「なまえ!」

公園に戻ってきて見えた光景に自分の目を疑った。
なまえの隣に黒い服を着て帽子をかぶった見るからに怪しい男がいたのだ。

「恭ちゃん!」

「…!?」

僕に気づくとなまえの表情はぱっと明るくなり、男は慌てたように反対側の入り口から逃げて行った。

「なまえ!大丈…」

「みて恭ちゃん!あのおじちゃんがお花くれたの」

慌てて駆け寄れば笑いながらそう言ったなまえ。どうして、そんな笑って…

「恭ちゃん?」

「どうして…じっとしててって言ってただろ」

何も分かっていない、いつも通りの様子で覗き込んできたなまえに思わず言葉が強くなる。びくっと肩を揺らしたなまえ。その目にみるみるうちにたまっていった涙を見てはっとなる。
なまえは悪くない、頭では分かっているのにどうしていいか分からなくて。
くるりと背を向けると哲の姿が視界に入った。何かを伝えるために追ってきたのだろうか。すぐに状況に気づいたらしい彼が駆け寄ってくるのを確認し、歩きだす。

「恭さん!?なまえさんは…」

すれ違う時に哲が何か話しかけてきたけど無視して立ち止まらずにそのまま進む。

「う、うわぁぁん…!」

「恭さん!」

後ろからなまえの泣く声と哲が僕を呼ぶ声が聞こえたけど振り返ることはできなかった。



だって何より自分に腹が立っていて。なまえが悪いわけじゃないのに怒鳴るなんて最低だ。
なまえに何かあったらと思うとすごく怖かった。少しなら大丈夫なんて思った自分が許せなかった。そんな自分がなまえにかける言葉なんて見つからなかった。



***



「…つなよし」

「なまえ、目が覚めた?」

机に向かって仕事をしていると先ほどまで泣き疲れて眠っていたなまえが起き上がってきた。
朝から雲雀さんと出かけていたなまえは草壁さんに連れられて帰ってきた。泣きながら帰ってきた彼女の話と、草壁さんから聞いた話では、ざっくり言うとなまえが雲雀さんに言われたことを守らなくて怒られたということだった。いや、ぶっちゃけ具体的に何があったのか2人の話からは全くと言っていいほど分からなかったが、オレは何となく状況が想像できた。寄ってきたなまえは今にも泣き出しそうな顔をしてうつむいている。

「恭ちゃん、なまえのこときらいになっちゃったかな」

小さな声で呟かれた言葉にえ?と聞き返せば、下を向いたままなまえが話し始める。

「知らない人について行ったらだめって、知らなかったの。でもなまえじっとしとくってやくそくしたのに、しなかった、からっ」

…自分が悪いことをしたから雲雀さんに嫌われたと思ったのだろうか。ポタリと涙が落ちる。

「雲雀さんはなまえのこと嫌いになったりしないよ」

ポタポタと涙を流すなまえにしゃがんで目線を合わせる。

「好きだからこそ怒ったんだ」

「すきなのに、おこるの?」

「好きだから、なまえのことが大切だから、心配だったんだよ」

「しんぱい…?」

なまえが理解できないというようにオレを見る。

「なまえはまだ分からないかもしれないけど…世の中には悪いこと考える人もいるんだ。雲雀さんはなまえのことが大切だからこそきつく言ったんじゃないかな」

そう言うとなまえはまた少し考えるように下を向いた。

「…でも、なまえ恭ちゃんにちゃんとごめんなさいしたい」

「そっか。なまえがしたいようにすればいいよ。きっと大丈夫だから。その前にご飯でも食べようか」

お腹減ってるだろ?と言うとうんっと返事したなまえの顔には笑みが浮かんでいた。



***



アジトに戻り仕事の書類を手に取る。泣き疲れて眠ったなまえは綱吉のところにいるとさっき哲が伝えにきた。何もやる気になれなくて一人で明日する予定だった書類に目を通してみても内容なんてほとんど頭に入ってこなかった。

不意にトントンとノックの音が響く。どうぞと声をかけるとゆっくりとドアが開かれた。

「恭ちゃん」

「なまえ…」

パタンとドアを閉めて僕のところまでやってきたなまえ。

「ごめんなさい」

「………」

「なまえ、もう知らない人についていかない。ちゃんと言うこときく、から、嫌いになっちゃ、いやだよぉ…」

最初ははっきりとしていた言葉がだんだんと途切れ途切れになって。言い終わるころにはぼろぼろと涙をこぼしていたなまえをぎゅっと抱きしめる。

「僕も、ごめん」

「もう、おこってない?」

不安そうに聞いてくるなまえにうなずくと安心したようにふにゃりと笑う。

「なまえ」

「なぁに?」

「僕はなまえのこと嫌いになんてならないよ」

そう言うと一瞬きょとんとした表情を浮かべた彼女はすぐにいつもの嬉しそうな笑顔で言った。

「なまえも、恭ちゃんだ―いすきだよ!」

なまえのことを嫌いになんてなる訳がない。
こんなにも愛しくてなによりも大切だって思うんだから。


たいせつだから


「今度またどこか出かけようか」

「うんっ!」


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