「…失礼します」

今日の仕事も終わって帰る準備をしていたらリボーン様の部屋へ行くよう言われた。私服だったから着替えようとすると服も別に仕事着じゃなくていいとのこと。何かあったのかと急いで向かうとリボーン様は特にいつもと変わらない様子でソファーに座っていた。

「おう、悪かったな仕事終わりに呼び出して」

「いえ、それは構いませんが…どうかされましたか?」

「なまえ…何かオレに言うことないか?」

「……?」

言うこと…?何かあったかな。今日もいつもの通り仕事だったし…考えるが何も思い浮かばない。

「…人事異動だってな」

「え…」

?を浮かべる私に向かってリボーン様が言う。どうしてそれを知って…あぁ、そうか。やっぱりリボーン様に言わないのは失礼だよね。

「はい、私は今週いっぱいでここでの勤務が終わりになります。私の仕事は別の者に引き継がれると思います」

あと少しの間ですがそれまではよろしくお願いしますと頭を下げる。ありがとう、さようならを言ってしまったらもう終わってしまうみたいだから…まだ言わなくてもいいよね?

「支部っつってもすぐ近くなんだろ。会えなくなる訳じゃねーぞ」

「でも…」

確かに異動といってもそんなに遠いわけではない。引っ越さなくても今の家から通える距離だし。でも、近かろうが何だろうが会えなくなるのには変わりないと思う。もっと言えば例え同じ仕事場でもこの役目が変われば会えなくなるのだ。リボーン様と私の関係はそんなものだから。

「来ればいいだろ」

「え?」

「来ればいい」

かけられた言葉の意味が理解出来ずリボーン様を見れば真剣な瞳に見つめられる。

「ったく…言わなきゃ分かんねえか?」

そう言ったリボーン様は立ち上がり私のいる方へ近づいてきた。そしてふわりと抱きしめられる。

「な…あの…!」

頭が状況を理解すると同時に身体が熱くなる。
え!?何この状態…!どうすれば…!

「……好きだ、なまえ」

そして耳元で優しいく力強い声で囁かれた言葉。

「…っ、またからかってるんですか!?」

「…分かってんだろ」

分かってる、いつもと違う真剣な声。真っ直ぐ私を見つめる瞳。リボーン様は本気だ、って。

「だって、嘘みたいで…」

あのリボーン様が私を好きだなんて…ありえない。ボンゴレファミリーボスの家庭教師、最強の殺し屋のリボーン様がただのメイドの私を…

「嘘じゃねーぞ」

「…っ、いいんですか、私なんかで」

「なまえがいいんだ。これからもオレのために側にいてくれ」

「……はい」

身分違いだと分かっていてもリボーン様の気持ちが嬉しくて。泣きそうになりながらも精一杯笑って頷く。
見上げた彼の顔は幸せそうな、今までで一番優しい笑顔だった。
…リボーン様は自分のためにって仰ったけど、私にとってもこんなに嬉しいことはない。
だってあなたの側にいることは私の幸せだから。


 


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