5.板チョコと麦チョコと


「ただいま戻りました」

「師匠おかえりなさいー」

「おかえりなさい。すごい荷物ですね」

買い物から戻るとフランとなまえが出迎えにきた。

「ああ、こっちはなまえにですよ」

「ありがとうございます。M・Mちゃんかな。あ、六道さん持ちますよ」

M・Mかららしい小包を手渡すと僕の荷物を見たなまえが言った。

「いいですよ。今日の主役はあなたなんですし女性に持たせるなんて」

「ははは、またそんなこと言って。大丈夫ですよ。一緒に運んだ方が早いし楽じゃないですか。てゆうかこの大量の荷物よく1人で持って帰ってきましたね」

笑ってそう言ったなまえ。

みょうじなまえは出会った頃からかなり変わった娘だった。



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誰なのでしょうこの少女は。

「髑髏ちゃーん」

後ろからの声に振り返ると見知らぬ少女が立っていた。黒曜中の制服…クロームの友人でしょうか…?
困りました…一般人のようですし僕が憑依しているとは思わないでしょうが。下手に喋らない方がよさそうですね。適当に相手をしていったん帰らせていただきましょう。

「………」

「どうしたの?黙っちゃって風邪?」

そんなことを考えていると彼女が不思議そうに尋ねてきた。

「…ううん。何か用?」

「うん!聞いて聞いて!今日はいいもの持ってきたんだ!」

「……?」

嬉しそうにカバンの中に手を入れて言った彼女。

「ダカダカダカダカ…」

「………」

一人ドラムロール…
随分と変わった娘ですね…。

「じゃじゃーん!!」

じゃじゃーんって…
その言葉と共にずいっと目の前に差し出された袋。
麦チョコ…?

「新しいの!りんご味麦チョコ!!一緒に食べよー!!」

りんご味の麦チョコ…?どう反応すればいいのでしょう…

「………」

「あれ?反応薄いな。本当にどうかした?」

「ううん、ありがとう」

黙っていると少し心配そうに彼女が尋ねてきたので慌てて返事をする。

「………」

「………」

急に黙った彼女。沈黙が続く。気づかれましたかね…。

「…髑髏ちゃん今日なんか雰囲気違うね。何かあった?犬と柿ピーと喧嘩でもした?」

「………」

驚きました。犬と千種のことも知っているのですか。
この娘…気になりますね。

「クフフフフ…」

「ん?」

「すみませんが今クロームはここにいません。彼女は僕の器ですから」

「は…?」

僕を見て固まっている彼女。…逃げますかね。

「…あ、何かのものまね?」

「違います」

ひらめいたように言った彼女。
だいたいクロームはものまねなんてしないでしょう。

「…えーと髑髏ちゃんじゃないんだ?」

「ええ。僕の名前は六道骸です」


「ろくどーむくろーむどくろ…」

しばらく考え込んで理解したらしい彼女は僕(クローム)の顔をじっと見つめた。

「立ち話もなんですから座りましょうか」

「あ、じゃあうちで麦チョコでも食べながら…」

そう言って歩き出した彼女…
いいですけど、緊張感ないですね。



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「えっと、六道さんは髑髏ちゃんとどういうご関係で?あ、お茶飲んで下さいね」

彼女についてやってきたのは駄菓子屋だった。ここが彼女の家らしい。店と繋がっている居間でお茶と麦チョコを出される。

「彼女は僕の器ですよ」

「うつわ…?へぇ」

彼女は僕の言葉に一瞬怪訝そうな顔をしたがすぐ真顔に戻って言った。

「クフフ、驚かないのですか?」

「驚いてますよ?まぁでも見ちゃったら信じるしかないですしねー。でもなんなんですか?幽体離脱的な?」

「違います。憑依ですよ」

「ふーん」

興味なさげに返事をして麦チョコに手を伸ばした彼女。

「あなたは何者ですか?クロームだけでなく犬や千種とも関わりがあるようですが」

気になるのはそこだった。黒曜の制服ということは学校が同じなのだろうが犬や千種が学校で他の生徒、しかも女子生徒と関わるとは思えなかった。

「友達かな?学校が同じなんですよ」

「見れば分かります」

「あ、あたし制服か」

ははは、と笑った彼女。友達ですか…

「六道さんはおいくつで?あ、今じゃなくて当時ので」

「どういう意味です?」

質問の意図が理解できず尋ねると彼女はとんでもないことを言い出した。

「だから、おいくつで亡くなられたんですか」

「死んでません」

「え」

てっきり死んで乗り移ってるのかと…と言った彼女は本気で驚いていた。

「てゆーか六道さん麦チョコ食べないんですかもしかしてチョコ嫌い?」

「いえ、チョコは好きですよ」

「あ、もしかして六道さんも板チョコ派ですか?早く言ってくれればいいのに。はいどうぞ」

そう言った彼女は板チョコをパキッと割って差し出した。
今学生カバンから出しました…?いや、気にしないでおきましょう。

「いやぁそれにしても変な感じですね。髑髏ちゃんが僕だし丁寧語だし。六道さんの写真とかないんですか?」

「ありませんよ」

「そっかー」

「…そろそろおいとまします。行かなければならないところもありますので」

一応彼女の正体は分かった。これ以上長居をする必要もないので帰ろうと立ち上がる。
彼女は店の前まで見送りに出てきた。


「ごちそうさまでした。なかなか楽しい時間でしたよ」

「こちらこそ楽しかったです」

「では失礼します」

「…あ、六道さん!」

歩き出すと後ろから彼女に呼び止められた。

「いつか、絶対会いましょうね!」

振り返るとなまえは大きく手を振りながら笑顔でそう言った。

「クフフ、楽しみにしていますよ…」



********************



それが最初の出会い。
数年後、実際に会った時、やっと会えましたね!と言った彼女は初めて会った時と変わらない笑顔だった。

そして今も…


「クフフフフ、あなたらしいですね。ではこちらをお願いします」

「はーい!」

「ていうか犬と柿ピーは何してるのかな。髑髏ちゃんも、六道さんの迎えに出て来ないなんて」

「色々あるみたいですよーなまえさん荷物持ちミーも手伝いますから貸してくださいー」

「ん、ありがとフラン。六道さん行きましょ!」

「ええ」





その笑顔がずっと続くことを祈って。








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