「まだ何も分からないの?」

「はい、何しろ手がかりが少ないので…午後にもう一度あのアジトへ行ってきます」

「そう」

午前中の任務が終わり、出かける支度をしながら哲の報告を受ける。

「恭さんは午後からなまえさんと遊園地でしたね。なまえさんは…」

「今日は朝から綱吉のところに行くって言ってたけど」

昨日綱吉から笹川京子と緑川ハルが来ると聞いて嬉しそうにしていた。昼は向こうで食べるって言ってたけどそろそろ帰ってくるはずだ。…噂をすればパタパタと廊下を走る足音が近づいてくる。

「恭ちゃん!」

「なまえ…どうしたのその格好」

「えへへ、きょーこちゃんとハルちゃんにやってもらったの!」

パンッと扉を開けて入ってきたなまえは花柄のワンピースを着ていた。頭にはピンク色の花の髪飾り。いつももっと動きやすそうなというかカジュアルな服を着たがるなまえには珍しい格好だと思う。

「恭ちゃんとゆうえんち行くのって言ったらやってくれてね、でーとだねって」

でーとならワンピースですよってハルちゃんが言ってたのなんてにこにこと笑いながら僕を見るなまえはきっとデートの意味なんて分かってないんだろうけど。

「じゃあ行こうか」

差し出した手に重ねられる小さな手をひいてアジトを出た。







「ゆうえんち、楽しいね!」

遊園地は平日ということもありそれほど混んでいなかった。コーヒーカップやメリーゴーランドといった定番のものにもすぐに乗ることができてなまえは遊園地を満喫している。

「恭ちゃん、次あれのりたい!」

「あれ?」

なまえが指差した先にあったのはジェットコースターだった。

「びゅーん、きゃあーって楽しそう!」

公園に行った時にブランコが好きだって言っていたことを思い出す。その時も確かびゅーんっていう言葉を言っていた気がする。…速いのが好きなんだろうか。
きゃーっという叫び声を響かせながらまた通ったジェットコースターを見てなまえはきらきらと目を輝かせている。
わくわくとスキップするような勢いのなまえと一緒にジェットコースターの乗り場に向かった。

「あ、お嬢ちゃん」

入り口でなまえが係の女性に呼び止められる。

「ちょっとここに立ってみてくれる?」

彼女が指したのは遊園地のキャラクターが手を横に差し出している看板だった。前に立ったなまえの頭はその10pほど下にある。

「…申し訳ございません、こちらのアトラクションには身長制限がございまして…」

女性が申しわけなさそうな顔をして僕を見る。

「ごめんね、もう少し大きくなったらまたきてね」

こういうことはよくあるのだろう、女性は慣れた様子でなまえの前にしゃがむとそう言って何かを渡した。






「はい、なまえ」

「…ありがとう」

一休みしようかとジュースを買ってベンチに座る。隣に座るなまえは分かりやすく落ち込んでいた。

「さっき、何もらったの」

「これ」

なまえが差し出したのはポストカードのようなもので、先ほどのキャラクターと一緒にまたきてねという言葉がかかれていた。キャラクターや周りに描かれた花がシールになっている。乗れなかった子どもへの遊園地側の配慮だろう。

「しょうがないよ」

「…うん」

他の、世間一般の子どもがどうかは知らないけど、なまえはこういうことがあっても泣いたりわがままを言ったりすることがほとんどない。どちらかというとすぐ切り替えられるタイプだと思う。いつも笑っててこんなに落ち込むこともあまりないんだけど。よっぽどジェットコースターに乗りたかったんだろうか。

「ごめんね」

「?何が?」

いきなりなまえの口から出た謝罪の言葉に首を傾げる。

「なまえがちっちゃいから恭ちゃんもあれのれなかった」

「え…」

もしかして自分のせいで僕がジェットコースターに乗れなかったと思って、だから落ち込んでたんだろうか。…そんなの、僕はなまえが楽しんでくれたらそれでいいのに。

「…また来ればいいじゃない」

「また?」

「うん」

「なまえが大きくなったら恭ちゃんいっしょにきてくれる?」

「うん、約束するよ」

そう言うとなまえの表情がぱあっと明るくなる。
やっぱりそうやって笑っててくれるのがいちばんだって、なまえの楽しそうな笑顔を見てそんなことを思った。


ゆうえんち


「さぁ、それ飲み終わったら次に行こうか」

「うんっ!」


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