*水族館(前編)
「う゛お゛ぉい…」
「大きいねー…」
水族館にやってきた。
目の前に広がる巨大な水槽。
「スクアーロもここ来るの初めて?」
「ああ」
普段は水族館になんて来ない。というかあまり遊びに行くなんてことがない。なまえに会うまでは仕事がない時でも大抵ヴァリアー邸にいたからなぁ。
オレの返事にさして興味もなさそうにへーと返事したなまえはもう次の水槽へ向かって行っていた。
まあこいつのこんな態度にももう慣れちまったが。
なまえと2人順路に沿って水族館を回っていく。
雑誌にも載るくらいだからやはり人気なのか平日と言えど客はまあまあいるようだ。
「美味しそう…」
「う゛お゛ぉい、その感想はねーだろぉ…」
「ははは、ごめんつい」
そう言って笑ったなまえは日本にいたころから来たかったというだけあってとても楽しそうだ。
「あ、squaro…」
「あぁ?」
オレたちの目の前の水槽を大きな鮫が通り過ぎる。
「ジャーズみたい…」
「ジャーズ?」
「あれだよ映画。鮫に襲われるやつ。見たことないけど」
なまえは泳ぐ鮫を見ながらジャーズって鮫の名前だよ確かとか言っている。
いやジャーズとか知らねーしどうでもいいが。
「スクアーロってsquaroなんだね」
ふと気づいたようになまえが聞いてきたのでまあなと返す。
「かっこいい名前だね。似合ってる」
「そりゃどうもなぁ」
「スクアーロ自身がかっこいいからね」
「な…!」
なまえの方をばっと振り返るといつもと同じ様子で「フカヒレって美味しいのかな」などと言っていた。
こいつはほんとに何でそういうことをさらっと言うんだ…だいたいフカヒレってここでも食いもんかよ。とか色々思うところはあるがこいつにそんなこといちいちつっこんでたらきりがない。水槽をじっと見ているなまえから鮫へと目を移す。
確かに立派な鮫だ。まぁオレのボックス兵器には及ばねえが。水族館でこんな鮫が見れるとはな。名前がどうこうはともかくオレは鮫が嫌いじゃない。というか好きな生き物はと聞かれたら鮫と答える。
「そろそろ行くかぁ…!?」
しばらくそんなことを考えながら水槽を眺め、そろそろ行くかと声をかけようとすると隣にいたはずのなまえがいなくなっていた。
ぐるりと周りを見渡すがそれらしい人物は見当たらない。
「チッ…」
あいつはまた1人でふらふら行きやがって…
オレといること忘れてんのかぁ!?
+++
「タコって何考えてるのかなー…」
スクアーロが鮫に見入っている間に少し進んでみるとタコがいた。
タコ壺の中はやっぱり落ち着くのかな。そういえばタコって骨ないんだっけ。久しぶりにおじさんのタコの刺身食べたいな。
「“可愛いね”」
「ん?」
タコ壺やうねうねと泳ぎ回るタコをぼーっと眺めながらそんなことを考えていると隣から聞こえた声。見るとイタリア人の男の人が2人。
あたしに話しかけてるのか?
「“どこから来たの?アジア系でしょ”」
「“いや、イタリアにもいるでしょ。しかもタコって可愛いっていうより美味し…面白いじゃないですか?”」
可愛いのはペンギンとかそーゆーのでしょと言うと何故か笑われた。
「“ははは、面白いね君。1人なら俺たちとお茶でもしない?”」
「“ちょ、もうちょっとゆっくり喋ってもらえませんか…ってゆーか何で腕…”」
何故か腕を掴まれる。というか2人で何か話してるけど早口すぎて全く聞き取れない。
面白い君って言った?君ってあたし?
いや、面白いのはタコだって。とか言ってる場合ではなく。
「“う゛おぉい、何やってんだぁ”」
そんなことを思っていると後ろから聞き慣れた声。
「“何だよお前…”」
「“それはこっちのセリフだぁ”」
その言葉を聞いた男達はこそこそと何か話した後あたしの腕を離し去っていった。
何だったんだろう。
「てめーは何やってやがんだぁ」
「あ、スクアーロ」
振り返るとそこにいたのはやっぱりスクアーロだった。
「あ、じゃねえ!何で1人で行くんだよ!」
「だってスクアーロ鮫見てたじゃん。だから先行ってタコ見てただけだよ。そしたらあの人達が来て可愛いとか言うからタコは可愛いっていうより面白いじゃないかって話してたの」
そう言うとはぁっとため息をつかれた。そして手を差し出される。
「………何か欲しいの?」
目の前に出されたスクアーロの手のひらを見てそう言うと違え!と怒鳴られた。
うるさい。
またはぐれられたら面倒だからなぁと手を掴まれる。
…そっか。スクアーロはあたしを探してくれてたんだなと今更ながらに思う。
悪かったなと思うけど昔からこうなんだよね。性分というか何というか誰かといても興味のあるものがあったら1人で見に行ってしまう。
小さい頃はよくそれで迷子になったものだ。でも自分は迷子なつもりないからアナウンスで呼び出されて店の人に連れてかれるんだ。
まぁ確かにこうしとけばはぐれないもんね。
あたしが迷子になったら面倒だから繋いでるだけ。
なぜかうるさい心臓にそう言い聞かせた。
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