*休日の午後
学園祭も無事終わって今日は休日。久しぶりに公園に行ってのんびり過ごそうと思い家を出た。
「サンドイッチ屋のおじさんに会うのも久しぶりだなー」
イタリアに来た頃からお気に入りのサンドイッチ屋さん。テストやらなんやらで忙しかったから最近は全然行けてなかった。
元気かなとか今日は何食べようとかそんなことを考えてうきうきしながら街を歩いていた、その時。
パンッ
「え?」
大きな音がしたと思うと次に聞こえてきたのはテレビか運動会でしか聞いたことのないピストルの音ときゃあっという悲鳴。
振り返ると道の真ん中で拳銃を持った男たちが何か叫んでいた。
パン パンッ
「っ!?」
そしてまた響く銃声。逃げ惑う人がマフィアの抗争だと言っているのが聞こえる。
…マフィアの、抗争?
訳が分からないで突っ立っているうちに人にぶつかって尻餅をついてしまった。
なんだこれありえない。なに拳銃って、マフィアって。銃刀法違反…いや、イタリアだからありえるのか。こんなとこで死にたくない。
さっき発砲した人が動くなとか言ってる。動くなもなにも混乱しすぎて立つこともできない。どうしたらいいんだ。電話…とかしたら撃たれそうだよね。
「“な、なんでお前が…うわあぁ!”」
「……?」
どうすればいいのか分からなくて動けないでいると突然そんな言葉が聞こえて、しばらくすると男の声は止んだ。
…終わった、のか?警察が来たとか?
状況がつかめず呆然としていると目の前にすっと手が差し出される。
見上げると優しそうなおじいさんがいた。
「大丈夫かい?すまないね」
「え、日本語…」
にこりと笑うとそう言ったその人。イタリア人、だよね?
「日本に君と同い年くらいの知り合いがいるんだ。立てるかい?」
「あ、はい、ありがとうございます」
あたしの思ったことが分かったのかおじいさんはそう言ってあたしの手を掴んで立たせてくれた。
「日本は平和な国だから、驚いただろう」
「あ、いえ、はい」
優しそうな顔で笑うその人。警察、じゃないよね多分。
「すまなかったね。よい休日を」
駆け寄ってきた黒いスーツを着た若い男の人たちにイタリア語でなにか言った後、おじいさんは私にそう言って去っていった。
なんていうか、紳士的な人だったな…なんで謝られたんだろう。
「ま、いいか」
警察が来るなんてこともなく一時騒がしかった通りも日常に戻っていっている。
こういうのもイタリアでは珍しいことじゃないのかもしれない。
イタリアに来た日もスリにあったし、おじいさんも言ってたけどやっぱり日本みたいに治安がいい国は珍しいんだろうな。
まぁ驚いたけど無事だったからよしとしよう。お腹も減ってきたし。今日はサンドイッチと一緒にプリンも食べようかな。
そんなことを思いながらいつもの道を歩き出した。
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