山本から伝えられた時間からはもう1時間以上もたっている。さすがにメールでも入れようと思ったが任務中に携帯が壊れてしまったため連絡をとることができなかったのだ。
もう帰ってるかもしれない。それならそれで構わないが…
「なんだぁ…?」
待ち合わせ場所に急いでいると進行方向からざわざわと騒ぎ声が聞こえた。不思議に思っていると前からカバンを抱えた怪しい男が走ってくる。スリか…ったく人が急いでる時に…そう思いながらもカバンを奪い返すと男は慌てて逃げていった。
「スクアーロ、どうして…」
ふぅとため息をついて振り返るとはぁはぁと息を切らしているなまえがいた。驚いた顔のなまえと視線が合う。…なんかデジャヴだなぁ。
カバンを差し出すとありがとう…と受け取ったなまえ。
「あたし、スクアーロのことが…っ」
そう、言いかけたなまえの腕をぐっと引っ張り、腕の中に閉じ込める。
「スクアーロ…?」
「…Perché non dico io, senta solamente una volta bene」
「へ、なに…」
「Ti amo」
なまえにだけ聞こえる声で言う。こいつだってイタリア語やってるんだからこれくらいの意味は分かるはずだ。が、反応が返ってこない。
「………」
「う゛お゛ぉい、何か言えぇ」
「…もっかい、言ってもらえませんか」
「1回しか言わねーっつっただろぉ!」
そう言いながら身体を離すとオレを見上げたなまえは涙を浮かべながら笑っていた。
「ははっ、先に言われちゃったな」
ずるいよなんて言うなまえの顔は言葉とは裏腹に明るいもので。巻き込んだらなんて考えていた自分が急にバカらしく思えてきた。あの日、出会った時点でもう巻き込んでるも同然なんだ。
「あたしもスクアーロのこと好き、だよ」
そう言ったなまえをもう一度ぎゅっと抱きしめる。勝手な理由で一方的に突き放したオレにまた会いたいって言ってくれるなら。こんなオレを好きだと想ってくれるなら。
「あぁ…ありがとなぁ」
それなら、離れるんじゃなくて側にいよう。
この笑顔は、こいつはオレが守ってやる、そう思った。
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