「…ピッチャーみょうじなまえ投げました!」

「…っ!」

「ストライク!バッターアウト!」

多目的室。
掃除時間には相応しくない台詞と共にびっと指をさされたのはバッター…もとい箒を持った三橋廉。
指をさした自称ピッチャーみょうじなまえは満足そうに丸めた紙を拾い上げた。
…あれが今朝返された数学の小テストであることをオレは知っている。

「はーい!次オレ!」

元気いっぱいという表現がぴったりな様子で手を挙げた少年は我らがヒーロー田島悠一郎である。

「田島っちはさっき打ったじゃん!次あたし!みはちゃん投げて!」

「う?オ、オレ…?」

えー!と口を尖らせる田島の隣で自分を差して戸惑っている三橋からみょうじが箒を受け取る。

「そう!うちのエースからホームランをとってやるぜ!」

「うひ…エース…」

ホームラン宣言をされているにも関わらず三橋はうちのエースと呼ばれて嬉しそうにしている。
じゃーオレキャッチャーやるーとポジションにつきだした彼らはもうオレの手には負えない。

「さー来いみはちゃん!」

「いく、よ…っ」

ばしっといういい音と共に飛んでいくボール(丸めた紙)。

「うおぉ!」

「よっしゃホームラ…」

ガラ…
ぽすっ

同時にドアが開き中に入って来ようとした人物に命中した。

「「あ」」

「い…泉、くん…!」

「…何やってるんだ?」

その人物はゴミ捨てから帰ってきた泉。

「ごめんいずみん当たっちゃったー」

みょうじのあははははーと脳天気に笑う声が響く。

「当たっちゃったじゃねーよ。お前ら掃除時間に何やってんだ」

「「野球」」

悪びれもせず声を揃えた田島とみょうじ。
三橋は2人を見ながらおどおどしている。


「ん、予鈴!教室戻ろー!」

「ほんとだ!みはちゃんも行こ!」

「う、うん」

その時ちょうど予鈴が鳴り響き田島達がさっさと掃除用具を片づけ教室へと向かいだす。

「いずみん、ハマちゃん置いてくよー」

「お前ら…!」

去り際に振り返ってみょうじが言った言葉にゴミ箱を持った泉の肩がわなわなと震えていた。
…泉、オレはお前の気持ち分かるぜ。


丸めた紙とほうきで野球


「…あいつらってほんと毎日楽しそうだよなー」
「つーか浜田は何やってたんだよ」
「えーっと……野球観戦?」
「………」
「だってあいつらオレの言うことなんて聞かねんだもん!」



back

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -